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アン・ファミーユ(家族とともに)第2部  作者: 湖灯


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【パリが危ない!④(Paris is in danger!)】

 依頼された物が出来たので、部下にその空輸手続きをさせてカールを連れてパリに向かう直前にクラウディから連絡が入った。

「どうクラウディ?」

「メェナードさん。つまりBM(黒覆面)がイラクから姿を消してしばらく経った頃、北部の土木工事現場で同じように黒い覆面を被った背の高い男を現場作業員が見たと言うことです」

「北部?マザーリシャリーフか」

「いえ、クンドゥーズから北東に200キロ離れたタジキスタン寄りの山岳地帯です」

 あの辺りは2000メートルを超える山々の尾根が入り組んでいる地域で、航空機、特にヘリコプターにとっては非常に危険な場所となる。

 つまりアメリカ軍に発見されたとしても、容易に手を出されないポイント。

 しかしアメリカが、この地域の動きを察知したと言う情報は入っていない。

 アメリカは衛星を使って人の動きを監視しているはずだから、大きな工事をしている場合は割と直ぐに見つける事が出来る。

 不審に思ってクラウディに情報の出所を聞くと、同じようにザリバンの動向を調べていたロシアの諜報部員だと答えた。

「ハッキリ言いなさい。自分が思ったことを」

 私が言ったのは、ロシアには大きな諜報機関が2つあると言うこと。

 一つは、旧KGBを継承している『ロシア連邦保安庁』

 もう1つは『ロシア連邦軍参謀本部情報総局』

 どちらもヤバイ奴等だけど、大統領直下の組織であるロシア連邦安全保障会議の更に下部組織にあたる『ロシア連邦保安庁』よりも、ロシア連邦軍直下の情報機関である『ロシア連邦軍参謀本部情報総局』の方が今はヤバイ。

 何故“今”と言う文言が付いたかと言うと、おそらく今の大統領がもしスターリンのような人間であれば軍政も完全に自分の管理下に置いてしまうので軍直下の諜報機関は骨抜きにされてしまうだろう。

 だが今は、そうではない。

 今のロシアの大統領は、スターリンや北朝鮮の大統領のように軍のトップでさえ粛清してしまうほど狂暴な独裁者ではないし、国策で情報に制限を掛けてまで自らの保身を維持し続ける卑怯者でもない。

 だから自由に情報が得られ、そして発信することができる現在でも、国民から一定の評価を得られている。

 クラウディは少し黙っていたが「ロシア連邦軍参謀本部情報総局だと思います」と答えた。

「その諜報員はスペツナズだったと言うことね」

「ハイ」

「よく調べたわね。調査はいったん終了して、直ぐに戻ってきなさい」

「でも、もう少しでBMがメェナードさんかどうか分かるのですよ」

「そこまで分かれば、もう急ぐことはないわ。CIAでさえマダ気付いていない情報だもの、メェナードさんの事だから衛星や無人偵察機に察知されないように何か細工しているに違いないわ。それに最近変な奴らが来て、アナタの力が必要なの!まさかホテルの部屋までカールを連れて入る訳にも行かないでしょう? だから、早く帰って来て」

「承知しましたボス」

 クラウディは少し可笑しそうに明るい返事を返してくれた。

 ホッとした。

 正直言うと調査をマダ続けて欲しかったのだけど、ロシアの諜報機関が絡んでいるとなると話は別。

 おそらくクラウディに接触してきたのはロシア連邦軍参謀本部情報総局の中でもエリートと呼ばれる人物であることは、その本人が情報を得ながらもマダ生き続けていることからも先ず間違いない。

 クラウディに接触してきた意図までは想像の世界になってしまうが、一旦奴らと接点を持った人間の末路だけは分かる。

 それは洗脳によるマインドコントロールと、使い捨て。

 これ以上調査を長引かせれば、クラウディを失うだけでなく、彼女自身の命さえも危ういものとなってしまう。

 幸い私の帰還理由に笑う余裕と、素直に従う判断力は確認できたので完全に奴らの手に堕ちた訳ではなさそうでホッとした。

 人間は、付き合う人間によって自らの生活や性格を変えられてしまう。

 ましてクラウディのように、過去に強い恨みを持っている人間なら尚更。

「いいんですか? あの女をこっちに呼び戻して」

 パリに向かう飛行機の中で機内食を食べながらカールが言った。

「いいの。クラウディは大切だもの」

「メェナードの方は?」

「メエナードさんは、私なんかよりずっと危機管理能力に優れているから安心よ」

「だと良いがな。俺はああいう良い人過ぎるヤツは苦手だ」

「あら、どうして?」

「これはチャンとした統計ではなく俺の人生経験の中での話なんだがな、良い人過ぎるヤツって言う人種は行き詰ってしまったときに自殺に走りやすい。だからあのメエナードって言うヤツの事は俺も心配なんだ」

「なに殺し屋のくせにまともなこと言ってんじゃないわよ。やっぱり私も機内食食べるから、その前のテーブルに抱え込んでいるヤツ寄越しなさい!このソービニヨンブランも私のだからね!」

「えっ、チョッと待ってくれよ」

「いいでしょ、アンタにはシャルドネがあるじゃない。それに肉料理を選択して何故白ワインなのよ!」

「だって、俺はポーランドの殺し屋だからな。だから返してくれよぉ~」

「意味わかんない。却下よ!」

 ポーランド人の多くは、ロシアが大嫌い。

 カールが言ったのは映画『007/From Russia with Love(日本題:007/危機一髪)』でロシアの殺し屋が食堂車でジェームズ・ボンドと食事をとる時に舌平目のムニエルにキャンティの赤を注文するシーンの裏返し。

 ロシア嫌いも、これだけ拘りがあれば立派な物だ。


 シャルルドゴール空港に到着するとDGSIの局員と、パリ支部のルーシーが迎えに来ていた。

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― 新着の感想 ―
[一言]  ロシア、なんつう恐ろしい人達なんでしょうね。  マインドコントロールして使い捨て。  クラウディ、危なかったですね。  機内食で争うカールとサラちやんが和みます。  007、お好きなんです…
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