【パリが危ない!①(Paris is in danger!)】
バラクの死をヤザに伝えた。
彼は狂ったように悲しみの矛先を僕に向けて言った“何故バラクのもとを離れた”のだと。
僕が居れば、みすみすバラクを死なせるようなことはなかった。
しかしバラクが死なない……つまりDGSE(フランス対外治安総局)に捕縛されないと言うことは、すなわちリビアの作戦が成功したことになる訳だから、この未来に支払われる人的な代償は大きい。
まだ治安が戻っていないリビアでの戦乱は、政府軍、反政府軍と、このザリバンだけでなく多国籍軍の介入や部族間の争いも誘発して収集のつかない戦乱となってしまう。
特に国土面積、約176万㎢に対して砂漠の面積が90パーセントを超える約170万㎢にも及ぶリビアでの戦闘は、民間人にとって逃げ場のない戦争となる。
たとえ戦闘のない砂漠に逃げたところで、そこで生きてはゆけない。
いずれザリバンが治安の安定していないリビアに侵攻することは予想できた。
だからグリムリーパーの正体を確かめる目的と共に、それを阻止することが目的の一つだった。
その結果としてバラクを失ったことは僕の失敗。
もしザリバンに潜入する切掛けを作った時の体調がバラクではなく、いつ死んでもいいくらい酷い奴だったら良かったのに。
よりによってバラクのような良い人間に引き合わせてくれた神を恨みたい。
バラクの死によってネガティブに考えてしまったが、ポジティブな面もある。
それは北アフリカ担当で“アラブの春”を仕掛けて伸し上った強硬派の象徴とも言えるあのジュジェイが失脚したこと。
これでPOC内の強硬派たちも、しばらく動きにくくなるはずだ。
クラウディ―の潜入捜査は遅々として進まない。
サラからは時間が掛かっても構わないからと言われて出てきたが、女性の権利が著しく制限されているイスラム原理主義のアフガニスタンでの難しさは分かっていたつもりだったが、実際に体験してみると想像以上。
イスラム教にはキリスト教にある神父や仏教のお坊さんのような者は存在しない。
経典を解釈するのは実力者に委ねられる。
その実力者が経典をどう解釈するかによって、住む社会が変わる。
かつてのイラクやリビアのように女性の権利が尊重され、教育や服装も自由に選べる社会もあれば、イランやこのアフガニスタンのように著しく制限される社会にもなる。
「よう。最近この辺りをうろついているようだが、探し物か?」
その日、目をつけていたザリバンのアジトがあるらしい地域を歩いていると、声を掛けられた。
一瞬ザリバンかと思いギクッとしたが、コイツはザリバンとは違う白人の男。
だが只者でないことは、その体格から分かる。
まるで太陽の光を浴びたことが無いように思えるくらい白すぎる肌に高い鼻、それにスキンヘッドに鋭い眼差し、おそらくコイツはロシア人。
しかも観光客ではなく軍人。
何故軍人がこんな所に……そうか、スペツナズ。
つまり奴もザリバンのアジトを探していると言うことか。
「ジュジェイが来たわ!」
午後にパリ支局のルーシーから電話があって、開口一番ジュジェイが支局に来たことを伝えた。
正直、何をしにパリに来たのか驚いた。
失敗した強硬派のメンバーは、穏健派の手によって比較的戦争とは縁のない僻地の支局に飛ばされることが多い。
私はてっきり太平洋の小さな島国周りに飛ばされるとばかり思っていたので驚いた。
しかもルーシーの情報では、ジュジェイの上には我がPOC以上にリビアへの侵攻を断念せざる負えなくなったザリバン側の武闘派が差し向けた最悪幹部が付いているらしい。
「目的は何なの?」
「分からない。でも何か悪いことが起きそうな予感がするの」
ルーシーでなくても、その予感はして、それは正しいと思う。
落ちぶれたPOCの強硬派と、ザリバンの最悪幹部の組み合わせがパリに来た目的は、おそらくリビアでの仕返しテロ。
いくら嫌いだからって、POCの仲間を罠にはめるわけにはいかない。
……ひょっとしてメェナードさんは、ジュジェイを罠にハメる事が目的だったの?
たしかにリビアでの取引が上手くいっていれば、今頃は大きな戦争になっているはず。
そうなれば軍人はおろか、民間人の被害も並大抵ではないことは確実。
メェナードさんはPOCをも敵に回して戦争を回避させた!
しかし、こうなる事も予想できたはず。
私はPOCを裏切る訳にはいかない。
それは幹部だからではなく、私には未だPOC内でやらなければならないことがあるから。
そのことはメェナードさんも分かっているはず。
なのに、何故!?
フランスに、彼らが企てるテロを防ぐことができる人物が潜んでいると言うことなの?
“いったい、それは誰……”




