【シェエラザード作戦とメェナードさん(Operation Scheherazade and Mr. Menard)】
メェナードさんの捜索にクラウディを出して、もう1ヶ月になるが未だに何の手がかりも得られない。
そんなことは最初から分かっている。
ザリバンの組織の中に深く入り込んでいるメェナードさんの消息が、そんな短期間で分かるのならザリバンの首領であるアサムはとっくの昔に暗殺されているだろうし、そもそもザリバンと言う組織も崩壊しているはず。
だから気にしないように努めているが、メェナードさんが案件をジュジェイに譲ったリビアで何だかキナ臭い匂いが漂いはじめた。
フランス政府の通信を傍受して得られた情報は意外にも少なく、現時点で分かっているのは“シェエラザード”と言う作戦名と、作戦を実行するために既にフランス陸軍外人部隊の特殊作戦実行班であるLéMATが派遣されたこと、更にその作戦のキモとなるエージェントがフランスの諜報機関であるDGSE(対外治安総局)からリビアに派遣されたことくらい。
全ての情報に置いて肝心の“いつ”“どこで”“誰が”“何を”“何故”“どのように”と言う5W1Hは分からない。
おそらくそのようなことは今回選ばれた優秀なエージェントが、直接現地に出向いて説明するのだろう。
名前は明かされていないが、外人部隊のLéMATには私が開発に携わった『模擬市街戦施設』のインポッシブルクラスを初挑戦でクリアした兵が居るらしい。
しかもその兵は全く予備知識も何もない外国からの入隊希望者だったというから驚いた。
私もたった1回の挑戦でインポッシブルクラスをクリアしたが、開発者だから街の構成とか何が何処に収められているかとか物理的な要素やランダムに登場する様々なシーンについても、そのシステム自体を作った本人なのでパターンを読み解くことができた。
言ってみればズルをしたようなもので褒められたものではない。
次に達成した隊員についても情報は乏しく、士官だと言うことと20回近くかかってようやく達成できたと言うことくらい。
私の計算では20回前後でクリアできる隊員は超ハイスペックな部類に入り、そのような隊員の割合は陸軍の歩兵部隊を対象とした割合でも10万分の1となる計算だ。
これは単に銃の命中率だけの精度じゃなく、注意深い行動動力や洞察力に観察力の他に、想像力も必要になるからこんな割合になる。
私の推理ではたった10人ほどのLéMATと言う組織には、その10万分の1しかいない優秀な隊員が2人も居ることになる。
たった10人規模のLéMATが入ったところで戦局を変えられるとは到底思えないが、あの野心だけ秀でたボンクラのジュジェイに案件を渡して、リビアに進出するザリバンの部隊が作戦を成功できるとも思えない。
そんなことはメェナードさんも十分承知しているはずだが……ひょっとしてメェナードさんはワザとジュジェイに失敗させて、その地位を貶めたうえで自分が乗り出すつもりなのだろうか?
それはそれで素晴らしい戦略なのだと思うけれど、メェナードさんの性格を考えるとそんな野心めいた事をするとは思えない。
「ちょっとプルシェンコさん! このフローチャート間違っているわ‼ 直ぐに修正して!」
「エミリア!何度言ったら分かるの‼ このタイプの20㎜砲弾には特殊な認証システムを入れてあるんだから余っているからって同じ車両だからと言っても他国には転売できないのよ!」
「あーっ、ダニー! この文章中に似たような表現を何度も繰り返すの止めなさいって前にも注意したよね! 一回言われたら直しなさい‼相手に見下されたら、この仕事は旨くいかないのは分かっているでしょうね!」
「誰!?この書類を綴じたのは? ホッチキスの向きが曲がっているでしょう!キチンと綴じなきゃダメでしょう。やる直しなさい‼」
ホンの少しだけ向きの曲がった書類をゴミ箱に投げ捨てると、そのゴミ箱の傍に人が立っていることに気が付いた。
「だいぶイライラしていますね。そんなにメェナードさんの事が心配ですか?」
「カール、何しに来たの!? 仕事中はオフィスの外で待機するように言ったでしょう!」
「いや、腹が減ったんで……」
腹が減ったと言われて朝からズット下を向いて作業をしていた顔を上げる。
時計の針は、もう2時を回っていた。
「お腹が空いたのなら勝手に食事に行けばいいじゃない!」
ワザと皆にも聞こえるように言った。
私が凄いスピードで仕事をこなしている上に、ガミガミ言うものだから誰も食事に出ていないのだ。
「それが……」
「それが、なによ!」
「財布を忘れてきちまったんで」
「携帯やカードのキャッシュレス決済があるでしょう!?」
「現金以外は信用できないたちでね」
「んっもぉ~。じゃあ、食事に行くわよ! みんなも一旦休憩して食事にしましょう」
なんだかんだ言っても、この男はメェナードさんが見込んだだけのことはあって優しい。
現金以外は信用ならないなんて下手な嘘を言って、私を誘い出すと共に私のイライラで疲弊していたオフィスの皆も助けたのだ。
私のボディーガードのくせに、他のメンバーにも好かれているのは彼がエロカールだけではない証拠。
そしてこのエロカールのペースに私自身も少しだけ癒されているのもまた事実として認めざるを得ない。
数日後、待ちに待ったクラウディから新しい情報が届いた。
メェナードさんは“黒覆面”と名乗りザリバンの新しい基地建設に携わっているらしいと言う。
クラウディの情報と並行するかのように、リビアでの情報も入って来た。
ザリバンのためにジュジェイが用意した軍事物資は、港の倉庫に保管されたまま何者かによって爆破された。
受け渡し前の状態で、しかも金は受け渡し後に支払われる契約。
メェナードさんの仕事が上手くいっているから、金額が左程大きくないからと、相手を舐めてかかった故の失態。
これでジュジェイの失脚は先ず間違いないが、その後捕獲したザリバンのリビア侵攻を任された司令官バラクは捕縛後に死亡し、同じく副司令官も捕縛したことによりザリバンはこの地区の攻勢を諦める結果になった。
結局、そこに至るまでメェナードさんは何もしなかった。
何故?
もしかしたら、メェナードさんの目的は、もっと違う……。
考えるだけで、背筋がブルっと震えてしまった。
この物語は私の他の小説グリムリーパーシリーズ『フルメタル』などの裏話的な要素を多く含みます。
今回のシェエラザード作戦は、『フルメタル』もしくは『グリムリーパー』の【シェエラザード作戦】を読んで戴くと詳細が分かります。(『フルメタル』はグリムリーパー(表)の全てのシリーズを1つに集約したお話しです)
もしよかったら、表の方も是非読んでみて下されば幸いですm(_ _"m)




