【メェナードさん消息不明!②(Mr. Menard is missing)】
本当は私自身が行きたかったが、仕事の都合で昔のように自由が利かない。
同じPOC内にいる強硬派が、あちこちの国に戦争の火種を巻き散らすため、てんやわんや。
私は特に戦争を煽って武器が売りたいわけではない。
むしろその逆。
安全保障に気を配り、各国を結び付けて戦争や紛争に巻き込まれないようにしたい。
1つの国が地域で孤立してしまうと、戦争と言う悪魔に狙われる。
過去においてイスラエル、イラク、リビアがそうだった。
逆に北朝鮮は孤立しているようで、中国とロシアと言う友好国が居るために超強硬路線を貫いても西側諸国に制裁を受けることはない。
近隣に友好国を作り、万が一の時に武器や弾薬を供給し合える状況を作っておくことが重要。
武器を売るのは、そのための装備を整えるため。
もちろん間違った政策を貫く国々には、要請があったとしても何も売らない。
今問題なのはロシア。
隣国ウクライナやジョージアの西向きな政治体制に危機感を募らせ2008年ジョージアの南オセチアを、そして2014年にウクライナでクリミアを併合したうえにドネツク州とルハンスク州に武力介入し、両地域に傀儡政権を打ち立てたことで両国のみならず近隣諸国のロシア離れが急加速してしまった。
特にウクライナのロシア離れは深刻な問題で、なにしろ原子力発電をはじめ兵器の開発やメンテナンスなどの工業技術力はロシアより高い分野も多く世界最大の輸送機『ムラーノ』の開発&制作もウクライナ一国の技術力でやってのけたのだから。
私は今の段階では直接ロシアと交渉できる権限は与えられていないが、ロシア担当者のスケジュールを見ながら自身の仕事を調整し、何かにつけて同行させてもらっている。
これは武器を売るためではなく、将来訪れるロシアの孤立化を避けるため。
それにしてもメェナードさんの事が気になる。
クラウディは、その日のうちにロシア南部にあるシェレメチェボ国際空港を出発して、イランのエマーム・ホメイニー国際空港に降り、そこから陸路でアフガニスタンに向かった。
イランも目的地であるアフガニスタンも、イスラム原理主義の国で女性に対する規制が非常に厳しい国。
本来なら男性でありメェナードさんと面識のあるカールを向かわせたかったのだが、カールはアフガニスタンの主要言語であるパシュトー語もタリー語も話せない。
その点、クラウディはイラク出身なのでアラビア語は母国語になる。
パシュトー語とアラビア語は、スペイン語とイタリア語以上に近い言葉なのでクラウディなら何とかなるが、念のためにイラク政府関係者と言う肩書の偽パスポートを持たせておいた。
サラに言われて直ぐにイラクに飛び、そこから陸路でザリバンの本部があるアフガニスタンに向かった。
カーリングラードではスカーフさえも身に着ける事が無かったが、今回はイスラム原理主義国への訪問なのでアバヤを着て頭からヒジャブを被る。
イランに到着した翌々日に、ようやくバスで国境を越え、その日は国境近くのアフガニスタン西部の町ザランジに到着して“East Diamond Hall”と言う小さなホテルに泊まることにした。
とりあえずサラにアフガニスタンに入ったことを伝える。
直ぐに朗報を伝えたいのだが、まだ競技場に着いたばかりでスタートラインにも届いていない状態では、これ以上の事を伝えることは出来ない。
サラから、先ず政府機関に通うように言われた。
政府と言っても、この国の政治を任されている奴らはアメリカの後ろ盾で成り立っている傀儡政権で親しくしても意味がないと思っていた。
しかしサラが言うには政府の治安維持を管理する部署の役人と仲良くなれば、敵対する……すなわち反政府勢力であるザリバンの情報も少しずつ得られる。
得られた情報の断片をパズルのように組み合わせて行けば、そのうちにメェナードさんに繋がる情報も見えて来るはずだと言う。
そして決して焦るなと釘を刺された。
焦って表に出過ぎれば、警戒され情報も得にくくなるばかりでなく、コチラの正体さえも暴かれかねない。
なるべく早くメェナードさんを見つけて欲しいが、それよりも大切なことは私が無事に戻ってくることを最優先して欲しいと言われた。
こんな私のことを心配してくれるサラの為にも、頑張らなければならないと勇気をもらい電話を切った。
次の日もバスに乗り、首都カブールに向かった。
ヨーロッパに住んでいるとトリムや地下鉄をはじめとした電車を当たり前のように使っていたが、鉄道網を構築するにはかなりの金を投入する必要があり、そのような物につぎ込むだけの資金のない国には鉄道がない。
ここアフガニスタンも、そういった国のひとつ。




