【メェナードさん消息不明!①(Mr. Menard is missing)】
「サラFM(first manager)ウクライナ国防省のゼロンスキー様からお電話です」
「OK、5番に繋いで頂戴」
「承知しました」
「Привіт(プリビット=こんにちは)」
ゼロンスキー氏からの電話は西側の強力な武器を購入できないかという内容だった。
ウクライナは2014年にロシアによるクリミア併合に続いて、ドンバス地方の分離独立もロシアの画策で行われて痛手を被っている。
そして主要装備はロシア製。
特に戦車や歩兵戦闘車、戦闘機などは“型落ち”の物を装備しているので、まともに戦ったのでは勝ち目がない。
それは既にドンバス紛争の際に証明されている。
話を聞きながらも、いまのところは打つ手がない。
東欧支部第一部長に就任したと言っても、ロシア局長とはまた別なのだ。
私に任されている権限は北欧3国、バルト3国からポーランドからルーマニア、モルドバまでのライン。
ウクライナにも品物は収めるが、あくまでもココはグレーゾーン。
あまりロシアを刺激しないような関節装備しか提供できない。
ゼロンスキー氏の話を聞きながら、パソコンを操作して世界的規模の軍事物資の物量を探る。
工業力の高い先進国なら、自国内での武器弾薬の生産量。
輸入に頼る発展途上国なら、その輸入量を見れば紛争や戦争が起こる前兆が見えて来る。
特に我々POCは各テロ組織とも取引をしているので、テロのターゲットさえも予想が可能となる。
パソコンを眺めていて、ある異変に気が付いた。
それはザリバンからの受注状況。
イラクやシリアでのザリバンからの受注は下火になっている反面、リビアに1000人規模の武器弾薬が持ち込まれる予定が組み込まれていた。
リビアで何かが起きる。
しかも担当者欄にはメェナードさんではなく、あの忌まわしい強硬派のジュジェイの名前が入力されていた。
ザリバンは保守的な体制だから、信用できるものとしか取引はしない。
メェナードさんは、それを開拓した。
なのに何故、ジュジェイ?
「――ですから、なんとしてでも我々は主力戦車を今のT-72からレオパルドⅡに変更したいのです」
「分かりますが、いまロシアを刺激すると難しい局面に陥ることも予想されますので、その点については前向きに検討してみますが、くれぐれも情報が漏洩することのないようにお願いします」
「ありがとうございます」
ゼロンスキー氏は、そう言うと電話を切った。
この施設のセキュリティーは高い。
特に5番はホットライン。
だが、もしゼロンスキー氏が迂闊に他の国や業者に同じことを依頼したとなれば、ロシアは必ず気付く。
KGBは名目上ロシアでは消滅したことになっているが、名前をFSB(ロシア連邦保安庁)に替えただけで今も諜報活動は行っている。
それに友好国のベラルーシには今もKGBは残っている。
クリミアを実効支配したとはいえ、帝政ロシア時代から観光地として開発されたクリミアでは軍港も小さいしセバストポリは黒海の先端部にあり守りにくい。
ドネツク州のアゾフ海に面した工業地帯マウリポリは喉から手が出るほど欲しいに違いないが、ドンバス紛争で得られたのはドネツク州の1/3程度でマウリポリは得られてはいない。
いずれいつの日か必ずロシアはココを狙ってくる。
それにしても気になるのはメェナードさんの動向。
イラクに居るザリバンへの武器輸出が下火になったのは、イラクの平和を意味するので歓迎したいが、それなら今度は国軍や警察への輸出を増やすはず。
それをせずに、リビアへの進出。
しかも、あのジュジェイに担当させると言うことは、何かある。
ひょっとしてメェナードさんはもうイラクに居ないのか?
そしてもしかして、たった一人でザリバンそのものを潰すつもりなのか?
「クラウディ、直ぐにイラクへ飛んでメェナードさんの動向を探って!」
「承知しました! ですが、護衛はどうします?」
「あんまり気乗りしないけれど、あのポーランド人に頼むしかないわ!」
私の言葉を聞いてクラウディはクスッと笑い、直ぐに電話を掛けた。
「カール、私はこれからイラクに飛ぶからサラの護衛は頼んだよ。くれぐれも粗相のないようにな!」
「粗相ってなんだよ!俺が何の粗相をするって言うんだ?」
「エロカールだからだよ。私の居ない間にサラに指一本でも触れたら、承知しないからね」
「それじゃあ列車や飛行機から降りるときにも、手を貸さねえでいいのか?」
「屁理屈を言うな!お前の、そいうところが信用ならないんだよ」
クラウディはそう言うとカールの頭を叩いて部屋を出て行った。




