【裏切り行為②(betrayal)】
「……」
バラクは直ぐには答えなかった。
だからもう一度聞いた、リビアで第2のハイファやナトーを作りたいのかと。
バラクはようやく答えた。
「嫌だと」一言。
「なら、これから言う事を聞きてくれるか?」
「ああ」
僕はバラクに作戦を打ち明ける。
リビアで本格的に戦いを繰り広げるための武器弾薬は、ジュジェイに頼んだが上手く調子を合わせてヤツを信用させること。
そして武器弾薬は船便で指定した倉庫に届けてもらうこと。
武器弾薬の支払いは、その倉庫から受け取った時に支払うこと。
「でも、それじゃあ結局、武器弾薬を買うことになるじゃないか。そうなれば僕がどう頑張っても戦争は避けられない」
「大丈夫。倉庫の番はジュジェイにさせておけ。そして君は引き取りに行かない」
「それは約束不履行となり、ヤザ達にも迷惑が掛かってしまうのではないか?」
「大丈夫だ、バラク。君もレイラも、引き取りに行くことが出来ない状況になる」
「引き取りに行けない状況とは……もしかして!」
「そう。僕が情報をリークしておく」
「でもリビアにはフランス軍が駐留しているが、郊外の南にある砂漠に本拠地を置いているから南の地中海側にある倉庫なら、取りに行けるのではないか? それに情報が漏れていると分かればジュジェイも倉庫には物を届けない」
「大丈夫、リークする情報は君がリビアで何かを行うために来たと言うことだけだから心配ない」
「その程度の事では何も止められっこない。駐留しているフランス軍は人数も少ない上に装備も貧弱だから。僕たちは自由に動くことが出来る」
「だが、取引が実行される頃にはフランス外人部隊が来る」
「外人部隊と言っても、数は少ないだろう?」
「ああ、よくて2個分隊……いや1個分隊かも知れない」
「そんな数で、僕たちを抑えられるとは到底思えない。いくら僕が取りに行けないと言っても、副司令官のレイラが承知しない」
「フランス外人部隊を甘く見てもらっては困る。彼らは近々LéMATと言う特殊部隊を発足させる」
「だからと言って……」
「おそらく、そのLéMATに、ナトーは軍曹として抜擢されるだろう」
「ナトーが‼?」
「ああ。彼女は女性隊員を1世紀近く採用していない外人部隊に、将官用のテストを受けて合格したばかりでなく、コルシカの第一空挺団による地獄の実技訓練でも常にトップの成績を続けている。あそこはトップ卒業者には軍曹の階級が宛がわれるからLéMATは必ずナトーを迎え入れる」
「もし、迎え入れなかったら?」
「ありえない」
「何故?」
「ナトーには、特筆すべき能力があるからだ」
「仮にナトーがLéMATに抜擢され、このリビアに来たとして、どうして僕やレイラが港まで引き取りに行けなくなるんだ? 少々警備がきつくなるだけで抜け道は幾らでもあるだろう?」
「ない」
「何故、そう言い切れる!?」
ナトーはサラの妹。
外人部隊が用意した将官用のテストは、大学卒の知識と学力と軍務経験を必要とする内容。
サラのように小学校卒業後にいきなり一流大学に合格したのも凄いが、一度も学校に行ったことがなく軍務経験もザリバンのテロ組織と言うだけで、学力の他に専門的な知識も必要になる軍の試験をクリアしたナトーは驚くべき才能と言う他ならない。
バラクの問いに、僕は「ナトーの素質がそうさせる」と答えた。
ナトーなら屹度、バラク包囲網が敷かれた中で何かに気付くだろう。
「理屈になっていない。ナトーは確かに賢い子だった。だからと言って、君が思うように都合の良い活躍が出来るとも思えない。戦場ではお互いが出会う確率よりも、すれ違う確率の方が高いのは君も知っているだろう」
「ナトーは誰が育てた?」
「……それはハイファ姉さんとヤザ」
「ヤザはとにかくとして、君のお姉さんに育てられた5歳までの記憶はナトーの心の基礎部分として今も強く残っている」
「でも、それとこれは」
話が違うと言いたかったのだろうが、僕はバラクの言葉を遮った。
「そして君はハイファの弟。つまりナトーの叔父にあたる」
「……」
「一緒に遊んでやったことは?」
「ある。まだ大学生だったから姉さんの家には、しょっちゅう遊びに行って、ナトーと遊んでいた」
「君がナトーに掛けてくれた時間を、ナトーが返さない訳がない。そうだろう?」
「……ああ」
「信じろ! そしてナトーに委ねろ! 戦争から抜け出す覚悟を決めろ!」




