【悪夢(nightmare)】
グリムリーパーが健在と言うことは、ナトーはグリムリーパーではなかったということになる。
なにしろナトーはいま、フランスの外人部隊に居るのだから。
これでサラにナトーを紹介できる!
そう思うと居ても立ってもいられないくらい、胸がワクワクしてきた。
こんな所にも長居はしたくない。
要塞基地なんて、どうでもいい。
サッサと抜け出して、アメリカ軍にアジトの事を話して、あとはサラを連れてフランスに行ってナトーに合わせれば全てがハッピーエンド。
遠い道のりだったが、ここに来て良かった。
しかしヤザの発した次の一言で、心の中に現れた太陽は一瞬にして厚い雲の中に隠れてしまう。
「まだ初代の足元にも及ばないがな」
「二代目なのか?」
「ああ」
「いつまで?」
「いつまでとは?」
「初代が、……その、引退したのは」
「さあな、そんなこと俺にも分からんし、いちいちオマエに教える事でもない」
ヤザはそう言うと機嫌悪そうに俺に背中を向けてどこかに消えた。
僕の言葉に機嫌を損ねた訳ではない、おそらくはその逆。
僕の問いに答え始めるときヤザの目は一瞬、復讐を忘れた優しい目になっていた。
あの目は優しいだけではない。
慈しみに満ちた、まるで我が子を思うときの親の眼差し。
機嫌を悪くしたのは、おそらく一時でも復讐心を忘れてしまった自分自身にカツを入れるためワザと機嫌を壊すように努めたのだろう。
“空しい!”
それだけ大切な我が子であるならば、こんな戦場じみた場所に身を置かないで直ぐにでもフランスに飛んで行ってナトーを抱きしめてやればいいのに。
ヤザの一言で一瞬の期待が持てたのも付かぬ間、次の一言と態度でまたナトーに関しての事は深い闇に包まれてしまった。
まるで星ひとつない暗い夜に霧が掛かった墓場を彷徨い歩くグリムリーパーを追いかけているように……。
その夜、夢を見た。
深い霧が立ち込めた墓場でグリムリーパーを追っていた僕は、ようやく彼女を捕まえる事に成功し、一旦墓の中に押し込めた。
墓の中に一定時間閉じ込めた後、太陽の日を浴びせるとグリムリーパーは浄化され、ひとりの人間に戻る。
そろそろ浄化の時。
天頂にギラギラと輝く太陽の下、僕は彼女を押し込めた墓を開く。
棺桶の隙間が空き、グリムリーパーが隙間から霧を吹きだす。
無駄な抵抗。
この蓋を開ければ日の光を浴びてグリムリーパーは死ぬ!
ところが蓋がナカナカ開かない。
ガタガタと蓋を揺らしながら少しずつ隙間を広げてゆき、ようやく蓋を外す事に成功したとき彼女は最後の悪あがきで、ありったけの霧を飛ばす。
「そんなことをしても、もう無駄だよ。太陽は天頂に輝いているのだから」
「そうかしら?」
彼女が初めて僕に声を掛けたあと、急にあたりが戦場のように暗くなった。
ギラギラと輝いていたはずの太陽は、いつの間にか青く暗い夕日のようになり、激しい熱風が僕の体を吹き飛ばそうとする。
「何故だ!? 何故こうなる??」
「血よ」
「血!?」
「そう。いくら浄化しようとも、私にはグリムリーパーとしての血が流れているから」
「だから、いくら体の表面を太陽の日で焙っても、死なないというのか!?」
「そのとおり。私の中からグリムリーパーを追い出すには、先ず私の心臓に銀の銃弾を当てなければならない」
「そ、そんなことをすれば、彼女は死んでしまうじゃないか!」
「ふふふ」
グリムリーパーは不敵に笑う。
「なぜ笑う!」
「捕獲者を前にしているのに、お前が私の中に居る彼女の心配をしているからよ」
「捕獲者……しまった」
やがて僕の体はグリムリーパーの黒い霧の中に包まれた。
「あ゛ぁ~~~~‼」
夢。
目が覚めたとき、僕は霧が立ち込める森の中に居た。
将来この場所がザリバンとアメリカを中心とした自由主義諸国との決戦の地になる。
その時こそ、必ずグリムリーパーが誰であるのかがハッキリと分かるはず。




