【ブルカの女(Woman in burqa)】
勇気のある女だと思った。
なぜなら階段での戦いでは必ず上に居るほうが有利とは限らない。
格闘戦に於いて上に居る者は、おおよそ上半身は使えないから、足での攻撃のみになる。
本来地面をシッカリ踏んで体重を支えるべき足を振り上げるのではなく、良くてローキックほどの高さしか上げられない。
しかも足場は段差が付いていて狭い所なので、体重を支えるべき下半身自体に力が入りにくく左程威力もない。
逆に階段の下に居る僕は蹴りでの攻撃には難があるものの、その分下半身は安定しているし、攻撃は上半身のみに近いものの相手の足さえ取れば相手に決定的なダメージを与えることもできる。
上に居るものの攻撃で注意すること言えば、捨て身の体当たり攻撃しかない。
なのにコイツは、どうだ。
上にいるくせに、まるで足を手のように器用に使いやがる。
体重こそ左程乗っていないモノの、まるでカミソリのようにキレは鋭い。
ナイフと表現しなかったのは心臓や筋肉の筋を一突きで切るほどの威力は無いが、古傷を無数に作ってダメージを与えていく残忍さと、油断していると頸動脈などを切られる恐れもある。
女の足による攻撃を何回もかわしているうちに、ついにチャンスが訪れ、僕は彼女の足を掴むことに成功した。
僕が不用意に階段を登らない限り、こうなったらもうコッチのものだ。
ただでさえ下半身が不安定な上階の相手にとって、片脚を取られることはワニに噛まれたも同然。
相手は僕が次に仕掛けるであろうデスロールを大人しく待つ以外何の手立てもない。
と、思っていたが、それは間違いだった。
女はこうなることを予想していた。
それが何よりの証拠に、取られた手をまるで階段の一部のように使って僕を超えて行こうとする。
階段上で身長190センチ近い僕を飛び越えると言うことは、2メートル半の高さから僅か25㎝幅の段差の付いた板の上に着地すると言うこと。
なんという大胆さ!
そして、なんという度胸!
万が一後ろを取られてしまえば僕の95キロの体重でも、彼女は簡単に持ちあげてしまうだろう。
これは重心の位置が高低差によって狂わされているから仕方ないが、バックドロップなんか掛けられればナトーの正体を突き止めるどころか、2度とサラにも会えなくなってしまう。
それを避けるため僕はワザと前に、つんのめる様に身を伏せ、そして階段の角に当たって痛いのを我慢して体を回転させて仰向けなった。
これなら攻撃こそ出来ないものの、防御だけは出来る。
下を見ると案の定女が攻撃をせずに俺の方を向いていた。
ブルカを着ているので、その表情はまでは見えないが、小癪にも指で僕に向かってくるように指図していた。
なんだこの女、さっきから僕はまるでヤラレっぱなしじゃないか!
なんとか体制だけでも再逆転を狙って、僕は階段の手すりに腰を下ろして滑り降りながら女を攻撃することにした。
我ながらバカな作戦。
滑り降りているので、攻撃するにしても力は入らないうえに、相手から攻撃を受けるとあっと言う間にバランスは崩されてしまう。
ところが彼女は滑り降りる僕には手を出さずに、見送ってくれた。
ラッキー♪
と、思う間もなくロビーに到着して振り向く直前の僕に対して彼女は階段を駆け下りてきた勢いを乗せたドロップキックを放ってきた。
ロビーにあった木製の椅子を巻き沿いにして吹っ飛ばされる僕。
最後は一番端に置いてあったソファーの背もたれに引っ掛かって1回転。
凄いキックを食らったものだとソファーの上に顔を出した途端、まるでその首を刈るような鋭いミドルキックが飛んで来た。
迂闊に顔も出せない状況。
だけど彼女の位置は掴めた。
すぐさまソファーの奥に手を伸ばして持ち上げたまま一気に前向きに走る。
ガツンと女に当たった抵抗アリ!
あとは電車道!
このまま押し込んで、女を壁に打ち込めば僕の勝ち。
彼女がそれを避けるためには倒れ込むしかないが、このスピードから自らの意志で倒れ込むと言うのもナカナカ勇気がいる事だし、相当なダメージも覚悟しなければならない。
ドスン!!
ソファーを壁まで押し込んだとき、ソファーだけではない手ごたえを感じた。
可哀そうだが、僕の勝ち。
力を緩め、ソファーを離す。
!!
しかしそこに居たのはブルカの女ではなく、ホテルの帽子掛け。
女は!?
振り向こうとした僕の膝が急にガクンと折れたかと思うと、腰が何か柔らかいものの上に乗り、僕は頭から床に打ち付けれた。




