【バラク小隊①(Barack Platoon)】
無事バラクの部隊に入れたのは良かったが、ここからヤザを探すのは容易ではないだろう。
だから先ずはもう一つの目的の処理から始めた。
もう一つの目的、それはナトーの居る赤十字難民キャンプに内通者を作ると言う事。
誰でも良いと言うわけにはいかない。
人格者であり、有能であり、いざというときに役に立つ人間でなければならない。
簡単に手に入る内通者は簡単に裏切る。
目を付けたのはミランという医師。
経歴を調べたところ彼は非常に優秀な医師であり、柏木サオリにも近い間柄でナトーに勉強を教えていてナトーからの信頼も厚い。
我々POCという組織は有能な人材を集めてはいるが、軍隊ではないので軍医も居なければ衛生兵も居ない。
だがこのまま強硬派が支配を続けるなら、確実にPOCの人員自体が紛争に巻き込まれる可能性は高い。
特にナトーがグリムリーパーであった場合、その公算はより高くなる。
ナトーやサラの身に何か起きてからでは遅い。
優秀な医師が常に傍に居ることで、万が一の時に助かる可能性は非常に高くなる。
SISCONの柏木サオリをPOCに取り込むことは出来ないが、将来的にこの男をPOCに取り込んでおくことはかなり有意義なことになるだろう。
アパートの通路で昼寝をしていたところ、イワンたちがドタバタと砂ぼこりをまき散らしながらバラクの部屋に急いでいた。
「どうした。廊下は静かに歩くものだぞ」
「やべえ! カルサイのアジトがアメリカ軍に見つかった‼」
イワンは、そのまま執務室の有る部屋のドアを開けて、まるで真っ黒な煙を噴き上げる蒸気機関車がトンネルに入って行くようにドアの向こうに消えていった。
重い腰を上げ、降りかけられた埃を払い落してから私もバラクの部屋に向かう。
さっきから気になっていたので一旦アパートから出ると、上空には数機のヘリが飛んでいた。
UH-60。
アメリカ軍のブラックホークだ。
「アメリカ軍の戦力は?」
「最初は7~8人だったですが、今は応援も来て20人程居ます」
「で、カルサイ達はアジトから応戦しているのか? それともアジトの周囲に散らばって応戦しているのか?」
「……アジトの周辺です」
「敵の攻撃は?」
「奴等はカルサイ達の反撃に怖気づいたのか、俺が見たときには攻撃を止めて周囲を取り囲んでいるだけでしたが、ありゃあ屹度応援を待って後で一気に攻めるつもりじゃねえかと思う。だから、それより先に行かねえと」
2人の会話は部屋の中に入る前から聞こえていた。
私は部屋に入らずに、バラクの決断を窺っていた。
「アメリカ軍は、怖気づいたりしない」
「……でも」
「応援を待っているのは確かだろう」
「じゃあ、今のうちに。今ならカルサイ達を助けることが出来ます。行かせてください!」
「……罠かも知れん」
「罠!? い、いったい、どういう事なんです!?」
「BM、そこに居るんだろう。どう思う? 意見を聞きたい」
BMというのは、バラクが付けた私の名前。
彼は私の本名を聞かなかった。
まあ聞いたところで、その名前が本当のものなのか疑わしいと思ったのだろう。
なかなか賢明だ。
「私も罠だと思います。カルサイ達は既に袋のネズミ。攻撃しようと思えば容易く片付けることが出来るでしょう」
「だったら、なんで応援を待っているんだよ!」
イワンが噛みついてくる。
「応援を待つ振りをしていれば、お前のように血気盛んな仲間たちが押し寄せてくるからだ」
「でも、応援が来なければ俺たちの方が数では勝っている。だから多少の犠牲は覚悟して助けに行かねえと、ねえ隊長。そうでしょう?」
バラクは少し考えている振りをしてから、既に応援が来ていたらどうする? と言った。
「応援が来ているって、そりゃあいったいどういう事なんです?」
つまり想定されるアメリカ軍の作戦は、こうだ。
カルサイ達を見つけたアメリカ軍部隊は、その時点で本部に連絡を取って、指示に従って行動している。
多くの人数を一度に動員しようものなら、上空で見張っているブラックホークに見つかる。
このアパートから飛び出せばここにアジトがあることがバレるし、どこかで待ち合わせして助けに行こうとしても、そのルートは敵に筒抜けになるから決して不意打ちは出来ない。
そしてアメリカ軍の応援の部隊はカルサイ達を追い詰めている部隊とは合流せず、もうひとつ外側を取り囲んでいるとしたら武器を持って駆け付けるザリバンの部隊までも取り囲まれて一網打尽。
「で、でもヘリだって、人間が見ているのだから、見落とすってことも……」
「ない。赤外線センサーと通信機能を備えていれば、たとえヘリのクルーが見落としたとしても本部で同じ映像を見ている者たちが見逃さない」
「じゃあ、カルサイ達を見殺しにしろとでも言うのか!? チクショウ! グリムリーパーさえ居てくれたら……」
イワンが嘆くのも無理はない。
たった1人で、弾のある限り敵兵を撃ち殺すことが出来るグリムリーパーが居れば、このような状況でもなんとかなる。
でも彼女……いや、奴はもういない。
いま、紛争ではなく本当の戦争が東欧のウクライナで行われています。
つい先日、国連のグテーレス事務総長がサポリージャ原子力発電所の安全確保のためウクライナのゼレンスキー大統領と協議しました。・・・あれ!?プーチンとは協議しないの??
戦争は狂っています。
私はたとえゼレンスキー大統領とプーチン大統領の双方が原発の安全を約束し合ったとしても、それは殆ど意味のない事だと思います。
何故なら不可抗力にしろもし原発で何かあったなら、お互いに「相手側のせいだ!」と主張し合うだけでしょうから。
どちらかの肩を持つような立場が取れない時にでも、原子力発電所で万が一にも事故が発生した場合、大惨事になることは誰でも分かるはずです。
私は、こういう場所にこそ、まったく中立的な立場で国連軍を派遣すべきではないかと思います。
そして砲弾が届く範囲、半径40㎞を双方の軍隊が立ち入ることが出来なくして、もちろん航空機やミサイルの上空通過も禁止し、ミサイル防衛システムも構築します。
こうして原発の安全を確保するとともに、徐々に国連の関与を高めていけば、平和的な話し合いの可能性も高まるのではないでしょうか?
武器を供与するのではなく、武器を持って戦い合う事を抑制して、早くウクライナに平和が戻ってきて欲しいと願います。