【アフガニスタンへ(to Afghanistan)】
7枚のカードを見る。
英語では、まともな意味にはなりそうにない。
このカードが全部小文字で書かれていたならzarebanに近い線も見えるが、何らかのメッセージであったなら僕の正体を知っている者の仕業。
そうなると彼らと戦わせて、ザリバンを名乗る意味は全くない。
つまりこのカードは彼ら7人を倒して、且つカードに気付いた者のみに与えられたメッセージと言うことになる。
つまり、解けるか解けないかを試されているわけだ。
母音が3つにNを含む子音が4つ……この特徴はSINAGAWAとかKANDAとか日本の駅表示で使われるローマ字に似ている。
GAREZAN(ガレ山)?……いや違う。
意味のない言葉を無理やり当てはめたところで何の意味もない。
そもそもローマ字を使う意味が何処にある?
eraで、“時代”と言う表現になるが、それに続く意味のある言葉が造れない。
Egranazならバスク語で“画面”と言う言葉になるが、バスク語が使われるのはスペインとフランスにまたがるバスク地方で、このイランでは通用しないし、なんの画面を見るのか書かなければヒントにならない。
can, may, willなどの助動詞を構成できるスペルが含まれていないところをみると、どうもこれは英語では無いのかも知れない。
意味のある言葉も作れず英語でもないとすれば、残るのは人の名前か……ひょっとしてこれ!
地図を広げてみた。
人の名前は、特殊な名前でない以上、1stネームか2ndネームだけしか分からなければ人に尋ねたところでその人に会えるとは限らない。
だけど土地の名前だとしたら、広範囲にはなるけれど、そこに行くのは可能だ。
地図を探すと直ぐに似たスペルの場所があった。
そこはイランではなく、イランとザリバンの本拠地があるアフガニスタンの国境の町ザランジ。
地名の英語表示はZaranj。
JとGが違い、Eが一つ余るが、これはペルシャ語で書かれた地図だからで、アラビア語に置き換えたならZarangとなる。
ここでもEは一つ余ってしまうが、これなら目的地であるアフガニスタンにも通じるので味方からのメッセージだと思えばなんとなく理解できる。
とりあえずこれしか思い浮かばない以上、行ってみるしかない。
相手も、そう長くは待ってくれないだろうから。
国境の検問所を経てイランからアフガニスタンに入る。
途上国の検問所はどこも質が悪く、ワザと長い時間待たせてコッチが痺れを切らして苦情を言いに行くと“忙しいから早くは出来ない、都合をつけてやってもいいが、それにはお金が必要だ”と賄賂を要求してくる。
まるでマニュアルがあるみたいに、どこも同じ手を使ってくる。
こういう場合は、ワザと急いでいない素振りを見せるに限る。
特に車の場合は。
あまりこういったことはしたくないのだが、検問所の近くで僕はスピードを上げてピカピカの白いベンツの前にワザと割り込んだ。
割り込むときクラクションを鳴らされ、割り込んだ後にノロノロ運転に切り替えたのでその後も数回クラクションを鳴らされた。
検問所でも抜き返されないように注意しながら、割り込ませないようにワザと車を斜めにして止めた。
トラックなどの商用車は業者が検問所の所長と癒着しているのでスイスイ通過するが、観光客などはそうはいかなくて渋滞が出来ていた。
検問所の係員は、相変わらずワザとグズグズして時間を伸ばしながら、僕の様子を窺っている。
僕は時間も気にならない素振りでシートを倒し、持ってきた帽子を顔にかぶせて寝たふりを決め込んだ。
我慢比べ。
でも、その対象は検問所の警備員と僕ではなく、検問所の警備員と僕の後ろの車。
案の定、既に僕に割り込まれたことや、その後の僕の運転にイライラしていた後ろの車のドライバーが車から降りて足早に警備員の所に向かう。
横を通り過ぎるときは、ものすごく怖い顔をして寝ている僕を睨みつけて行った。
“早く通せ!”と怒鳴る声が聞こえたかと思うと、また後ろの車のドライバーは足早に僕と僕の車を睨みつけて行き、直ぐに僕は検問所を通過することが出来た。
彼が僕の分を払ってくれたのだ。
僕は後ろの車が抜きやすいように路肩に車を止めて、彼が通過するときに帽子を持った手を挙げて感謝の意を示し、彼は猛烈な砂埃を上げて僕の横を通り過ぎて行った。
検問所を抜けて3kmほど走るとザランジの街に到着した。
僕の推理が有っていたなら、どこかにEと言う目印があるはずで、そこに連絡員が居る可能性は高い。
町の中をノロノロと走りEの手がかりを探す。
国境の町とはいえ海外から人が来る観光地でないうえにペルシャ語圏のイランから、似たようなアラビア文字を使うパシュート語圏のアフガニスタンだから当然町の看板は英語表記が殆どない。
アラビア文字の“ع”なら英語のEに似ているが、ただ似ていると言うだけでカードの作成者もそれは望んでいないだろう。
主要道を町の端まで通ったが、それらしい看板は見当たらなかった。
しかし英語表記が無いわけでもなく、企業によっては英語の看板を掲げている所も極少数ではあったがあった。
主要道を離れて街中の通りを走る。
工場と商店が混在する不思議な町。
民家は、それらを取り巻くように配置されている。
何本目かの道を走っているときに“تالار الماس شرق”と言う看板に目が留まった。
その看板を掲げてある建物はホテル。
英語表記にすると“East Diamond Hall”
アフガニスタン西部の町なのにWestではなくEast。
ホテルなのにホールという表記が気になったので心にとめておいて、その他にEに関連性のあるものを探したが特に何も見つけられずに夕方になったので今夜はこのホテルに泊まることにした。
車をホテル前にあった駐車場に置き、少ない荷物を持って玄関に向かう。
ガラス張りのドアから、フロントに居る40代半ばの男が見えた。
ホテルの支配人と言うには、ボクサーかレスラーのように思える。
体自体は細身で、特別腕が太いという訳でもないが鍛えられている筋肉が持つ独特の張りがある。
栄養などの問題を抱えていれば、どんなに鍛えていても筋肉は付きにくい。
だがこういうタイプは、筋持久力がかなりあるのでタフだ。
自動ドアが開くとカウベルが鳴ったが、特にフロントの男は僕を見るわけでもなく俯いて何かの作業をしていた。
「اود غرفة(泊まりたいのですが)」
「الاسم هو؟(名前は?)」
わざとアラビア語で聞いたにもかかわらずフロントの男は、名前を聞いて来たので僕は「black mask(黒覆面)」だと答えた。




