【ザリバンへの潜入③(Infiltrating the Zariban)】
部屋に入り、隊長が居ると言う執務室のドアをノックする。
「今度は誰が何の用なんだ?」
予想に反して、声は普通よりやや穏やかな声。
どうやら隊長というのは、荒くれ者ではなさそうだ。
イワンを肘で突く。
「バラク隊長、イワンです」
「客の件は、断ったはずだが、まだ何か……」
バラクと言う隊長が話し終わる前に、勝手にドアを開けた。
「おっ、お前は!?」
バラクは慌てたが銃を向けられているのを素早く察知すると、机に置いてあるマカロフには手を出さずに両手を軽く上げた。
ナカナカの状況判断。
この状態から拳銃を取ろうとしても、怪我をするだけ。
「何の用だ。面会を断られた事が気に障ったのなら謝ろう。だが僕を殺しに来たのなら謝る必要はない。尋問しても無駄だから、さっさと撃つがいい」
「撃てと言うのなら、何故私が部屋に入って来たときに机の上にある拳銃を取らなかった?」
「まだ入室してきた理由を聞いていなかったからな」
「なるほど、それは賢明ですね」
このバラクという男はザリバンの小隊長にしておくのは勿体ないと思った。
何故なら、私の質問に対して“もし銃を取っていたら、どうした?”と、普通なら聞きたいところなのに彼は質問を質問で返さずに、ちゃんとした理由を言ったから。
「で、用件はなんだ?」
私はハンマーを解除してから拳銃をクルっと回し、机の上に置くとまた後ずさりして元の位置まで戻った。
その行動に驚いたのはバラクだけではなく、隣に居たイワンも呆気に取られて聞いてきた「いいのかオマエ」と。
「いいさ。君は良い奴だな」
「バ、バカ野郎、誰もテメーの心配なんかするかっ!」
イワンは、そう言ってソッポを向く。
バラクはと言えば、置かれた銃を不思議そうに見つめるだけで自分の銃を取ろうとする素振りもなく、ゆっくりと元々座っていた椅子に腰を下ろした。
「折角来たんだ。話を聞こうじゃないか。イワン、悪いがこの客に椅子を出してくれ」
「ハイ隊長」
イワンが椅子を出し終わり私が腰掛けると、バラクはイワンに退室するように言った。
もちろんイワンはバラクの身を案じて抵抗したが、それは許されなくて渋々退席した。
「いいのか? 彼は心配していたぞ」
「大丈夫だろう? ここに来るまでに僕の部下を何人倒したんだい?」
「4人は戦わずに逃げたから、見張りを入れて合計15人かな」
「やるな」
「まあな」
「ところで、僕に用があるようだけどいったい何の用事かな? お金の事なら駄目だよ、僕たちは貧乏人の集団だから何も買えないよ」
「私が商人だと?」
「違うのか? 高級そうなスーツを着ているから、てっきり武器商人だとばかり思っていたよ」
「確かに武器を扱うこともあるが、今日来た用件は武器じゃない」
「なら、何?」
「仲間に入りたい」
「でも君はアメリカ人ではないのか?」
「その通り」
「それでは無理だ。僕が良いと言っても、その上が認めない」
「何故?」
「そりゃあ、そうだろう。敵国のスパイかも知れない人間を雇えるとでも思っているのか?」
「だが、私はスパイではない」
「証明できるかい?」
「残念ながら、真実は易々と証明できるものではない」
バラクはしばらく考えてから言った。
「信じよう」と。
バラクは入隊する理由を聞かなかった。
だからこちらからそのことを聞くと、彼は理由なんてどうでもいいと言った。
つまり理由なんてものは、どうにでも付け加えることが出来ると言う事。
肝心なのは、その人物が信頼に足りるかどうかと、入ってから実績を積み上げることが出来るかだ。
こんなテロ組織に埋もれさせるには惜しい人物だが、きっと彼には彼なりの理由があるのだろう。
ただし入隊するにあたって、一つだけ条件を付けられた。
それは黒い覆面を被ること。
こうすることにより常に人から怪しい人間として見られ、覆面を外せばそれは裏切りを意味する。
つまりこの私に他に味方が居た場合、必ずその味方の前では覆面を脱がなければならなくなり、その事によって裏切りが分かるという寸法。
このバラクという男、ナカナカ面白いことを考える奴だ。
しかし、これで無事ザリバン内部に侵入することが出来たが、先はまだまだ長い。
目的はグリムリーパーの正体を知ること。
アメリカ軍でのザリバン兵捕虜の尋問記録を閲覧したが、誰もグリムリーパーの正体を知るものは居ない。
ただヤザという男に頼めば、グリムリーパーは召喚される。
早くヤザという男に会って、確かめなければならないが、その前にやっておかなければならないことがもう一つある。
だが2つとも今は急いではならない。
先ずはザリバン内で信用を得ることが肝心なのだ。
お盆が過ぎて、ようやく暑さもひと段落なのかな?
東北地方では凄い雨が降って大変!
また関東や東海では40度の尋常ではない暑さも!
九州では海水温が上がり、逃げ場のない養殖の魚が沢山亡くなりました。
熱波は日本に限らずアメリカやヨーロッパでも猛威を振るっていて、所によっては山火事や河川の水が蒸発してしまったり・・・
いまこそ人々が力を合わせて平穏に生きていけるようにしなければいけないのに、ロシアは意味不明な戦争を止めようともしないし、中国は領土拡大欲を剥き出しにし、北朝鮮はミサイルを・・・
こんな時代になるなんて思ってもいませんでしたし、この先どうなるのか心配です。
話しはガラっと変わりますが、『アンファミーユ第2部』は隔日連載となり、8月は奇数日の午前7時の投稿となります。
カッコイイだけの戦争ではないですが、この物語を通じて戦争について考える機会が出来れなと思い執筆しておりますので是非読んでみてください・・・ってか、続けて読んでね♡