【バラクの告白⑤(Confessions of Barack)】
戦争は暴力だから、そこに加われば好むと好まざるにかかわらず、加害者になってしまう。
お姉さんが戦争に巻き込まれて死に、その復讐心でザリバンに入ったバラクは、知らず知らずのうちに多国籍軍と同様に加害者の立場になっていた事に気が付いたのは立派だと言える。
戦場で傷付くのは兵士たちだけではない。
戦場で巻き添えになる一般市民や家畜たちも同じ。
本来なら守らなければならない命を傷つけてしまった事に対して、後悔の念を抱くのは人間として当然だが、中にはそれをなんとも思わないで逆に敵に対するように非武装の市民に牙をむく狂った兵たちもいる。
「それで今はザリバンに入ったことを後悔しているというわけか?」
「いや、後悔はしていない。今は仲間を守るために戦っている。それと……」
「それと?」
「出来る事なら、この戦争を何とか平和的に終わらせたい」
姉が死に、その夫が5歳の子供を連れてザリバンに入った経緯は、まるでヤザ家に似ているとだけ思ったがこの戦場では珍しくもない話。
「できるさ、君なら……ところで君のお姉さんの名前は?」
一緒に亡きお姉さんにお祈りを捧げようと思って聞いた。
「ハイファと言うが、それがなにか?」
“ハイファ!”
バラクの苗字は“ハミル”
したがって姉の名前は“ハイファ・ハミル”となる。
つまり、その名前はヤザと結婚する前のナトーの義母と同じ。
やはり僕はサラと違って肝心な所が抜けている。
前に調べた限りでは、ナトーの義母だったハイファは良家の出身で、しかもイラク工科大において最年少で博士号を取得した才女。
その弟であるバラクもまた同じように優秀なはず。
「バラク、もしかして君のお姉さんと言うのは、ナトーの義理のお母さんなのか!?」
「何故ナトーの名前を知っている‼」
私の質問に、私がハイファの名前を聞いて驚いた以上にバラクが驚く。
無理もない。
ナトーの名前を知るものなんて、殆ど居るものではないのだから。
「実は、ナトーの事を探している」
実際は探していた。だが、それを言うと話が面倒になるから現在進行形にしておいた。
このほうが何かと聞きやすいはずだし。
「何故、ナトーの事を知っている! しかも姉の実の子でないことまで……」
バラクに正直にわけを話す。
ある事情があってナトーを探していたこと、そしてナトーとグリムリーパーの因果関係を調べなくてはならないことを。
「ナトーが、グリムリーパーだって!? 在り得ない」
「しかし、グリムリーパーはヤザの配下にあり、そのヤザはナトー以外に連れていない一匹狼だ。だが私はナトーがグリムリーパーでは無いことを願っている」
「グリムリーパーが活躍していた頃、ナトーは未だ10歳から12歳の子供だ。……それにナトーは心の優しい愛嬌のある普通の女の子だ」
否定したい気持ちは分かる。
私だって同じ。
ナトーがグリムリーパーでないと確信できたなら、直ぐにでもサラに合わすことが出来る。
だが、現実的にそれは難しい。
バラクに疑問を投げかける。
心の優しい普通の女の子がザリバン兵と共に、どうやって戦場を生き残れたのかを。
「そ、それは……」
誰もがわかる事。
普通の子供。
特に女の子では、どんなに立派なボディーガードを雇っていても、戦場で無事でいられるはずはない。
思い出したくもないが未だPOCに入る前、アメリカ兵としてアフガニスタンに居た頃、10歳にも満たない少女がレイプに会い殺害されていた現場は嫌と言うほど見て来た。
そして、ここイラクでも。
世界中の、ありとあらゆる戦場に於いて心無い兵士のレイプを始めとする市民への虐待行為は後を絶たない。
いくらヤザが着いていたとしても、狂った奴等からたった一人でナトーを守ることが不可能なことくらいは同じ戦場で戦っているバラクなら良く分かるはず。
「ナトーの居場所は知っているのか?」
バラクに聞いた。
「ああ、2年前にヤザから赤十字に預けた事を知らされた」
バラクから得た答えに驚いた。
まさかヤザが知っていたとは夢にも思っていなかった。
ナトーが赤十字に引き取られて以来、グリムリーパーも影を潜めたまま。
ヤザはグリムリーパーを召喚する重要人物として頭角を現し、そのグリムリーパーなきあともメキメキと実績を積み重ね、今では大幹部としてアフガニスタンの本部で戦っている。
何故、ヤザはナトーを手元から離したままにしているのだろう。




