【バラクの告白②(Confessions of Barack)】
私の質問にバラクが少し間を空ける。
答えを考えているわけではない。
答える内容は既に決まっていて、それを話すかどうかを考えているのだ。
「煙草は?」
バラクがCAMEL(キャメル=煙草の銘柄)を差し出すが、断る。
「悪党は普通、煙草を吸うものだぞ」
そう言って、口に咥えた煙草に火を着けながら私の顔を覗き見る。
揶揄いながら、様子を窺っている目。
「煙草を吸うのは小悪党だ。大物は葉巻を吸う。それも中米製の上物を、な」
私は顔色を変えることなく、ポケットのケースから葉巻を取り出す。
Davidoffダビドフと言うドミニカ共和国産の葉巻。
火を着けると当然のように煙が出て、目がシバシバする。
バラクが、しかめ面をして私を睨む。
私もシバシバした目を隠すために、睨むような眼でバラクを見る。
急にバラクがゲホゲホと咳き込む。
「どうした!?」
「気管に入った!」
「煙草はもともと気管に入れるものだろう、ゲホゲホ」
葉巻をくわえたまま喋ってしまい、煙を吸って気管に入れて咳き込んでしまう。
「葉巻は気管に入れないものだろう、ゲホゲホ」
つまり煙草を吸う振りだけをしていたバラクと、葉巻の初心者である私。
ゲホゲホと咳をしながら、お互いに悪者になり切れていないことを知り2杯目の紅茶を入れる。
「どうしてザリバンなんかに入った?」
「その質問はお互い様だな」
私の質問にバラクが答える。
「では、質問した手前、私から答える事にしよう。実は、ある人物を探している」
「ある人物!?」
「そう。グリムリーパーと呼ばれる狙撃手だ」
「……」
「知っているのか?」
「いや」
「ヤザと言う男は?」
「ヤザ!……なぜ、その名前を知っている!?」
どうやらバラクは、グリムリーパーの正体は知らないらしいが、ヤザの事は知っているようだ。
「ヤザに会いたい。彼は今、どこに居る?」
バラクが妙に困った顔をして答えない。
「秘密事項……」
「ああ、彼は今やザリバンの大幹部の一人だからな。その所在は、重要機密だ。でも何故ヤザに?」
「ヤザに合えば、グリムリーパーが誰なのかが分かるだろう」
「誰か分かった後は、どうするつもりだ。殺すつもりか? それとも……」
「いや、誰だかハッキリすれば、それでいいんだ」
「それでいい?」
「ああ。実は、ある子どもにグリムリーパーだった疑いを持っていて、その疑いが晴れれば、それでいいんだ」
「ある子供とは、いったい誰だ?」
もしバラクが何か知っていたとしても、迂闊にナトーの名前を出すわけにはいかない。
イラクには居ないと言っても、ナトーを追われると困る。
だが、なにか引っかかる。
バラクは何か私の知りたい情報のカギを握っている気がしてならない。
そこでヤザの事を聞いてみる事にした。
「さっきヤザは大幹部だと言ったが、親しいのか?」
「ああ」
バラクは余り余計なことは話さない。
だから私も、余計なことは言わない。
しかし、それで本当に良いのか?と言う、疑問がふつふつと湧いてくる。
バラクに正直にナトー事を話すべきなのか……。
だが彼でさえ、ヤザがザリバンに入る前の可愛いナトーの事は知っていても、ザリバンに入ってからのナトーの事は殆ど知らないはず。
なにせヤザはザリバンの中にあって、一匹狼を通してきた戦士だから。
「ところでバラク、君は一体なんでザリバンに入ったんだ? 誰かに誘われたとしても、簡単にこのような組織に入ってしまうようにも思えないが」
「誰にも誘われてはいない。だけど入った理由は他の者たちと同じだ」
「他の者と同じ?」
「そう、復讐心。大好きだった家族を多国籍軍に殺された恨み」
恨み……。
私は、家族を誰かに殺された経験は無い。
サラと同じ……だけど、不思議に今のバラクには恨みを持つ人間独特のギラギラした執念とも言えるエネルギーを感じられない。
だから聞いた「今でも恨んでいるのか」と。




