【ザリバンへの潜入②(Infiltrating the Zariban)】
17人のザリバン兵が一斉に襲い掛かってきた。
「やれやれ、まったく困った人たちだ」
屈強かどうかは定かではないが一応“兵士”なので、それなりの訓練は受けているだろう。
上着を外したかったが、このようなダウンタウンで脱いでどこかに置こうものなら、直ぐに誰かに盗まれてしまうから止めておいた。
脱いだものや忘れ物が戻ってくるのは、この前サラと行った日本だけだ。
先ずは目の前に居る3ドルの服を着た奴のテンプルに右フックをお見舞いして寝かせ、次の奴には左キック、飛び掛かってきた奴には身を屈めて避け際にボディーにパンチを打ち込んで腰ベルトを掴んで近くに居た奴にブン投げた。
残りは13人。
まともな奴なら、この手際の良さを見てもう近寄ってこないはずだが、奴らは違った。
無謀にも間髪を入れずに襲い掛かって来る。
さすがに残り13人というのは、足場的にキツイ。
作業位置を後方に下げるため先頭で飛び込んできた奴にはバク宙から蹴りを入れて、後方の奴には後方移動の反動を利用した後ろ回し蹴り入れ更にその後ろに居た奴には飛び込みざまに後ろ向きにエルボーを回して倒した。
エルボーを放ったことで、服が少し汚れたので手で叩いて埃を落とす。
残りは10人。
もうそろそろ、私の強さを理解して怖気づくかと思いきや、またしても果敢に襲い掛かって来た。
さすがに大国アメリカを相手にして戦いを挑んでくる奴等だけのことはあって、どこかがおかしい。
手を使うと服が着崩れるし、拳だって痛むから、これからは蹴り技だけで行かせてもらう。
足場が良くなったところで奴らのド真ん中に飛び込んで行き、飛び込み際にフロントキックで1人、飛び込んでからはハイキックと左右のサイドキックで3人倒し腹を蹴られて俯いた奴の背中で1回転させてもらってから、踵落としとサマーソルトキックで横に並んでいた2人を倒す。
残りは4人。
“さあ来いよ!”と手で合図すると、残った4人はこの状況をようやく理解したらしく慌てて逃げて行った。
所詮正規兵ではないから、訓練不足は否めない。
そもそもこんなテロ組織で定期的な訓練なんて行われているとは思えない。
こんな街中で訓練なんて行う事自体が、テロ組織のメンバーがここに居ますと宣伝しているようなものになるから。
だから、こんなに弱くて当たり前。
最初に倒した3ドルのシャツを着た奴の襟首を後ろから掴んで起こすと、気が付いた奴が不意に右フックを放ってきたが、それを左手で掴んで捻る。
「痛たたた‼」
「まったく寝起きの悪い人ですね。もう一度眠りますか?」
拳を上げて見せると、奴は首を引っ込めて怯えた素振りを見せた。
「どうやらアナタに弁償させようとした私がイケなかったようですね。ではアナタのボスとお話しした方が良さそうです。さあ、私をボスの所へ連れて行きなさい」
「ボ、ボスだって、あんな大金は払えねえ」
「大丈夫。私だってそのくらいのことは分かっています。アナタのボスに払ってもらいたいのは私のサラリーです」
「サラリー?」
「給料の事ですよ」
「仲間になるのか?」
「条件次第ですが……」
奴は渋々私をボスに合わせるために案内をした。
まあ奴にしてみれば、アジトに連れて行けば銃を持っている奴も居るから、どうにでもなるとでも思っているのだろう。
確かに、この男の考えは間違ってはいない。
だって、私はその後のことを全く考えていないのだから。
汚い路地を幾つか曲がり、ようやく着いたのは先の戦争で被害にあったまま放置されていたアパート。
一部が空爆で壊れている。
「ここが、そうか?」
「ああ」
「いかにも家賃が安そうだな」
「黙って、入れ!」
アパートの玄関には2人の見張りが居た。
「ようイワン。お客さんか?」
「ああ。隊長は居るか?」
「居るには居るが、そいつを会わせるつもりか?」
「そのようだな……」
「じゃあ、少し待て」
見張りの一人が隊長の居る部屋に向かう。
もう一人の見張りは、その隙に襲われないように拳銃を向ける。
距離が近い。
「トカレフ TT-33、年代物だな、暴発しないのか?」
「チャンと撃てるぜ、なんなら試してみようか?」
「それは止めておいて欲しいね。それは中国製の模造品だから、何回かは撃つことが出来るが暴発を防止する安全装置が省略されているから、いつか暴発して手首がもぎ取れるぞ」
むろん中国製に限らずトカレフ TT-33には元々安全装置などついては居ない。
それを知らない見張りの男の目が、一瞬持っていた拳銃に移る。
このタイミングを見逃さず、拳銃を持つ腕を上から押さえつけてハンマーを解除し、そのままの勢いで奴を壁にぶつけて顎にエルボーを放つ。
奴は壁伝いにズルズルと、しゃがみ込んだ。
振り向きざまにイワンの顎を持ち上げて声を出せないようにして、その喉にトカレフを押し付ける。
「いい子にしていれば撃ちはしない。だが悪い子には罰が必要なことは分かっているな」
イワンは、首をコクリと縦に動かそうとしたが、その顎は抑えられているので力だけが伝わった。
見張りが入って行った部屋に向かう。
丁度入口まで来たときに、見張りが部屋から出てきた。
一瞬奴は驚いた顔を見せたが、イワンが一緒なので待ちきれずに連れて来たのかと勘違いして「隊長は会わねえ」と言った。
「それはご苦労様。でも無駄だったね」
私が返した言葉に、奴の目にもようやく廊下の先で倒れている同僚の姿が映ったらしい。
だがもう手遅れ。
奴が気付いた時には、もう奴のミゾオチには私の拳が埋まっていた。