【カール・アダムスキー①(Karl Adamski)】
“?”
でも、何故2発目の銃声が聞こえた?
死んだはずなら、脳へは何も伝達されないはずではないのか?
気が付いて顔を上げると、あの男がポンと私の肩を叩いて通り過ぎて行った。
“何。私を殺すために雇われたのではなかったの?”
振り向くと、あの男が私を襲っていた男たちをいとも簡単に倒していた。
「敵は9人」
男が言う。
「じゃあ、アナタも、やはり敵なの?」
「まさか、もう一人は離れた所でこのライフルで君を狙っていた。だから俺は奴を見つけて倒してきてやったんだぞ」
カールは、そう言うと肩に掛けていた狙撃銃をアスファルトの上に投げ捨てた。
銃はロシア製のボルトアクション式狙撃銃SV-98。
7.62x51mm NATO弾と8.58×70mm弾(.338ラプア・マグナム)を使用できる、イギリスのL96A1と似たような性質を持つ狙撃銃だ。
「じゃあ、双眼鏡で見ていたのは、私達ではなくて狙撃手を探していたって言う事なの?」
「もちろん。だけど君たちの戦い振りも観させてもらっていたよ。まったくスペナツズ相手に大したもんだぜ。だが勝ちきれないのでは負けたも同然。最後の逃走なんて、危なっかしくて見ちゃいられなかったぜ」
カールは倒した男たちから取り上げた拳銃を見せた。
イジェメック MP-443。
これは確かにスペツナズ御用達の拳銃だ。
「じゃあ、こいつ等は!」
「そう。ロシアの回し者。どうも東欧支部に配属してから、旧ソ連で今はEUに加盟、もしくは加盟に傾いている国々の近代化に貢献している君は、疎んじられているようだな」
「一介の殺し屋の分際で、何故そこまで知っているの!?」
知り過ぎている男に不快感を覚えて、キツイ目で睨んだ。
「おっと、そんなキツイ目で見るなよ。しかし美人というのは得だな、そんな顔をしても魅力にあふれている」
ニヤニヤとした顔で、睨んでいる私を見て喜んでいるカールを一言で表すと“エロオヤジ”
アホらしくなって、私も睨むのを諦めた。
「誰に雇われたの? そして、どうして直ぐに助けなかったの?」
こういう輩を甘やかせていたのでキリがないから、いかにも呆れた顔をして蔑む様に聞くと、意外にもカールは素直に答えた。
「依頼主からはアンタが危険な目に合う前に、直ぐに助けろって言われていたんだけどな、まあ正直言うと金は頂いたが依頼を受けたわけじゃねえ」
「取り逃げ?」
「この業界じゃあ、よくある事よ。そりゃあそうだろう?誰かを殺してもらいたいと秘密を打ち明けて、断られたんじゃ聞いた奴を生きて返すわけにはイカねえだろう? そして依頼を受けたほうも無事に帰れない場合の対策はしてある。だから聞き賃として前金を貰い、断る場合はそれが口止め料ってわけだ」
「依頼主は?」
「分かってねえなぁ姉ちゃんは。依頼を受けた金と言うのは口止め料も含まれているんだぜ。それに俺たち闇の家業の人間ってえのは口が軽かったら生きては行けねえ。だから依頼人の情報を話すことはねえ」
「私のような美人が頼んでも?」
私は甘えた声を出してカールの手に自分の白い手を艶めかしく添えた。
しかしカールは私の色仕掛けには乗ってこない。
「止せよ。確かにアンタは美人だ。それも並みの美人ではなく極上の美人だ。しかし俺の趣味じゃねえ」
「趣味じゃないって、もしかして……」
美人が趣味じゃないと言う事は、同性愛者かゲテモノ趣味と言う事なの??
つまり一般的に言う“変態さん”?
「バカか、そんなんじゃねえ。俺は貧乳には興味がねえって事」
「貧乳だなんて、酷い!」
半分涙を浮かべて訴える。
貧乳だなんて言われたのは初めて。
確かに他の人と比べると小さいかも知れないけれど、それ以上に並外れたこの美貌とスラッとした美しいスタイルの方が人の目を圧倒しているのに。
「俺はもっと健康的な体格の巨乳美人を探している」
「それって、スポーツ選手とか?」
「まあな」
急にカールがニヤニヤする。
「アンタこそバカじゃないの!? スポーツ選手のような健康的な人がアンタのような闇の家業の人と付き合う訳なんて無いじゃないの。万が一恋に落ちそうになったとしても、スポンサーが許さないわよ」
「スポンサー!?」
「スポーツ選手には健全なイメージがあるため、そう言ったスポンサーが付きやすいのよ。その彼氏が闇稼業だなんて分かったら、永久追放間違いなしよ!」
私は彼の妄想を断ち切るために、真実を突き付けてやった。
そう、それはドラキュラの胸に杭を打ち付けるように。
「うるせえ! だから今、この闇稼業ともオサラバしようと思っているんだ!」
慌てたカールが依頼主のヒントをくれた。
闇稼業ともオサラバと言っても、彼にできることと言えば銃を撃つことと喧嘩をすること、それに酒を吞むことと女を抱くことくらいしかないだろう。
その彼が、生活習慣を変えないまま闇から日の当たる場所に居場所を変えるとすれば、それは軍隊か諜報機関以外にはない。
それに普通なら依頼主以外の前には姿を現さないはずの殺し屋が、私の前に姿を現して何気なく雑談を楽しんでいる。
加えて、今回の仕事は“殺し”ではなく“私の警護”
「ねえ、当てたら正直に答えてくれる?」
「当てられなかったら?」
「私をモデル事務所か芸能プロダクションに売っても構わないわ」
「どうしてマフィアじゃねえんだ!? 普通“売る”って言やあ“売春婦”だろうが!」
「あー駄目、私、そういうのキライだから」
「好き嫌いの問題じゃねえだろう!?」
「で、どうなの? 受けて立つ?」
「……いいぜ。だが一回キリだ」
「いいよ。じゃあ当てるね」
私は目を瞑って考える。
考えるのは、依頼主が誰か?って事ではなくて、依頼主がこのカールにどんなことを依頼して話したのか。
考えれば考えるほど、懐かしくって嬉しくて、そして心が穏やかに満たされて行く。
「なにニヤけてるんだ? 外れたら本当にマフィアに売るぜ」
「いいよ。じゃあ言うね」
「お、おう」
「依頼主の名前は……」




