【追跡者③(Tracker)】
「ルーシー、男たちのお目当ては私よ。だからアナタは前面に出て闘ってはダメ」
「そんな、親友を放っておけるわけないでしょう! サラが何といっても、私は闘って貴女をこの野蛮な男どもから守って見せるわ」
「ありがとう。でも私が言ったのは、前面に出ないで。って、いう事よ」
「前面に出ないって?」
私はルーシーの耳に口を近づけて、作戦を耳打ちする。
「OK‼」
いよいよ本格的に男たちが襲い掛かって来る。
合気道なら襲って来る人間の大小は殆ど関係なく倒すことが出来る。
問題は、その後のこと。
私の場合は体重が軽いから相手の力を利用して倒すだけで、そこに自分の力を加えてより大きなダメージを与えることが出来ない。
止めを刺すことも然り。
だから、さっきの様に倒した男は直ぐに起き上がって来る。
倒すことだけでも相手の体力を奪うことが出来るが、8人もいればこっちのほうが先に体力が尽きてしまう。
だから、私が倒した奴の後処理はルーシーに任せた。
倒した男が起き上がろうとして無防備な状態になった相手を狙って、ルーシーの長い脚から鋭い蹴りが繰り出される。
ルーシーの蹴りが、今倒した男の頬を蹴り上げると“パーン!”と、良い音が響く。
蹴られた男は再び倒れ、今度は起き上がる素振りもなく横たわったまま白目をむいていた。
次の男が私に蹴りを放つ。
1度目は往なして蹴り方を観察して、2度目の蹴りでタイミングを計る。
3度目の蹴りを仕掛けてきたところで素早く間合いを詰めて軸足の裏側に自分の足を掛けてから相手の蹴りを、姿勢を低くして避けながら“のれん”を潜るように軽く持ち上げてやると相手はバランスを崩して簡単に倒れた。
今度の相手はそれなりにダメージがあったらしく、直ぐには起き上がろうとしなかったが、ルーシーは躊躇うことなく奴の顔面に蹴りをお見舞いした。
公園のベンチに居る殺し屋カールの方に目を向けると、奴はベンチに座ったまま双眼鏡を覗きながら愉快そうに私たちのバトルを楽しんでいる。
“バカなの?”
と、思った瞬間に目の間に何かが迫って来る気配を感じて、慌てて体を後ろに反らす。
迫ってきたのは飛び込んできた男のパンチ。
“危ない、危ない……”
大勢いるから、よそ見している暇もない。
1発目のパンチを間一髪で避けた後、そのままその腕を取って投げた。
“ルーシー!”
ところが倒した奴に止めを刺すはずのルーシーが居ない。
相手側は早くも私の作戦に気が付いて、私達を分断するように2手に分かれて攻撃を仕掛けてきた。
これからは個人戦。
お互いに3人倒せば勝ちだけど……。
今投げ飛ばした男に止めの蹴りを入れようとするが、次の男に邪魔をされた。
こうなったら、もう一人ずつ確実に片付けるしかない。
邪魔をしてきた男のパンチを避けて、今度は投げではなく男のボディーに肘を打ち込んだ。
肘は狙い通り、ミゾオチに入ったが、何やら感触がオカシイ。
と、思う間もなく男に後ろから羽交い締めされそうになり、慌てて擦り抜ける。
「そんなものは効かねえぜ」
男がニヤッと笑う。
“コイツら、ボディープロテクターを装着している!”
道理でプロレスラー並みの体格に見えるはず。
これでは頭以外には打撃系で利きそうにもない。
ルーシーを見る。
彼女は必死に左右のキックを高低差を変えながら繰り出していたが、ボディーはおろか太ももや脛に当てたキックも全く効果がない。
屹度、脚にもプロテクターを装着しているのだろう。
あちこちにキックを連発するルーシーに対して、相手のガードは頭部から降りない事がそれを証明している。
それでも頭を狙うしかない。
「לוסי! "הם לובשים מגנים התקפות עובדות רק על הראש!!”(ルーシー! 奴らはプロテクターをしているから、攻撃は頭しか利かないわ‼)」
ヘブライ語で状況を伝える。
「בסדר! "חשבתי שזה מוזר מבחינה לוגית."(道理で、おかしいと思ったわ!)
ルーシーが笑顔を見せて、同じヘブライ語で返す。
だが、その顔は笑顔の表情とは裏腹に汗だく。
不利な状況を聞かされても怯まないルーシーは、さすが。
逆に俄然闘志を燃やし攻撃の手数を増やした。
ガードをこじ開けるつもりだ。
高い状況対応能力は並みではない。
POCの研修施設で叩き込まれた精神だ。
敵にコンビネーションキックを放った時、ついにその窓はこじ開けられた。
開いた窓にルーシーの掌底が勢いよく伸びて、相手の顎を突く。
顎は頭部で最も打撃に弱い場所の一つで、パンチがかすっただけでもダウンしたりすることもあるほど脳震とうを起こしやすい部分。
ルーシーは、そこを確実に捉えて相手を寝かしつけた。




