【運命の仕事①(Work of destiny)】
「部長、フランス支局のルーシー主任から、お電話です」
「オフィスで取るわ。回して」
C4Iシステム(Command Control Communication Computer Intelligence system:戦場に於いて逐一変わる状況を総合的に共有し、作戦の指揮や作戦そのものを支援するための情報処理システムで、運用形態は各国ごとに違う)の開発で部下が分からない所があるというのでアドバイスしていたところだったが、懐かしいルーシーからと言う事だったので部下に要点だけを伝えて後は自分で考えるように言ってオフィスに向かった。
「承知しました」
ルーシーはイスラエルにあるPOCの研修所の同期。
同期とは言っても、12歳で研修所に入って大学に通った私と違って彼女はチャンとした手順を踏んで大学に通ったのだから、私よりも6歳も年上。
頭能は誰にも負けないという自信はあったけれど、運動能力に関するハンデは12歳の私には大きくて、男子から虐めの対象となりつつあった私を真正面から支えてくれたのがルーシーだった。
研修所を卒業して彼女はフランス支局に赴任して、最近はお互いに忙しかったのでナカナカ連絡を取っていなかったけれどどうしているのだろう。
久し振りにウキウキしながらオフィスに戻り電話を取る。
「ハロー!」
「東欧支部、第一部長のサラさまですか?」
「そうよ。今オフィスだから普通で大丈夫よ」
「ハイ……では、やり直し サラ、相変わらず元気にしてる?」
「うん元気だよ。そっちは相変わらず元気そうね」
電話越しにでも、あの屈託のない明るい笑顔が見えてきそうな声が耳に心地よく響く。
彼女は卒業後の進路希望をアフリカ支部と決めていた。
アフリカには故郷である南アフリカがあり、彼女の恋人はコンゴ民主共和国の政府関係者。
そして彼女の夢は、アフリカの政治体制を変えること。
しかしその夢の第一歩は叶わなくて、今は西ヨーロッパ支部のフランス支局に居る。
「元気よー♪ もう、花の都パリで遊び放題……あっ、ごめ~ん。そっちはチャンと休めているの?」
「うん。月に1・2回だけど、仕事、好きだから」
「あー、噂には聞いていたけれど、やっぱりそうなのね。でも無理しないで……」
「ところで、用件はなぁに?」
「いやっ、ただ久し振りに声が聴きたくて」
ルーシーの声のトーンがホンの少し高くなった。
相変わらず嘘が下手。
「ホントに?」
「ホントよ」
「なら、いいわ。ありがとう」
「いいえ、どういたしまして」
「ところでルーシー。チョッと噂で聞いたんだけど、フランスの外人部隊が“戦争ごっこ”に特化した遊戯場を作る計画があるってホントなの?」
「あー……そ、そうみたいね」
特にニュースに出るようなメジャーな話しではないけれど、軍関係のシステム開発に関わる企業であれば必ず知っている情報。
特にフランス外人部隊の案件をフランス支局のルーシーが知らない訳がない。
「手伝ってもいいよ」
「えっ!?」
「どうせ、その案件をさばける人材が居ないんでしょう?」
「それは、そうなんだけど……」
「って言うか、面白そうだから参加してみたいわ、その“戦争ごっこ”に特化した遊戯場の開発計画に」
「で、でもサラは今メチャクチャ忙しいんでしょう?」
「そうでもないよ。新人の私に出来ることなんて、ベテラン社員なら誰にだってできるわ。ただ私1人が数日で出来るところに、何人も掛けて数週間掛かると言うだけのこと。おかげさまで今は第一部長と言う立場になってしまったので、部下を育てなければならないから一人で最初から最後まで開発に携わることがなくなってツマラナイと思っていたところなの。是非手伝わせて!」
「いいの?」
「いいに決まっているでしょう。それに、この案件は他所の会社には絶対取られたくはないの」
「助かりぃ~♡ 実を言うとオリエンテーションからもう3週間が過ぎて、来週金曜日にはプレゼンテーションをしなくちゃいけないのにコンセプトさえも決まっていない状態なの。もう諦めるしかないないって思っていたから助かるけれど、本当に大丈夫なの?」
「とにかく、この案件は私がやらなければイケない気がするの」
「まさか、それって“神様のお導き”って言う奴? でもサラは神様なんて信じないんじゃなかったの?」
「形式的にお参りには行くけど、今でも信じていないよ。だから“神様のお導き”ではなく、私に課せられた“運命”だと思うの」
「相変わらずお高いのね」
「だってSaraはヘブライ語で王女よ。そしてサラディンの略でもある(サラーフッ・ディーン:12世紀から13世紀にかけてエジプトとシリアを支配し、エルサレム王国や十字軍を破ったイスラム世界の英雄。イギリスでも人気がありFV601装甲車の愛称として使用された)それを私に教えてくれたのはアナタよ、ルーシー」
「確かにね。じゃあ来週月曜日に来れる?」
「明後日はどう?」
「明後日って、金曜日よ! だ、大丈夫なの?」
「今からなら充分引継ぎをする時間はあるわ。2日もあれば来週1週間開けても大丈夫よ」
「わー、なんか君の部下たちに恨まれそう」
「大丈夫よ、タマにはチャンと仕事をして貰わなければいけないから、良い試練よ」
「たしかに試練よねぇ。よかったら狭いけど私のアパートに泊まらない? まあ、宿代なんて心配するような立場の人じゃないことは分かっているんだけど……」
「ありがとう。実は私もそのつもりだったの」




