【消えたナトー(Natow Disappearance)】
早朝にミランからの電話があった。
こんな朝早くから“ナトーも一緒じゃないと入らない”と言うために掛けて来たのかと思うと、ナトーがどれだけ好い子なのかと思わず口角を上げながら通話ボタンを押した。
ところがミランからの連絡は、思いもよらないものだった。
「ナトーが、ナトーが居なくなった!」
「ナトーが居ない?」
「置手紙を残して、いつの間にかテントから……」
「置手紙の内容は!? なにか引っかかるようなことは書いていないのか!?」
「と、特に、なにも……ただ、今までありがとうとだけ」
「わかった。直ぐそっちに向かう」
慌ててアパートから出ようとしたとき、通りから戻って来るイワンを見かけた。
病院に行っていたのか、頬には大きな絆創膏。
「BM、お出かけか?」
「ああ。でもどうした、怪我をしたのか?」
「そうなんだ、昨日ナイフで脅された」
「脅された?」
昨日は柏木サオリに怪我を負わせないように消してしまうトリックの作業のため、1日空けていた。
その間に何者かがこのアジトを襲ったのか?
イワンに詳細を聞くとどうやらアジトが襲われたわけではなく、彼らが背の高い外国人娘にチョッカイを出していたところザリバンの幹部クラスの男に咎められて、頬の傷はその時にその男が付けたものらしい。
自業自得だが、なにかおかしい。
ザリバンの幹部。
しかも格下とは言え、同じ組織の構成員の頬にナイフで傷をつけるような野蛮な男が、迷い込んだ外国人の娘を助けるために仲間を脅すとは到底思えない。
「その男の名前は!?」
「なんだったかなぁ~……」
「ヤギじゃなかったか?」
イワンの隣に居た男が言った。
“ヤギ?”
「お、思い出した。ヤザだ!」
“ヤザ”ひょっとしてナトーの義父の、あのヤザなのか。
「娘の名前は!?」
「イテテテテ」
興奮して思わずイワンの胸倉を掴んでいた。
手を離すと、イワンが答えた。
「俺の娘だと言っていた。でもよぅ、そりゃあ絶対に違うんだ」
「何故?」
「だって白人の女だったからな」
“白人の……”
「特徴は!? 背が高いと言っていたが、具体的には何センチメートルくらいあった!?」
再び胸倉を掴みかかるような勢いで聞いたので、イワンは驚いて首をガードして答えた。
「背の高さは俺より10㎝以上は高かったから175㎝程もある大女だ。年齢は未だ18にも満たねえんじゃねえか? キツイ目をしていたけど、かなりの美人だったぜ。髪は短髪で珍しくシルバーに染めて居やがった」
「目は!?」
「目?」
「瞳の色は!?」
「……宝石、みてえだった」
「宝石?」
「ああ、右と左が違ってな、まるで宝石みてえに見えた」
「色は!?」
「い、色は、写真なんかで見る綺麗な緑掛かった海の色と、抜けるような空の色」
銀髪に、エメラルドとサファイヤのオッドアイ!
ナトーに間違いない!
赤十字難民キャンプに向かいながら、何があったのか考えていた。
おそらく失踪のカギを握るのは、ヤザの存在。
もし久し振りに会ったヤザに言われてザリバンに戻ることにしたのなら、わざわざミランに置手紙を書く必要なんてないはず。
ザリバンに戻ると言う事は、あの無慈悲な死神に戻ることを意味するのではないか?
しかし、もしナトーがグリムリーパーだったとしても、二度と同じ過ちを犯さないように柏木サオリは育てたはず。
なのに、何故……。
赤十字難民キャンプに着き、ミランにナトーのテントに案内された。
そこには沢山の書物があるにも関わらず、決して散らかさずに整理整頓が出来ていた。
部屋を見た途端、彼女はグリムリーパーに戻るためにここを出たのではないと確信した。
キチンと部屋を片付けることが出来る人間に自分勝手な人間は居ない。と、信じている。
では何故……。
とりあえず動揺しているミランを落ち着かせた。
計画は少し遅れるがナトーが赤十字難民キャンプに戻ってくることも考えて、ミランにはしばらくここに留まるように言いナトーを探すことにしたが、何の手掛かりもなかった。
私にとっても大切な時期なため、ナトーの捜索でウロウロするわけにはいかない。
しかし、何のためにヤザは現れたのか……。
とにかく外のことは柏木サオリに任せて、私はザリバン内にアンテナを張り巡らせることにした。
それともう一つ。
闇業者に探してもらって見つけ出したカール・アダムスキーという名の殺し屋に、あるミッションを依頼した。
台風が接近中です!
現在の中心気圧は935Hpaですから、中心付近ではいつもより潮位が70㎝ほど上がります。
満潮時には通常の推移にプラスすることは勿論のこと、台風の風による高潮にも十分気を付けてください。
特に海だけでなく、海の水位が上がることにより、河川の水位も上がりますので、沿岸部や河川の傍には決して近づかないようにしてください。




