【頑張っているサラ②(Sarah doing her best)】
「やりますか?」
緊張した面持ちでクラウディが聞いてくる。
「先制攻撃は無しよ。ああ見えてもただの水道工事業者の方たちだったらマズイわ」
「そうですね」
私の応えに、クラウディが笑う。
いかなる場合でも、私達は脅されない。
この事は、武器商人にとっては大切なこと。
脅されて、一瞬でも不安な表情を見せると、相手は図に乗るから。
「よう、こんな夜中まで夜遊びかい。ご苦労さんなことだな」
男たちの中で一番背が高く体格のいい奴が上から目線で話しかけてくる。
「クラウディ、忘れ物は無い?」
「はい、ありません」
私たちは奴の言葉をまるで聞こえていなかったように、車から荷物を取り出し歩き出す。
「聞いてんのか、コノヤロー!」
奴と奴の手下が私の行く手を塞ごうとする。
横に1.5m離れているクラウディの前を塞ごうとする奴は居なかったので、やはり奴らの目的は私。
「すみません。荷物があるので失礼します」
ビジネススーツにリュックを背負い、大型のスーツケースを転がしていた私は巧妙に奴らの間をすり抜ける。
「おらっチョッと待てや‼」
背中のリュックに手が伸びてくる気配を感じて振り向くと、思った通り大きくて凶暴な手が鷲の爪のように襲い掛かってきた。
「キャーッ! 何を‼」
思わずしゃがみ込んで、その手をかわすと同時に横からクラウディの手が伸びて来て奴の手を掴む。
「イテテテテッ」
クラウディが掴んだ手を捻り高く持ち上げると、痛さに耐えかねた男が悲鳴を上げた。
これを合図に奴らは戦闘モードに切り替わる。
しかし時すでに遅し。
一旦しゃがみ込んだ私は直ぐに立ち上がると、逃げるように奴らの周囲を一周するとクラウディにバトンタッチして彼女の斜め後ろに隠れるように並ぶ。
幾つもの男たちの手が私に襲い掛かるたびにクラウディがその手を掴み払い除ける。
5人の5本の手を払いのけるのを確認した私は再びしゃがみ込むと、クラウディから戻された細い糸をバッグの中に入れてあった使い捨てカメラもどきに付いている2ヵ所の接点に差し込む。
「いくよ!」
「OK‼」
私の合図でクラウディが奴らから1歩離れた瞬間に、カメラのシャッターボタンを押すと、一瞬にして5人の男は倒れた。
「凄いですね」
「アナタのおかげよ」
クラウディの実力なら、あんな5人の男などどうということは無いことは分かっていた。
でもこんな奴等……いや、奴らを雇った汚い人間の為に疲れているクラウディにエネルギーを使わせるのが嫌だった。
だから最初に襲ってきた男の手をかわすときに、クラウディに導電性の糸を渡した。
糸を受け取ったクラウディは、私を襲う手を払いのける振りをしながら、彼らの腕に糸を巻き付けいく。
5人全ての腕に糸が巻き付いたところで、使い捨てカメラの基盤を改造して作った増幅器の接点に糸を繋ぎ、あとはシャッターを押せば導電性の糸に高電圧が流れる。
簡単に言えばスタンガンと同じ原理。
一応使い捨てカメラの巻き取り用のダイヤルで電流量を調節できる仕組みになっているのだが……あらヤダ、3mA (ミリアンペア―)に設定したのに、いつの間にか4.8mAに変わっていたわ。
通常5mAを超えると命の危険性があると言われ、最も強力なスタンガンでも4.5mA。
だから皆、伸びてしまったのね。
とりあえず伸びている間に、彼らの持ち物の中からキャッシュカードを抜き出して、記録装置に通してもとに戻しておいた。
カードそのものを抜き取ってもいいが、それだとカードを盗まれたことが分かって凍結させられるともうどうしようもなくなるが、こうして記憶装置に読み込ませたカード情報はいつでも読みだすことが出来る。
それをネットに繋ぐことにより入金情報も分かるから、依頼人が直接彼等に会って支払いを行っていない限り、その入金情報から依頼主が分かる。
まあ彼らのような“ならず者”たちと直接交渉する“まっとうな”サラリーマンは居ないはずなので依頼主の正体は直ぐに判明するだろう。
「お疲れさまでした」
「お疲れ様!」
部屋の手前でクラウディと別れる。
彼女の部屋は私の一つ手前。
部屋に戻って照明をつけて、鞄から取り出したフォトフレームをベッド傍のテーブルに置き、口で投げキッス。
写真に写っているのは浴衣を着た私の隣で笑っているメェナードさん。
“会いたいなぁ~”
思わずポロリと本音が出てしまい、その後はスーツのままベッドに飛び込みマットレスに蹲って叫び続けた。
「会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたい!会いたいよぉ~……」
いつの間にか涙で顔はグシャグシャ。
このままベッドで泣きながら眠りたかったが、こんな風に寝てしまってももう衣服を脱がせてくれる人は居ないので、諦めて服を脱いでシャワーを浴び歯磨きをしてパジャマに着替えてベッドに戻る。
「はあ~……メェナードさん、今頃どうしているのかなぁ……」
呟いてみても返事は返ってこなくて、ただ写真のメェナードさんは私を見て微笑んでいるだけだった。




