【柏木サオリの暗殺(Assassinate Saori Kashiwagi)】
「えっ……?」
思いがけない一言に驚いた。
「どういうことですか?」
理由が分からなくて聞いた。
「実を言うと私、行き詰まっているの」
「それは?」
柏木サオリが話してくれたのは、DNA鑑定の結果でナトーが栗林会長の孫であることが正式に判明したと言う事。
しかしナトーを保護した時の状況から考えると彼女はザリバンの狙撃兵として300人近い兵士の命を奪った“グリムリーパー”である可能性が高いと言う事。
そして、このことをいつまでも放置しておけない状況にある事。
ナトー本人へ直接聞くことは容易い。
だがナトーが正直にグリムリーパーだったことを認めてしまえば、柏木サオリはその役目を終えナトーを置いたまま日本に帰らなければならない。
もし仮にナトーが嘘を言い、無事日本行きの切符を手に入れたとしても、その日本でバレてしまえば事態は更に最悪なものになるだろう。
栗林会長やサラの元にナトーを届けるのは至難の業だ。
グリムリーパーとして何百人の命を奪った罪を償うのは容易な事ではない。
死んで物言わぬ体になって初めて対面して、罪を償わせるべきではなかったことを後悔してももう遅い。
「ナトーに課せられたミッションは大変困難だと思います、しかし貴女が死ぬことで解決できる問題ではありません。むしろ生きていてこそ……」
「私は、死にたいとは思っていませんわ」
「だったら何故、消して欲しいなんて」
「お互いに行き詰まった、現在の状況を完全に打開するためよ」
「でも、貴女を殺すなんて僕には出来ない! それに、ナトーを見守らなければいけない立場の貴女が突然いなくなるなんて、そんな事になったらナトー自身がどうなってしまうか分からない!」
「もちろん放置はしないわ、ただ今までのように密着型の24時間体制ではなくなるというだけのことよ」
「しかし世間を知らなすぎる! そんな子をこの荒野に放つなんて」
「だったら家の中に閉じ込めておくの? でも、そうしていてもナトーの犯した罪は償えない」
「それは荒野に放っても何も変わらない。ナトーの身に危険が増すだけだ」
「まあ。 過保護なのね、イラクから頻繁にサラちゃんに会いに行くだけの事はあるわ」
「……僕にはサラを守らなければならない使命がある」
「メェナードさん」
急に柏木サオリが声のトーンを下げて、ゆっくりと僕の名前を読んだ。
「な、なんだ……」
「一人称が“僕”に戻っていますよ」
しまった!
ついムキになって、忘れていた。
「可愛い子には、旅をさせろ」
「?」
「日本に古くから伝わる“ことわざ”で、『子供が可愛いなら旅をさせて世の中の辛いことも学ばせた方が良い』という意味です」
「まだナトーは15歳だぞ‼」
「もう直ぐ16歳よ。それに貴方の大切なサラちゃんは、12歳の時に貴方に出会うまで孤独な旅を続けて来た。……違いますか」
4歳の時に両親が死に、サラは粗悪な公立の孤児院に入れられた。
小学校の時は孤児というだけで酷い虐めも受けたが、助けたり相談したりできる大人も居なかったため、かなり過激な手段ながらそれを一人で乗り切った。
その後、小学校を卒業すると廃棄物のオートバイを誰の手も借りずに蘇生して、住み慣れたイラクを捨てて旅に出た。
そこで僕は、サラと出会った。
「でも、ナトーはサラとは違う!」
「そうね。12歳のサラと比べれば随分背も高いし、いつ荒野に置いてけぼりにされても自立して生きていけるように身を守る護身術やサバイバル術などは教えてある。もちろん英語やフランス語などの外国語も」
「だけど……」
サオリは急に笑みを浮かべた。
「やはり蒲生の報告は間違いなかったようね」
「蒲生の報告?」
「そう、凄く紳士で信頼できる人だって」
それから私たちはサオリが消えてしまう計画を練った。
ごく自然にミランやナトーの前から消え、そして戦争という状況の中で自らが犯してしまった事実と向き合える方法を。
そしてザリバンの無差別爆破テロに見せかけて、サオリはナトーの前から姿を消した。
柏木サオリが居なくなったことで、ナトーを赤十字に残しておけないミランが私にナトーも一緒にと言い出して私が渋々了承すればナトーの確保は出来る。
あとはテキトウな理由をつけてナトーに偽名を名乗らせて、もし彼女がグリムリーパーであった時のことも考えて医療関係の知識を身に着けさせればいい。
全てが上手くいったかに思えたが、実はこのとき思いもよらぬ人物がナトーの前に現れて、そのために計画が大きく歪んでしまったとは思いもよらなかった。
今月は偶数日の更新ですが、時間は当分夕方以降になると思います(-_-;)




