【柏木サオリとの接触②(Contact with Saori Kashiwagi)】
「ところでサラさんはお元気ですか?」
柏木サオリに、不意にサラのことを聞かれて戸惑った。
日本への旅行から帰って来て、合っていない。
あれから2年、サラとは連絡も取っていない。
だけどサラの事だから、いくら困難なことがあってもものともせず、元気にやっているに違いないので「元気だ」と答えた。
柏木サオリはさすがに優秀なエージェントだけあって、この一瞬遅れた回答を見逃さなかった。
「やはり貴方は、サラさんに迷惑が及ばないように連絡を絶っているのですね」
「まさか、何故サラに迷惑が掛かるのだ?」
「任務の裏に隠された秘密があるからでしょう。でも安心しましたわ。あの頑固者の栗林会長が気を許してしまいそうになるはずです」
その栗林会長はナトーにグリムリーパーの疑いがある以上会うことは出来ないと言った。
同じようにPOCの幹部であるサラにも。
死んだ一人娘の残した孫2人と、合う事も出来ない非情な運命。
その運命を背負ってしまったのは何も栗林会長だけではなく、サラとナトーの姉妹もまた同じこと。
しかもサラとナトーの関係は、更に複雑で致命的な問題がある。
「ナトーは、やはりグリムリーパーだったのですか?」
率直に聞いた。
彼女がグリムリーパーであれば、そのグリムリーパーに大切な友人と恋人を射殺されたサラに合わせる訳にはいかなくなる。
「分かりません」
「分からないとは、どういう事なのです?」
「ナトーに聞いていません」
「聞いていないって、何故!?」
「メェナードさんなら、聞けますか? おそらくナトーは素直な子だから、聞かれればその後の自分の将来がどうなるか分かっていようとも正直に本当のことを話してくれるでしょう。なんでしたら直接本人に確かめても構いませんよ」
やはり柏木サオリも私と同様に、ナトーがグリムリーパーだった確率が非常に高いことを恐れている。
そしてナトーの将来のことも。
彼女の過去がグリムリーパーだと確定すれば、栗林会長とは永遠に会うことは出来なくなるかもしれないばかりでなく、姉のサラにも合うことは出来なくなる。
グリムリーパーだと分かれば、SISCONもナトーから手を引く。
当然その時に柏木サオリがどうしてもナトーの元に残ると言い張ったとしても、それは許されることではない。
私も同じ。
いつまでもサラや組織に偽って、こうして居るわけにもいかない。
ナトーは荒野に一人取り残され、孤児として孤独に生きていくしかない。
誰も頼る者のない孤児が一人で生きて行くのは厳しい。
特に先進国でもない発展途上国。
そのうえ立て続けに2度の戦争に敗北した、このイラクではなおさら。
柏木サオリが隣に並び、同じようにチグリス川に目をやった。
お互いに黙ったまま、川の流れを見つめている。
私がミランに提案した条件は、今の彼の年収の10倍程度。
もっとも赤十字は賃金が安いので、民間の医療機関に比べれば3倍程度に過ぎない。
けれども平和活動に携わりながら医師として、また趣味の射撃の練習を受けることが出来る条件は、支払われるサラリー以上に彼には魅力的な物だろう。
あるときミランに聞かれた。
友達を誘っても良いかと。
その時の私は風の噂でサラのボディーガードの話を聞いたばかりだったので、殆どミランの話はテキトーに聞き流していて、優秀なら構わないとだけ答えた。
私の返事に何故か有頂天になったミランが報酬の件を聞いてきたので、それも能力に応じて君を基準にしてもっと優秀ならもっと払うとだけ答えた。
実際にミランより上にランクされる医者など赤十字には居なかった。
ただ一人の例外的人物、柏木サオリを除いては……。
よく考えれば分かることだった。
なのに、その時は思考に余力がなかった。
それはクラウディ・オマハの経歴書に目を通していたから。
なんと彼女はあの時グリムリーパーが侵入して、我々が破壊したあのアパートで死んだ住民2名の家族。
屹度サラは、2人で協力してグリムリーパーを倒すことを考えているに違いない。
グリムリーパーの正体が、実の妹であるナトーである確率が非常に高いという事実も知らないで。
もっとも、この事実は私がサラに知られないように隠しているから、彼女は知りようもないのだが。
ミランと柏木サオリを殺す気のない私にとって、お手上げ状態で彼女をここに呼びだしたのだが、この柏木サオリの態度は一体何なのだ?
まるで私と同じように、お手上げ状態だと言わんばかりに同じチグリス川を見つめたまま黙り込んでいる。
まあ、いいか。
長い人生、行き詰まることもある。
しばらく2人で川を見ていると、急に柏木サオリが川に背中を向けて空を見上げて言った。
「私を消して」と。
夏バテ~~~~(-_-;)
アリナミンCか何かの滋養強壮ドリンクのCMで、神様が願いを叶えてくれると言うので「疲れを取って欲しい」とお願いするのがありましたが、今の私がまさにその状態。
神様:「本当に、それでいいんだね」
私 :「やっぱり宝くじの1等当選に変えても良いですか?」
神様:「疲れは、取らなくて良いのか?」
私 :「いいよ。だって5億円当たれば、一年間温泉に浸かり放題できるもの」
神様:「そういえば、いつも流れ星に“小説家になれますように”と願い事をしていたようじゃが、そっちは良いのか?」
私 :「迷うようなこと、言わないで下さい」




