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アン・ファミーユ(家族とともに)第2部  作者: 湖灯


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【柏木サオリとの接触①(Contact with Saori Kashiwagi)】

 ザリバンに侵入して数年が経った。

 ザリバンの中では携帯起動式爆弾の製造を行ったり定期的に射撃や武術の訓練を行ったりして、我々のバラク小隊はメキメキと組織内でその頭角を現し、今ではバラクは中隊長に昇進してもう直ぐ大隊長になる日も見えてきた。

 もちろん私も、その参謀として本部からも“黒覆面の男”として注目を浴びつつあることを風の噂で聞かされるようになった。

 もうあと少し。

 バラクを大隊長まで引き上げることが出来れば、私も幹部として引き抜かれる可能性は高いだろう。

 幹部になりさえすれば、グリムリーパーの正体が分かるはず。

 それでナトーとグリムリーパーとの関係が無いことが分かれば、この組織ともオサラバしてナトーを連れてサラの元に届け、私のミッションは終了する。

 そうなればこの“私”と言う嫌な一人称ともお別れして、元の“僕”に一人称を戻して前のようにサラを見守りながら過ごすことにしよう。

 ザリバンへの潜入に成功して周囲からもそれなりに認められるようになり、まだ少し時間は掛かると思うが計画は順調に進んでいて、既に闇の武器商人の幾つかは平和的に排除することに成功している。

 ここで言う“平和的”とは単に殺していないというだけで、彼らのうち幾つかは私に歯向かったためにそれなりの“お仕置き”は、させてもらった。

 彼ら闇業者からの武器の供給が無くなった分だけ、POCから販売する道筋をつけることに成功している。

 今は小銃や弾薬と言った安いものばかりだが、これもいずれ大きなビジネスに広げていくつもりだ。

 そしてミランのPOCへの引き抜きも順調に進んでいたが、ここに来て厄介な問題が発生した。

 それはミランの恋人問題。

 今まで気づかなかったがミランは同じ赤十字の医師、柏木サオリと恋人関係にあり、こともあろうかPOCへ一緒に入ろうと熱烈に誘っている。

 柏木サオリと言えば今は赤十字の医師として働いているものの、その正体は我々POCと敵対関係にあるSISCONの優秀なエージェント。

 いまこの大切な時に、私の正体がバレてしまうのはマズイ。

 おそらく会社の上の人間に状況が露呈してしまえば、ミランは消される。

 そうすれば計画が破綻することは無い。

 だが私を信用しているミランを裏切るわけにはいかない。

 考え抜いた末に、私は柏木サオリと直接会って話をすることにした。


 バクダッド郊外、チグリス川の畔にある病院の屋上。

「やっと会いに来てくれましたね、メェナードさん」

「やっと?」

「ええ、東京の蒲生から貴方のことを聞いた時から、私は貴方に会う日を楽しみにしていました。申し遅れましたが柏木サオリです。どうぞ、宜しく」

 彼女は、そう笑顔を向けると握手をするために自らの右手を前に差し出した。

 今までの調査で分かっている柏木サオリのプロフィールは、SISCON優秀なエージェントであり且つ優秀な医師と言うほかに、身長157㎝と小柄で華奢な見かけによらず合気道の腕前は日本のみならず男女含めても世界でトップクラスであること。

 迂闊に握手に応じようものなら、逆間接を取られて拘束されるかも知れない。

 一瞬躊躇したものの、ここで警戒していては対等な話し合いは出来ないので素直に右手を差し出して彼女の手を握ると、何事もなく握手は成立した。

「今回POCの私が、SISCONの貴女を呼び出した訳は、もうお分かりですね」

「ええ」

「ミランの誘いに応じた貴女をPOCに入れる訳にはいきませんし、POC入りを止めさせるためにミランを説得されても困ります。もう事態は止められない所まで進んでいますので」

「承知しておりますわ。前者では私を、後者ではミラン、もしくは私と両方を始末する必要が生じますものね。問題を放置しておけば、貴方の大切な計画も破談になるし……銃は持って来たのですか?」

「いいえ、私に貴女を殺す権利などありません。それは貴女に限ったことではなくミランを含めた他の人も同じです」

「でも、将来的にはかなり多くの人を殺すことになる。……違いますか?」

「止めましょう、そんな話は」

「すみません」

 さすがにSISCONが誇る優秀なエージェントだけあって、読みが深い。

 だがそれは、もっと先の話で、今は現実性も何もない。

「ナトーさんは、どうですか?」

「ええ、おかげさまで好い子に育っています。おたくのサラちゃんに似て、とても賢くてもう英語とフランス語を覚えて今は日本語とイタリア語に挑戦しています」

「そうですか……武術の素質は? あれから随分背丈が伸びたようですが」

 柏木サオリは、ニコッと笑い、私の顔を覗き込む。

 私はニカブを着ていて目だけしか見せていないが、それでも心まで覗かれているような気がして顔をチグリス川の方に向けた。

「ええ赤十字に来たときには身長も標準より低くて栄養失調状態でしたが、今では身長も170㎝を軽く超えて体重もそれなりに重くなり、今では私も彼女に追い詰められるほどになりましたわ」

「貴女ほどの腕前の人が?」

「そう。彼女には格闘技の素質あると思います」

 随分大きくなったと思っていたが、もう170㎝を優に超えているとは思わなかった。

 しかもチャンピオンクラスの柏木サオリを追い詰めるまでとは。

 そう思うと何故かサラのことを思い出してしまう。

 姉であるサラは身長こそ167㎝あるものの体重は40㎏チョットしかなく、これではいくら彼女の運動神経や反射神経が良くてもあまり意味がない。

 格闘技の殆どが体重別に細かく階級が分けられているように、その体重によって相手に与えるダメージや、相手の攻撃を受け止めうる能力に差が生じる。

 例えばボクシングで最軽量のミニマム級 (105ポンド以下)の放つパンチはヘビー級(200ポンド以上)には効かない。逆にヘビー級のパンチをミニマム級のボクサーが喰らうとガード越しであろうとも吹っ飛ばされるのは確実だ。

 そのことを思うと、体格的に恵まれないサラが可哀そうに思えてくる。

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