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アン・ファミーユ(家族とともに)第2部  作者: 湖灯


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【ミランを勧誘②(Recruit Milan)】

「じゃあ、俺は、どうすればいいんだ。このまま医療活動を続けても、不幸を増やしているというだけなのか……」

 ミランは自らに言い聞かせるように呟く。

「もちろん君たちの活動によって助かる命も沢山あるが、戦争や紛争が続く限りかなりの確率で不幸を作り続けていることは確かだろう」

「じゃあ俺たち赤十字の活動は間違っているのか?」

 不安を抱えたミランが、すがる様に聞く。

「間違っていないとも言えるし、間違っているとも言える」

「そ、それは?」

「先ず、順番を考えるべきだ」

「順番……?」

「そう。戦争や紛争状態にある中で治療を続けていることそのものが問題だと思わないか?」

「い、いや。だって、そう言うことが起こっているから、負傷者や難民は赤十字に来ているんだぞ」

「その通り。だから最初に需要と供給の話をした」

「それは医療サービスの負担の話では」

「たしかに最初に話したのはその通りだけど、国際赤十字を需要とした場合、供給側は何になる?」

「患者……つまり戦争被害者と言う事か!?」

「つまり国際赤十字は、戦争や紛争、飢餓や災害に貧困というものによって成り立っている組織だ。平和で豊かなら、民間の病院で事は足りるだろう」

「じゃあ、俺たち赤十字が先ずしなければいけないのは、住民たちの避難支援と言う事か?」

「違う」

「違うって……だけど、放っておけば戦争に巻き込まれてしまうんだぞ!」

「何十万人も居る住民を動かすことは赤十字だけでは不可能だ。よく考えてみろよ、戦争が行われていても住民の多くは街に留まり続けて居るんだぜ。何故だか分かるか?」

「安全が保障されないからか」

「その通り。経済力や他所に頼るべき知人が居るのなら、事が起きる前に避難も出来るだろうが、そうでない場合は事が起きてからでないと避難はしない。そして避難しようと思ったときは既に街自体が砲撃や爆撃に晒されている状態。つまり、もう手遅れだ」

「手遅れ」

 結局自分たちが治療した人たちは戦争が生み出し、赤十字はただそれを受け入れているだけの事。

 これではまるで、ある程度戦争に協力しているといっても過言ではないのかも知れない。

 しかも……これは前々から不思議に思っていたのだが、折角治療の済んだ人たちも殆ど誰も難民キャンプを離れようとしないから規模は膨らみ続けてスタッフの負担は増えるばかり。

 その理由が、社会復帰できない状況が続いているからだなんて、思いもよらなかった。

 ミランの医師としてのプライドは、もうズタズタに傷ついてしまった。

「興味深い資料があるんだ」

「興味深い?」

「そう。第2次世界大戦の敗戦国であるドイツと日本の被害比較だ。ドイツは軍人422万人の死者数に対して民間人の死者数は267万人で、民間人の死亡比率は全体の63%にも及ぶ。そして日本は軍人230万人に対して民間人80万人で、民間人の死亡補率は37%に過ぎず、圧倒的に軍人の死亡率の方が高い。これは何故だと思う?」

「国土が戦場になったドイツと、殆ど国土以外の地域で戦った日本の違い」

「その通り。日本の主戦場は太平洋と中国大陸。ドイツは戦争末期の半年足らずだがドイツ本国が主戦場になっている」

「でも、それは単なる大陸にある国家と、海洋国家という地理的な問題では?」

「ところが、そうでもない。日本の戦略は、はじめから本土に敵を寄せ付けないことを前提としていた。そのことは1942年4月18日のアメリカ航空母艦による東京空襲(ドーリットル空襲)後のミッドウェイ海戦がアメリカの航空母艦を狙った作戦である事で分かるだろう」

「たしかに、それはそうだが……」

「よく考えろよ、ハンニバルは何処で敵と戦った? ローマ市街じゃないだろう。 ナポレオンは? つまり昔は数万から数十万と言われる軍勢がお互いに布陣できる土地が必要になるから、多くのケースで都市では大きな戦いは行われない。都市で戦わないと言うことは大規模な虐殺が行われない限り、民間人の犠牲者はそれほど増えない」

「たしかにそうだが、今は時代が違う」

「そうでもない。湾岸戦争でイラク軍戦車とアメリカ軍戦車は、通称73イースティングと呼ばれる国境線から13キロ離れた砂漠の真ん中で戦った。だからこの戦いでは民間人の犠牲者は出ていない……。もし、戦いの規模や場所をコントロールすることが出来たとしたならば、どういうことが可能になる?」

「それは、つまり戦う軍人同士だけが傷つけ合う戦闘に……しかし、そんなことは出来っこない」

 ミランは一旦自らの理想を出しかけて、直ぐ後にそれを自ら否定した。

 ナカナカ良い。

「私が知っている平和組織なら、それが可能となる」

「平和組織が戦争に関与するなんて、おかしいだろう!」

「では、平和というお題目を唱えていれば、平和が訪れるとでも?」

「いや、それはない……そもそも、その平和組織とはなにものなのだ!」

 いいぞ、調べた通り、生粋のお坊ちゃま育ち。

 純真で、曇りがない。

POCポック

「POC!?」

「そう。正式名称はFor the Peace of children's(子供たちの平和のために)という名の “平和組織”」

「そんな普通の平和組織に、なんで軍人同士だけを戦わせることが出来るのだ!?」

「POCは、武器を扱っているからだ」

「自衛のため?」

「いや、販売目的だ」

「それって、武器商人ということなのか?」

「そうだ」

「平和組織が、武器を!? それってカルト教団みたいなものじゃないのか?」

「まさか、さっきも言っただろう。お題目を唱えているだけでは戦争は無くならないと」

「じゃあ、何のために……」

「世の中には、好戦的な人間と、そうではない平和的な人間が居る。平和的な人間は極力話し合いで戦争を回避しようとするが、それは勝利に拘り過ぎる好戦的な人間によって阻まれる。ミラン。ここで君に聞きたいが、戦争への流れは、どちらが主導権を握っていると思う?」

「人数に大差がなければ、好戦的な人間が主導権を握っている」

「つまり戦争になるかならないか、始まった戦争をどう終わらせるかというカギは、常にこの好戦的な人間たちが握っている。裏を返せば、この好戦的な人間を効率的に減らすことが出来たなら、どうなる?」

「戦争は終わる。だけど、効率的に減らす事なんて、まさか……」

「ナカナカ感が良いな、その通り。奴らの好物は“武器”だから、この出し入れで何とでもなる。こうして好戦的な人間を減らして行けば、おのずと平和が訪れる。君も、そう思わないか?」

「たしかに、それはそうだと思うが、難しい事ではないのか?」

「だからPOCは君のように優秀な人材を求めているんだ」

「あなたは、POCの関係者なのですか」

「YES」


 賢くて優秀な人間ほど一旦信用してしまえば、まるで子供のように純粋に信じ込む。

 ミランも、その一人。

 かくいう私、メェナード・ロビンソンも、その一人だったのは確かだが。

戦争、特に戦争を行う方の場合、自国の開発能力や生産能力、輸送力、燃料備蓄量に戦闘人員の投入能力を考えた中長期的な戦争計画にのっとった作戦を実行する必要があります。

もちろんこれらに合わせて敵国の反撃による消耗も充分に考慮する必要があります。

これらを考えて進めないと、ある時点で上記の何れかが滞って計画が破綻してしまうからです。

日本の敗戦を決定的にした分岐点となったミッドウェイ海戦ですが、これは本編に述べているように1942年4月18日のドーリットル空襲により急遽発生した作戦でした。

空母4隻を失ったことが大きくクローズアップされていますが、それ以上に深刻になったのは燃料の消費です。

燃料不足のため日本海軍は大規模な作戦を行うときに必要な燃料を確保するために、少数での単発的な作戦しか出来ない状態に陥ってしまいます。

それがソロモン沖海戦です。

こだこの時期は、ミッドウェイ海戦で主力空母4隻を失ったとはいえ、アメリカ海軍も新たに配備される空母が無い状態でした。

ソロモン沖海戦では、ある時は日本が勝ち、またある時はアメリカが勝つと言った互角の戦闘を繰り広げますが、結局アメリカ軍に決定的な損害を与えるには至らず、消耗戦に引きづり込まれ貴重な燃料と人員と船を失ってしまいます。

恐らくはミッドウェイ海戦に快勝していたとしても、その後の行動に制約を受けてしまった海軍は以前の様にインド洋から太平洋まで自由自在には行動できなくなり、結局似たような運命をたどったことでしょう。

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― 新着の感想 ―
[一言]  この考え方って、好戦的な人間に武器を与えて殺し合いをさせて好戦的な人間を減らすと云う事ですか❔  場所を指定して❔  すみません、頭悪くてよく解らなかったですう。(TдT)
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