グレイのパーフェクト魔王教室
みんなー、グレイのパーフェクト魔王教室ぅ、はーじまーるよー☆
初代みたいな大魔王目指してぇー頑張っていってね☆
「もう既にいやな予感がする」
「うるせえ。とにもかくにも覚醒勇者ラッシュを乗りきらねえといけないんだよ。マトモな思考してられっか」
「だからってバカにならなくていいでしょ。バカに」
「お兄様! かっこいいです!」
「ああ、ここに来てから理想がことごとく崩れていく。こんな魔王達のために何をそんなに躍起になっていたんだろうな、私は」
今日は対覚醒勇者の作戦会議と覚醒勇者の復習講座だ。
受講者は二名、現魔王のヒルダと臨時代打のミルダ。
そして選ばれし勇者の俺と助手で神龍のレヴィだ。
俺は隣にいるレヴィを棒で指す。
「それではレヴィ、覚醒勇者について説明を」
「え? 私? 魔王たちに聞けばいいと思うんだけど」
「えっ、もしかして知らないの?」
「お、おう知っているとも! だてに長生きしていないからね!」
俺がはっぱをかけると、動揺したレヴィが説明を始めた。
「覚醒勇者は年に一度の精魂祭で精霊王に認められ加護を与えられた勇者の総称。元々の素質が高い勇者がもっとパワーアップする。更にいろんな特典がついてくるらしいんだけどそこまでは流石に知らないかな」
「おおよそその通りだ。実を言うとその特典というのが精霊王の加護、効果は属性耐性がつく。これがかなり厄介で魔法の通りが悪くなるし罠の効き目も薄くなる。むしろ勇者より厄介な代物だ」
「覚醒勇者は加護が本体というのは魔族業界の常識ですから」
「これはひどい」
現実を目の当たりにして更に絶望するレヴィ。
残念ながら事実だ。加護がなければあいつらはいつもの勇者に毛が生えた程度ですむ。
「でも、その加護が尋常じゃないほど強いのも事実なのよねぇ。私が魔法を打っても耐えて回復されるし呪い無効だし。即死無効なんてつけるんじゃないわよ」
「そのせいでミミックが完全にお荷物になるんだよなぁ。あいつらの即死魔法はうちの主戦力だってのに」
「そうそうスナックリリスも終わっちゃうからね」
「やっぱりここはゴーレム祭りでいくしかないわね」
「な、なんの話だい?」
「レヴィは知らないか。魔王の罠の設置にはある程度型が決まってるんだよ」
魔王には伝統芸能と呼ばれるいくつかの戦術がある。
五十四代目のネーミングセンスとともに記され、蔵書に掲載されている高度な戦術だ。
他にも固定砲台ドラゴンやレアモンホイホイなどがある。
どれも鬼畜な戦法なので度々使わせてもらってます。
中でもコケ地獄は強すぎて殿堂入りしている。
一体何があったんだ?
「……ねえ相棒」
「なんだい?」
「……正々堂々戦うって言う選択肢はないのかい?」
「っ……このバカちんがぁ!」
「え!? 私、なにか悪いこと言った!?」
こいつ本当に頭空っぽなこと言い始めたぞ!
これは念入りな教育が必要だ。
「あんなチート軍団に魔王一人で立ち向かえと!? むしろそっちの方が勇者だわ! いいか!? 俺たちの最重要目的はいかに少ない被害で勇者を殲滅するかだ! 正々堂々なんて言ってられるかぁ!」
「で、でも相手も小細工無しで来ているわけだし……」
「一対多数の時点で小細工マシマシだよ! 唯一本当の意味で小細工無しだったのがモンゴリアンっていう頭のいかれた筋肉バカだけだったよ! 少しくらいいいじゃない!」
お前は勇者の恐ろしさを知らない。
命を奪うことになんの躊躇もしないんだよ?
相手がふせっていようが四肢をもがれていようが構わず殺す。
一に殺害、二に殺戮、苦手なことは手加減とかいう連中。そんな奴らを真面目に相手していたらヒルダの過労死間違い無しだ。
「お前もこちら側なんだからいい加減なれろ。勇者は善か悪かでいったら間違いなく悪だ。断言できる」
「ええ……」
「そうですよレヴィさん。勇者は間違いなく悪です。見ればわかります」
「あー、これは資料映像を見せた方がいいわね。グレイ、復習もかねて例のモノを」
「おけ」
なるほど、それはいい考えだ。
俺はヒルダの注文通り、部屋の物置から資料映像の記された円盤を持ち出す。
過去に魔王城が取材された時の番組の録画だ。
俺はその中から勇者の生態についてとられたものを抜粋する。
「あーハイハイ。爆笑勇者のトラップドッキリ百選ね」
「違う。魔王密着二十四時よ」
「えー、だってあれヤラセじゃん」
「ヤラセじゃなくてめんどくさそうな勇者を先に間引いたの! 撮れ高調整なの!」
「流すなら第十二回にしてくださいね? ミルダの活躍を見せましょう」
「あの回は放送事故だったわよね? あまりにも残酷すぎてしばらく静止画が映ってたじゃない」
「たかだか臓物を散らしただけでしょう? 姉様だってよくやっているではありませんか」
「流石にあのときは番組のことを考えて塵も残さずに蒸発させてやったわよ」
「君たちは本当に勇者をゴミのようにしか思っていないんだね」
投影水晶に明かりをつけてディスクを差し込む。
そしてポチっとな。
『第十六回魔王密着二十四時!』
「レヴィにはこれぐらいがいいだろ?」
「んー、なかなか渋いところついてくるわね」
「お兄様お兄様、ミルダが出ていません」
「後で十二回も見せてやるから我慢しとけ」
「わーい!」
一部のファンから伝説の神回と呼ばれている第十六回だ。
この回は勇者のクズさが濃縮されている。
俺は水晶を動かして問題のシーンを再生する。
よし、ここだ。
水晶から音声が流れ始める。
『勇者は時に魔王城でも問題を起こす(ナレーション)』
『お、お前!なぜここに!?(勇者A)』
『あのとき確かに崖から落としたはずじゃ……!(女)』
『やっぱりお前だったか◯◯◯。(勇者B)』
『しまっ!?(女)』
「ストップ」
レヴィが手を上げて水晶を止める。
「どういう状況?なんで勇者が言い争ってるの?」
「なんか痴情のもつれらしいよ? まだまだ問題はこれから」
気を取り直して再開。
『◯◯◯様。一体どの方で?(獣人女)』
『前に話した俺を崖に突き落とした奴だよ。ま、そのお陰でお前に会えたんだけどな。(勇者B)』
『そんな、あの方が……。◯◯◯様を貶めるなんて許せない!(獣人女)』
『別にいいんだよ。こんな奴は。別に◯◯◯が気をおう必要はないんだ。(勇者B)』
『でも……(獣人女)』
『俺はお前が隣にいるだけで十分なんだ。(勇者B)』
『◯◯◯様……(獣人女)』
『これは俺の問題だ。……◯◯◯。(勇者B)』
「ストップ」
またレヴィが手を上げた。
「ん? どうした、レヴィ」
「なにあの激甘空間。ここ魔王の間だよね? 魔王がちょくちょく見きれているんだけど」
「よく気づいたな。これはヒルダの前で勇者が過去を清算している最中だ」
「勇者はそんなにバカなのか?」
「知らなかったのか?勇者は基本的に空気なんてものは読まないぞ?」
「ええ……」
「さて、ここらはサクッといこう」
ここからクライマックスだ。
『な、なあ。まさかその刀……噂の千人切り……(勇者A)』
『まさか! そんなわけないじゃない! アイツは雑魚だったのよ!? どうしようもない弱さだったじゃない!(女A)』
『あー、確かにそんなものもあったな。今の俺には関係ないが(勇者B)』
『ガラガラガラ(柱が崩れる音)』
『な!? 一太刀で……!(勇者A)』
『あの時はひたすらに修行してたからなぁ。ま、見ててな。俺が魔王を倒してから話を聞こうか。◯◯◯、いくぞ。(勇者B)』
『はい! ◯◯◯様!(獣人女)』
『待たせたな魔王。この城の瓦礫がお前の墓場d(勇者B)』
『勝手に他人の家を壊すんじゃねえぇえええ! あと喧嘩はよそでやれぇェエエエ!!(ヒルダ)』
「えええええええ!? ワンパン!?」
ぶちギレたヒルダにぶっ飛ばされて勇者がご臨終。
怒りの鉄拳ここに極まれり。
「あの時は本気でキレたわね。話長いしどうでもいいし。しかも『俺、強いですよ』アピールのために柱を斬るし」
「この後はカットされてるんですけどもちろん全員姉様が蒸発させましたよ?」
「あの時はうざかった。ホント」
これが伝説の神回『ざまあブレイカーヒルダ』の全てである。
「「「ね?勇者って悪でしょ?」」」
「私が思ってた悪のベクトルと違うんだけど」
レヴィの反応は思ったよりも微妙だった。
「ともかく。こんな喋らせれば喋らせる程厄介ごとになる勇者はさっさと倒すに限るってことだ」
「本当にそんな感じで殺すのか?」
「全員キャベツと思ったら楽になるわよ?」
「ま、マジですかぁ」
「レヴィ、お前もいつかは勇者を殺すんだぞ?」
「え!? 確定事項なの!?」
「お前を忘れてた存在だろ?少なからず思っていることがあるんじゃないか?」
「まあそりゃああるけど……」
「ついでに言うとお前の立場を奪った精霊も来るからな?」
「ぶっ殺してやる。精霊なんぞに浮気しやがった奴らも片っ端から殺してやる」
よしよしその調子だ。それでこそ俺の相棒。
「それで私は何をすればいいんだ?」
「逆に何が出来るの?」
「竜変化に灼熱ブレス、炎系統魔法は特上中下全部、攻撃力アップ魔法に武器破壊ぐらいかな」
「「「優秀」」」
こいつビックリするほど優秀だった。
特に攻撃アップ魔法はヒルダにかければ加護を貫通できるかもしれない。
勇者の皆さん、時代は神龍ですよ。
「えへへー、そうかな?」
「よしお前は固定バフ砲台になってもらう」
「……え?」
「ヒルダに魔法をかけまくる係だ。もしかしたら第二形態も必要ないかもしれない」
「わ、私も目立ちたいんだけど?」
「んー、それなら城をブラブラーってして勇者を狩っていけば? 罠がものすごいあるけど」
「遠慮しときます」
事実覚醒勇者ラッシュで目立とうなんて思わない方がいい。
目立つとその分狙われて滅多打ちにされる。
大人しく魔法をかけてろ。
「大体初回の会議はこんな感じだな。ヒルダとミルダは第二形態を完成させろ。俺は先代とお義母さんにこの事を報告して来る」
「わかったわ」
「ミルダも頑張ります!」
「レヴィは魔法の精密さを上げろ。できれば勇者たちにわからないところから撃ってもらいたい」
「わ、わかった」
当面の目的は覚醒勇者ラッシュをいかにして乗りきるかだ。
それには失敗が許されない。
なぜなら命のやり取りだからだ。
ヒルダ政権第二回目の覚醒勇者ラッシュ。
結果は神のみぞ知る。