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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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魔王城ツクール

「……んぐっ。あーやっぱり朝食はベーコンエッグね」


 紫色の目玉焼きをフォークでつつきながら、ヒルダが満面の笑みを浮かべる。

 魔王様の大好物はこのベーコンエッグなのだ。

 これから勇者と血で血を洗う戦いをするってのによく吐かないなぁと常々思う。


 俺は半熟の目玉焼きの黄身を贅沢にぶちまけながら


「ヒルダ、今日の勇者パーティーは三組らしいぞ」

「あら、意外と少ないわね。いつもなら六組くらい来るでしょう?」

「どうも向こうの大陸で国同士の戦争が始まるから勇者の船の数がかなり減っているらしい。しばらくは勇者の相手をしなくて済みそうだぞ」


 それを聞いてヒルダは少しホッとする。


「それはよかった……といっても、事務作業が待ってるんでしょ?」

「もちろん」

「うわーやだー」

「国民のために働こう」


 俺の立てた親指にヒルダの顔から笑みが消え、代わりに嫌悪に溢れた顔が現れた。

 魔王様は腐っても王族なのです。


 ヒルダは面白くなさそうにため息をつく。


「あんたはいいわねぇ。ほぼ居候なのに」

「まあ貴族の連中が人間の俺を政治に踏み込ませないからな。踏み込みたいとも思わないが」

「一応言うけど、グレイは私の代理の権限があるのよ? そんな連中は叩き潰せばいいじゃない」

「それはごめんだ。向こうが働かなくていいって言ってるんだから俺が働く道理はない」

「このニート勇者が」


 何言ってんだお前。こっちもちょくちょく勇者間引いたり船沈めたりしてるんだぞ。小遣い稼ぎに。


「まあいいわ。今日はちょっと魔王城を改造しようと思ってたの。あわよくば罠だけで勇者を全滅させてやろうってね」

「お前にできるの? あれの操作は結構難しかったじゃん」

「私を誰だと思ってるの。天下の魔王よ、ま・お・う。魔族を統べる者にこれができなくてどうするのよ」

「こいつ、見事にフラグをぶちたてやがった……」


 ヒルダはベーコンエッグを飲み込み「ごちそうさまー」と言うと早速魔王の間に向かっていった。


 これは心配だ。

 俺も急いで朝食を食べ終わるとヒルダの後を追った。




 場所は魔王の間のメインルーム。

 ここでは魔王城のシステムの全てが自動で管理されている。

 このシステムは6代目魔王、つまりヒルダのご先祖様が作ったものだ。

 魔力を動力としてそれぞれのシステムに対応した水晶玉を操作することでシステムを簡単に改造できる。

 しかし、このシステムは魔王の系譜の者しか扱えない。


「ここをこうして……あっ」

「ああああスケさぁあああん!!」


 映像宝珠の画面の中で、俺の同僚にしてよき理解者のスケルトン、スケさんの首がヒルダが設置したギロチン罠によって切り落とされた。

 近くにいた動く時計の亡霊、カースクロックのカクさんがかけよりスケさんの首を接着する。

 今のはヒルダが不意にギロチン罠を設置したせいでスケさんが罠にかかってしまったのだ。


「ごめん、スケルトン」

「もうちょっと慎重にやろうよ! 特にヒルダはこういう頭使う系は苦手なんだから」


 実は、ヒルダがこれに挑戦することは今回が初めてではない。

 何回か罠を張ろうとしてはいるが、全て失敗している。


 先代も操作が苦手な方ではあったものの、ここまで酷くはなかった。


「というか普通ここにギロチン罠はおかないでしょ! そこは城の兵士がよく通る道! ギロチン罠はニセ宝箱で勇者たちを細道におびき寄せてから使うの!」

「そんなまどろっこしいことしていられないわよ。……あっ」

「カクさぁああああん!」


 言ったそばから今度はカクさんが毒沼に沈んだ。

 相棒のスケさんが急いで引っ張りあげる。

 アンデッドに毒は効かないとはいえ心臓に悪い。


「いやホントごめん」

「毒沼は序盤にいっぱい設置するんだよ! 動けば動くほど毒の回りが早くなるから中盤においてじわじわと体力を減らすために使うの! いいから消して!」

「ご、ごめん。魔力が空」

「はあ!? バカなの!? そんな無駄打ちすんなよ! おら、マナポーション」


 俺は仕方なくマナポーションを投げ渡す。

 なんとなくそんな気はしてたので持ってきて正解だった。


 ヒルダはそれを受けとると栓を開けて一気に中身を飲みほす。


「プハッ。もうちょっと頑張れそう」

「もうやめろよ。お前には無理だ。大人しく勇者をボコっとけ」

「ダメ。これは意地でもやる」

「はあ……もう勝手にしろ。俺はどうなっても知らないからな」


 忠告してやったというのになんて強情なやつだろうか。


 怒りを通り越して呆れた俺は、ありったけのマナポーションを床におくと逃げるようにメインルームからでていった。

 本当に、嫌な予感しかしない。





『ヘルプミー、出られなくなった』

「ああもうゴミカスゥウ!!」


 ヒルダからの念話で俺は目が覚めた。

 気持ちよく寝てたってのに何やってんだ。

 重いからだを起こし、床に足をつける。


『もう魔力がなくて動けない。ポーションも使いきった』

「オイオイオイ!勇者の相手どうすんだよ!」

『勇者については大丈夫。スケルトンとカースクロックが罠を使って全員始末した』


 スケさんとカクさんかっけぇ。

 魔王の配下の鏡だわ。


「じゃあスケさんとカクさんに来てもらって運んで貰えばいいじゃん。そのあと寝ろ」

『そういう訳にもいかないのよ。実は罠を置きすぎてスケルトンとカースクロックがメインルームにたどり着けないの』

「ばかやろぉおおお!!!」

『お願いグレイ。あんたしかいない』


 勢いあまって壁を殴る。

 クソがッ。まさか人生初めての救出イベントがこの『邪魔』王の救出だとは。

 勇者の肩書きはどこへやら。


 だが、ヒルダがいなくてはこの国はどうしようもない。俺は仕方なく部屋のドアを開けてヒルダの救出に向か───


「……なあヒルダ」

『何?』

「何で俺の部屋の廊下が針地獄になってるんだ?」


 ドアを開けた先には床一面の針針針。

 俺が部屋に入った時にはなかった針地獄がそこにはあった。

 罠のレパートリーの中でも殺意が高い罠だ。


『えーっと……あ、そうそう。もしグレイの部屋から勇者が入ってきたら魔王の間まで直通じゃない? だから……』

「もういい。そのまま一生床に這いつくばってろ」

『ああああ! ごめんなさい! すみませんでしたー! だから部屋に閉じ(こも)らないでー!』

「じゃあどうすんだよ! 終わってんぞ! 始まりの旅立ちから詰んでるぞコラ!」

『知らないわよ! 何とかして! 選ばれし勇者なんでしょ!』


 この邪魔王はホントに役立たずらしい。

 もうこいつを滅ぼした方が世界のためなんじゃないかな。


 しかし、そんなことを言っていてもしょうがない。

 さて、どうしようか。

 ──そうだ。

 こういう時の勇者の形見コレクションだ。数々の勇者が集めた便利道具ならいくらでもある。

 一つくらい使えるものがあってもいいはずだ。

 えーっといいものあったっけ。


 俺はクローゼットの中からめぼしいものをあれでもない、これでもないと取り出す。


 ……あ、これがいいかも。

 とある勇者が愛用していた絶対に破れないマントだ。

 これを敷いて歩けばなかなか行けるんじゃないか?

 俺は早速そのマントを針地獄に敷いて一歩を踏み出す。


 ……うん、やめよう。

 布を敷いても痛いものは痛い。自重で足の裏が痛い。


『何やってるのよ。早く助けに来なさい』

「今絶賛試行錯誤中だよ。とやかく言うな」

『空を飛べばいいでしょ』

「俺は人間だぞ? 魔族と違ってそんなにうまく体の構造ができてない……待てよ?」


 確かあったな、空を飛べる道具が一つだけ。

 んー多分ここに……あったあった。


 俺は引き出しの奥から一足の靴を取り出す。

 この前乗り込んできた勇者パーティーの盗賊が持っていた空飛ぶ靴だ。

 一回だけはいてみたものの、思ったよりも扱いづらかったので放置していた。

 今こそこの靴が輝く時。


 少し大きいが気合いで固定して準備完了。

 いざ、フライアウェイ。


「おお! 行ける行ける!」

『ブハハッ!! その歩き方超ウケる! ヤバい! お腹痛い! ハハハハ!』


 靴はやっぱり扱いづらかった。

 うるせえ、重心が安定しないんだからしょうがないだろ。

 俺は壁を伝って何とか針地獄を進む。

 転ぶ=死だ。油断してはいけない。


「うっし、このままだったら行けそう……あ?」


 魔王の間のドアの前になんとかたどり着いた。

 しかし、ここで違和感が。


「待て待て待て待て!なんでゴーレム罠があるんだよ!?」


 ゴーレムが魔王の間の門番のようにそびえ立っていた。

 しかもサイズ設定の大中小三つのなかで大が二体も。

 ヒルダの鬼畜仕様に冷や汗が出る。


「お前、ちゃんと俺を捕捉しないように設定してるよな!?」

『え、ええ、してるわよ? 多分』

「してないんですね、わかりますぅー」


 ゴーレム二体が俺を捕捉した。無機質な眼に光が点る。

 この点でいえばとてもいい罠の采配だよ、こんちくしょう!


 普通ならさっさとぶった斬ってやるのだが今回は靴のせいで生まれたての小鹿のような歩き方しかできない。

 こうなったら腹をくくるしかない。


 右のゴーレムが大剣を横になぐ。

 それに合わせて俺は靴を脱いで靴下で大剣の腹に着地。伊達に最強の勇者を名乗ってはいない。

 そのまま前にジャンプしてドアノブに手を掛け──


『グレイ!後ろ!』


 ヒルダからの焦った念が届いた。


 っ!?


 見ると、石の拳が目の前に迫っていた。

 左のゴーレムの拳が扉にめり込む。

 勢いを殺しきれなかった俺はその衝撃で部屋の中央に飛ばされた。


 ヒルダの念がなかったら直撃だった。


「おいヒルダ!てめえゴーレムの設定ぐらいちゃんとしておけ!」

『だって殺意マシマシの方が門番らしいし……』

「もうドアがめちゃくちゃだよ。これはお義母さんに怒られるな」

『……一緒に怒られてくれるわよね?』

「んなわけあるかっ!」

 

 痛む脇腹に手を当てながら誰もいない広間で怒鳴る。口のなかで血の味がした。


 しかし幸い、ゴーレムの起動範囲からは外れたようだ。

 俺を(ほふ)ろうとしたゴーレムは元の位置に戻っている。


 俺はボロボロのままメインルームの隠し扉を開けて、大の字になったヒルダと半日ぶりの再会を果たした。


「ご苦労さん」

「ヒルダ、なにか言うことは?」


 俺は笑顔でヒルダに問う。

 その質問にヒルダは即答。


「マナポーションを頂戴。あと疲労回復ポーションも」

「…………」


 俺は今持てる全ての力でマナポーションと疲労回復ポーションの瓶をヒルダの顔面にぶん投げた。

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