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魔王が勇者を拉致った結果  作者: デンダイアキヒロ
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変えられた運命

 ある世界のむかしむかしの事です。

 そこには、魔王と勇者という二大チートキャラがいました。


 宿命の敵であり対になる絶対存在。

 水にとっての油です。


 しかし、両者決定的な違いがありました。


 それは力関係は魔王>勇者なのに数が勇者>>>>魔王だということでした。

 しかも、勇者はそれぞれ伝説の剣と頼れる仲間と共に攻めこんでくるのです。


 魔王と魔族は困り果てました。

 対応が超絶面倒なのです。

 そもそも一対多数の時点でおかしいのです。

 正々堂々勝負しろやぁ!! と魔王側は日々叫んでいても勇者がそれを聞く道理はありません。


 なので、ただでさえ長命が故に繁殖力がない魔族は瞬く間に劣勢にたたされ、絶海の大陸で引きこもるしか勇者たちの追撃を絶つ方法はありませんでした。


 それからの数千年、人間と魔族は膠着状態が続きます。

 しかし、つい二十年前ほどに、突然永遠に思われた戦況が動きました。


 なんと、神が勇者に肩入れし始めたのです。

 情報によるとなんか人間が宗教的に都合の悪いことを言い始めたので全て魔王のせいにして解決しようとしたために肩入れしたらしいのです。クズです。


 その肩入れというのが『選ばれし勇者』制度。

 数多く生まれる勇者のなかでたった一人だけ魔王以上の力をもった勇者をこの世に生み出すというものでした。


 神が作ったんだよ!? 絶対やべえじゃん!! と魔王は焦りました。

 このままいけば魔族はもうおしまいです。


 魔王は種の存続をかけて対策を練りました。

 練って練って練って───3日目の朝。

 こんな作戦を打ち立てました。


 そうだ……その勇者を拉致ろう。


 魔王は徹夜テンションのまま作戦を決行。

 占い師に生まれる場所を占わせ、部下たちに拉致らせました。


 というか拉致る必要もありませんでした。

 なぜかというと、父親は既に他界、母親はその子を生んだときに死んでしまったからです。

 悲劇の勇者でした。


 流石にあわれに思った魔王の部下の魔族は赤ん坊を持って帰国し、この事を魔王……は寝ていたので王妃に報告しました。


 すると王妃は言いました。


 「この赤ん坊にお腹のなかにいる娘を守らせましょう。きっと役に立つに違いないわ」


 そう、王妃は妊娠して新たな魔王を身ごもっていたのです。


 こうして、選ばれし勇者は魔族の国で育てられることになりました。

 最初は反対意見もありましたが流石は王妃、お母さんパワーで黙らせました。


 そして何より、生まれてきた魔王の娘と勇者は双子の兄妹のように仲良く育ったので魔族たちがその勇者と打ち解けるのはそう遠い話ではありませんでした。


 ──それが十八年前の出来事。

 その勇者が俺です。



「グレイ、そこの水とって」

「やだー魔王サマー、おててが届かないんでちゅかー? できないんでちゅかー?」

「上司命令。あと少しは勇者の相手を手伝いなさいよ」


 先代魔王の娘、第106代目魔王にして現魔王のヒルダが禍々しい魔王の玉座から足をバタバタさせて駄々をこねる。


 見た目は可愛らしい(?)少女だが今さっき勇者パーティーをまとめて消し飛ばした。

 これで本日のノルマの5分の4が完了。

 勇者パーティーは残り一組だ。


 ごねるヒルダの頼みを、俺はきっぱり断る。


「同族殺しは嫌なので」

「あんたの趣味言ってみ?」

「勇者からの戦利品集め」

「そっちの方が何倍も魔王っぽいわよ」

「そんな誉めてもでるのは水だけだぞ」

「誉めてはないけど……ありがと」


 ヒルダは水筒を受けとると口をつけ、心行くままに水を流し込んだ。

 これは秘密だがその水には俺の勇者の形見コレクションのひとつである疲労回復ポーションが混ぜてある。

 この魔族の大陸では作れない貴重なものだ。


「……ぷはー、生き返るわー」

「おっと。もうすぐ次のパーティーが来るらしいぞ。監視係のスケルトンからの合図だ」

「えー、早いー」

「最近は潮の流れが悪いからな。クラーケンが勇者の船を沈めれないからこうやって城に勇者が来てしまう」

「魔王もバイト募集できないかしら。急募、魔王ノ代役求ム」

「命張ってるから期待はできないな。ヒルダにしかできないってことだ」

「グレイがやればいいと思うの。強さは私とどっこいどっこいだし」

「ご謙遜をー。このお仕事はヒルダ様にしかできませんー」

「超棒読みだと説得力無いわー」


 ぶっちゃけ勇者パーティーと5連戦とか本気でやりたくない。


 今までこうやって生きていられるのはヒルダの戦闘センスのお陰だと思う。

 流石は魔王と言ったところだ。


「言ってもあんたも神から選ばれし勇者でしょ。本来言ったら私よりももっともっと強くなれるはずなんだけどねぇ」


 ヒルダが頬杖をつきながら言う。


「そりゃあ俺はあんまり真面目に戦闘訓練とかは受けたことがないからな。聞いたところによると人間の国には勇者のための学校があるらしいぞ。あそこでがっつりキラーマシンに改造されてたらそうなったんじゃないか?」

「あーそれはわかる。勇者たちの私の命をとることに対する執着ヤバイもん。グレイがそうなってたら私なんてお陀仏だわー。助けてー神サマーって感じ。ホントお父様には感謝感謝」


 ヒルダはナムナムと手を合わせた。


 これが俺とヒルダの力が同じくらいであることの理由の半分だ。

 もう半分の理由はただ単にヒルダが強すぎるのである。


 幼少の時から俺という勇者と手合わせを行うという英才教育を受けた彼女は歴代最強魔王といっても過言ではない。

 欠伸をしながら勇者パーティーを壊滅させたのはずっと一緒にいた俺でも理不尽に感じた。


 ……と、俺はドア越しの気配に気づいた。

 来たな。


「じゃあ俺はここでお暇するわ。ラストガンバ、骨は拾ってやる」

「ちょ! なんd……フフフよく来た勇者よ! 素直に死にに来たことを誉めてやろう!」


 ドアノブに手がかかる音がしたので俺は急いで玉座の下の隠し通路に隠れる。

 ヒルダの戦いを覗き見して採点をするのが恒例行事だ。


 まずは演技。

 ヒルダの演技はまだまだ青いところはあるがデビュー二年目の新米魔王としては及第点だ。


 先代の演技はすごかったなぁ。

 一気に蝋燭に青白い炎が灯る演出とか最高だった。

 また見せてくれとお願いしてはいるが結局見せてくれない。ケチ。


 次に勇者パーティーの分析。

 今回の相手は見たところ超前衛型パーティーのようだ。

 最低限の回復で短期決戦を狙う型だ。


「でたな魔王!その命、貰い受けるッ!」

「フハハッ! 面白い! やってみろ!」


 勇者が一気に詰め寄る。

 ちょっと茶番トークが足りないかな、減点。


 さあ、気をとりなおして戦闘開始。


「『ホーリーセイバー』ッ!!」

「甘いわっ!」


 勇者の一撃をヒルダが紙一重で躱す。

 あーこれナメプですね。遊んでますね。

 大幅減点。

 俺なら受け止めて力の差を見せつける。


「チャーリー!」

「おう! 『ドラゴンラッシュ』! ……ぐはあ!」

「わービビったぁ」


 ヒルダが不意打ちを狙った格闘家に向けて反射的に魔法を撃った。

 格闘家の見せ場で魔法使ったらダメでしょ……。

 勇者の作戦もかなり雑だったがヒルダの対応が酷い。

 魔法を使っていいのは魔法職か勇者に対してだけだ。

 戦士や格闘家に魔法を使っては三流。


 しかも普通にビビってるし。素が出てるし。

 これはちょっと説教ルートかもしれない。


「クソぉ……」

「ね、狙いはよかったが我に魔法を使えないとでも思っていたのか?」


 と言いながらヒルダはチラっと俺の方に視線を回す。

 ダメです。アウトです。


「チャーリー! 大丈夫か!?」

「な、なんとかな。念のためにハイポーションを……!?」

「ど、どうしたチャーリー!」

「ハハハ、お探しのものはこれかな?」


 ヒルダは緑色の液体が入った拳大の薬瓶を勇者たちに見せつける。


 おお! さっきの攻撃で抜き取ってたのか!

 これはヒルダが俺と練習してようやく会得したスリテクだ。

 これは加点対象。


「小細工ばかり使いおって。魔王である我と対をなす勇者が聞いてあきれるわ」


 と言いつつヒルダはその小瓶を玉座の後ろに放り投げた。


 無論、キャッチして懐にしまいこむ。アメ細工を床に叩きつけてガラスが割れた音を出すのも忘れない。

 これは大幅加点、しかもハイポーションという貴重品であることも評価が高い。

 大抵の勇者はこれが最後の戦いになるので回復系のアイテムは惜しげもなく消費するのであまり残らないのだ。


「な、なんだと! 卑怯な!」

「卑怯? ククク。戦いとは勝者が正しいのだ。過程などどうでもよい」


 だんだんヒルダが調子づいてきた。

 いいぞ。もっとやれ。もっと奪い取れ。


「す、すまねえ。ヘマしちまった」

「おいチャーリー! しっかりしろ!」


 勇者パーティーは早くも一人脱落のようだ。

 安心しろ、お前のポーションはお前の名前入りで保存してやる。

 チャーリーは仲間たちに見守られながら静かにこと切れた。


 その間ヒルダは傍観タイム。感動シーンを邪魔しないのも魔王のマナーである。


「チャァァァリィィィィイイイイ!!」

「魔王! よくもチャーリーを!!」

「ん? もう終わりか? ならばその格闘家が死んだ記念にいいことを教えてやろう。そいつはハッキリ言ってカスだったな」

「何?」

「てめえもう一度言ってみやがれ!」

「そうか、その貧弱な体についた相応の耳では聞こえなかったか。そいつはカスだといったのだ」


 おおやるぅ。ちゃんと悪役やってるじゃん。


 勇者パーティーの怒りがヒルダに向けられる。


「お前は!! お前だけは絶対に許さない!」

「そうそう! その目だ! 実にいい顔をしている!」


 怒り狂う勇者をここぞとばかりに煽るヒルダ。すごくいい。

 やっぱり、魔王は余裕ぶっかましてるぐらいがちょうどいいのだ。


「お前はここで倒す!」


 泣き腫らした勇者が魔力を全身に纏う。

 これは大技の予感だ。


 仲間の敵討ちに燃える勇者は満を持してカッと目を見開き


「『限界突破』ァ!」

「「!?」」


『限界突破』だとぉ!?

 そんな古の強化方法久しぶりに見たぞ!


 最近は仲間にバフをかけて貰って殴るのが流行っていたのでこの勇者がみせた『限界突破』にテンションが上がる。


『限界突破』は十分間の間すべての身体能力を二倍にする魔法だ。その代わり反動が大きいのであまり人気ではない。

 熱い戦いが見たい俺的にはもっと流行ってほしいと思っている。


「これがお前の真の力か。見事だ。だが私を越える事はできん!」


『限界突破』を見たヒルダは魔力を増大させて勇者とのオーラのぶつかり合いを見せる。

 いい演出だ。少なくとも前4組のパーティーよりかは断然いい。


 勇者は渾身の力を己の愛剣に込める。


「これが俺の全力だ! 『チェインオブグロリアス』!!」

「来い! 『カーディナルグラヴィトン』!」


 激しい技のぶつかり合い。

 これは手に汗握る激熱展開!果たして勝者は!?


「カハッ……」

「惜しかったな勇者よ。我でなければ大概の敵は葬れただろうに。()()()()()()、な」


 勝ったのはもちろんヒルダ。

 うん、熱くなっては見たものの、俺はヒルダが負けるとは微塵も思っていない。


 そもそもあれで勝てたら苦労しないよ。まだヒルダは変身を残してるんだから。

 第2形態は未完成ではあるが、十分に強い。


 ヒルダは勇者が倒れて意気消沈している仲間にトドメを刺したあと、絶望にくれる勇者の目の前に立った。


「さあ勇者。言い残したいことはあるか?」


 ヒルダは勇者の髪を掴み自分と同じ目線へと引きずりあげる。

 めっちゃ痛そう。知らんけど。


「……だな」

「あ? よく聞こえん。どうせ死ぬのだからもっと死ぬ気で言え」

「哀れだな」

「なんだ? 負け犬の遠吠えか?」


 勇者の場違いな言葉にヒルダは眉間にシワを寄せた。

 なおも、勇者は笑いながらヒルダに告げる。


「魔王、お前は勘違いをしている」

「勘違い?」

「そうだ。実は俺たちの仲間は……もう一人いるんだよッ!」

「貰ったぁ!」

「しまっ!?」


 次の瞬間、ヒルダの背後にアサシンが現れる。

 アサシンにはハイドと呼ばれる気配を消す技術がある。今回はまんまとそれを使った作戦にはまってしまったわけだ。


 アサシンのナイフがヒルダの命を刈り取らんと首に迫り、ヒルダ万事休す。

 これは勇者が一歩上手だったな。素直に感服する。


 ──ま、そんなことはさせないんだけどね。


「『セイントヴァーチェ』」


 通路から飛び出し、常備している剣でアサシンの首を先に刈り取る。

 仮にも家族なんでな。すまんが死んで貰う。


 俺は呆然とするヒルダに今回の評価を言い渡す。


「ヒルダ、四十点。後で反省会だ」

「……うい」

「な!? なぜ人間が!?」

「まあこれには深いわけがあるんだわ。理由はあの世で説明してやる」


 俺は困惑する勇者の頭を剣で刺して絶命させた。

 一応急所を狙ったから痛みは押さえたはず。


「まあ最後のは仕方ないな。次から気をつけろ」

「あの……その、ありがとう。同族殺しは辛いだろうに」

「いいよ、別に。それで悩んでてヒルダが殺されたら元も子もないからさ」


 俺は落ち込むヒルダの肩をポンと叩いた。

 これが俺が与えられた唯一の仕事だ。


「ヒルダを守ることが俺の全てなんだよ」


 魔王直属護衛勇者。

 これはそんな奇妙な肩書きを持った俺の物語である。

読んでいただきありがとうございます!

もし気に入っていただけたら下にある☆☆☆☆☆を埋めてくれると作者としては非常にテンションが上がります。

ついでに投稿モチベも上がり、作品がより良いものになるかも知れません。作者は素直な子なのです。

気が向いたらでいいです。ぜひ評価の方を。

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― 新着の感想 ―
[良い点] Twitterから来ました! めっちゃ面白いです。 続き楽しく読ませていただきます♪
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