第18ピリオド:Last One Play
タイムアウトが明けた。テクニカルファールのフリースローを入れられ、なんとかその後のディフェンスでパスをスティールし、奪った。3点差。残り1分。
みんなが緊張、興奮している。
「一本、ゆっくり返していこう!」
恵が、ゆっくり、8秒ルールに引っかからない程度にボールを運んでいく。
「はるちゃん!」
遥へとパスがわたる。
「ハル、パス、ちょうだい。」
頭に上った血の気が冷えいつも通りになった海へパスが繋がれた。
「勝負する?時間無いよぅ。」
何かと彩香が挑発してくるが、
「しない。」
横へとボールを受け流すようにして外にボールを出した。
「また、今度。勝負は。」
そう言って、中から外へ、
中には代わりに香と瑠衣が入ってくる。
「あんた、ディフェンスうめぇんだな。」
「あんがと。」
ゴール下でのトラッシュトークが繰り広げられる。
香がちらっとタイマーを見て残り時間を確認する。残り43秒。
「優、中くれ!」
シュートフェイクして中へ突っ込んできた優からパスが出る。
「最後かな。」
さらに中へと足を入れ、パスを受けると同時にシュートを打とうと意識しながら話す。
ボールが香の手に触れる寸前、
「ふぃぃ!」
瑠衣がいつの間にか、前へ回り込み正面からパスをカットしていた。
「あっ・・・」
「速攻!」
ボールはあっという間に、前に運ばれて、今までの時間に3ポイントを5/5で成功してきた14番、有希にボールが渡ろうとしていた。
速攻を成功させるには一番前の人にパスした方が手短にすむ。
そして今回も、もうセンターラインぐらいまで走っている有希にパスがでた。
「ふぅ、相変わらずパス速いねぇ~。」
なんて言いながらチャッチ、
できなかった。
「はっ!?」
後ろを向くと、ボールを抱え込むようにしてスティールした優がいた。
「優!!」「前運べぇ!」
みんなから声が聞こえる~。
パスしよっかなっ?でもみんなにディフェンスついちゃってるよぅ。
じゃ、自分で点取りにいってみよ~う♪
14番の人後ろにいるしっ。
優が1秒かそれくらい抱きかかえてからドリブルしてきた。
速く、正確な。
いかにもそのまま人が密集しているゴールへ突っ込んでいきそうだった。
3ポイントラインより2メートルぐらいゴール近くへ突っ込んだ所で、カバーの人が来た。恵のマークマンだった。
「優~、私フリーだよ。」
恵が出している声に優が反応して顔を向けた。
「カバーお願い!」
9番の人が声を出すと同時に、
「うりゃっ!」
とてつもない身体能力でドリブルをつきながら2メートル後ろ、ちょうど3ポイントラインまで引き下がった。
「えっ。」
そんな声を聞きながら優は、
高く、すごく、さらに高く打った。
高く打ちすぎだと誰もが思った。
しかし、リングに対して真っ直ぐ、音も立てずネットにも触れず、リングの真上からボールが降ってきたようにして入った。
ついに同点。残り時間31秒までなった。
「すげぇ、すげぇぞ優ー!!!」
「うぉぉぉー!」
メンバーが一斉に優へ飛びつく。歓声の嵐。そして、
「タイムアウト、グレイトバード!」
最後となるだろう、タイムアウトが取られた。
「あと31秒だよ。」
恵が肩で息をしながら言う。
「相手のオフェンスは、たぶんゆっくりと時間使ってくると思うんだ。
「それしかねーんじゃねーの?31秒で同点でオフェンスならよ。
でディフェンスん時は激しくってか。」
「じゃあ、」
珍しく海が大きな声をだした。
みんなは少しびっくりしていた。
「パスカット、狙う。相手の、ゴール近くで。」
言いながら優と恵に視線を向ける。
「2人が、前へ走って。速攻だせば、良いと思う。」
みんな、特に優、恵はそれに納得したようだった。
「じゃ、走っていくよ!」「おっけぃ♪」
6人で集まって円陣を組んでいく。
「いっくよ、12の3、「ディフェンス!!」」
最後のプレイタイムが始まる。
相手が外側でボール回しを始めてきた。
恵がパスカットしようとパスの軌道に手を出すが届かなかった。
「くっ。」
14番、有希にボールが渡る。キャッチしたと同時にシュートフォームを構えた。
「チェック!」
優が、なんとかプレッシャーをかけて入れさせないようにジャンプした。
しかしフェイクでかわされて、そのままドライブインしていく。
「海ー!」
海へカバーを要求した。
「おっけい!」
この雰囲気からなのか声量がいつもより大きかった。
有希がレイアップにいこうとするのを、ボールを叩き落とそうとしてボールに触れようと手を伸ばした
瞬間に、ゴール下でフリーになった彩香へパスがつながれてしまう。
「中入れっぞ。」
彩香にボールが入る。振り向いてのターンシュートの構え。
ここはゴール近く。時間も10秒あるかどうか。しかも24秒計も3秒切った。
間違いなく、確実にシュートを決めてくる。
「させっか!」
香が、ブロックしようと飛躍して彩香のボールに触れた。
ピィー!!
横から飛んでいったために手が、少し相手の手首に当たってしまう!
カツンッ。
放たれたボールはリングを通過した。
「カウント!1スロー!」
審判の声に、会場が、観客が、そして選手たちもざわめいた。
あと8秒。
「や、やったぁ!!」
グレイトバードでは彩香へ歓声がベンチから沸き上がった。飛び上がってハイタッチを交わしてる。
コート内は5人が集まっている。
「彩香落ち着け、いれたらすぐマークマンに密着するぞ。」
有希が中心となって話す。
そして全員でハイタッチをして、
「「うっし!」」
フリースローレーンにいく。
「ドンマイだ、香ぃ~。」
香の側にいた遥が、香の肩に手を置きながら励ます。
「あっ、・・・ううぅ。」
かなり落ち込んでいるようだ。
ここで決められたらほとんど勝てる確率が減ってしまう。
負けたら自分のせい、かな。
そう思いこむたびにどんどん、体が冷めていく感じがする。
そのままレーンに行こうとした時、
「香!」
声がする方へ顔を向けると、興奮で顔が赤くなっている椎が正面に拳を突き出していた。
「リバン捕れよーっ!!」
その声を聞き、香は椎と同じように拳を、親指だけ上に上げて突き返して、
すこしだけ笑った顔でうなずいた。
「相手のフリースローが入った時は、前に走って。3ポイントラインぐらいにボール投げるからそこで3Pお願い。入らなかったらもう前へ走って、速攻ね。」
「うんっ、りょうかいしたよぅ。」
彩香がフリースローを打つまでの間、恵と優は作戦を立てていた。
フリースローが2本の時より時間がないから手短く、ささやくようにしていた。
果たして入るのかどうか・・・。
「ふぅ。」
彩香にボールが渡る。
いつもなら、周りは静かになるのだが残り時間8秒で同点ともなればすこしざわついている。
彩香からボールが打たれた瞬間に、香が近くにいた、瑠衣へがっちりとスクリーンアウトを仕掛けた。
「んぐぅ。」
瑠衣が苦しそうな声をあげた、と同時に、
フリースローが入った。
会場が歓喜声に包まれた。ここまでのシーソーゲームはなかなか見られない。
誰もが勝負は付いたと思った。
3点差で8秒。3ポイントシュートしか同点はあり得ない。さすがにこの中で落ち着いて3ポイントは決められないだろうしディフェンスはプレスをかけていくだろう、というのが根拠らしい。
そんな中で声が出る。
「あと8秒だ!」
最後となろうオフェンスを、レッドドライバーが始める。
残り時間が0へと迫っていく。
「走れ!速攻!」
恵の声がみんな、特に優を動かさせた。
「おーぅ。」
緊張するなか、ふにゃふにゃした、いつもの声で反応した。
「走らせるな。」「セフティー!」
相手は少し驚いたような声を出す。
3ポイントのバスカンを何度もしてきて、目の当たりにされてきたグレイトバードは慌てた。
そしてエンドラインにいる恵からボールが弓なりに、高く、それでも早くパスされる。
「優!いけぇ!」
もう誰の声かも分からない雰囲気になっていた。
ボールをキャッチし、3ポイントラインへ運ぼうとするが、有希が今までより速いスピードでマークしてきた。
「はぁ、・・・行かせねーぞ!」
呼吸しながら、優と体が接触するぐらいの激しいプレッシャーをかけていく。
「じゃぁ、抜いちゃうぞぉ!」
プレッシャーをもろともせずに、ドリブルしながら右、左と体を揺らしていく。
そして少しだけ右前に小さいドリブルをした。
それに微妙に反応して有希の体の重心が左足へかかった瞬間に、左へ大きくパスするようにボールを
前に出した。
「うっ!」
優に追いつこうと走り出そうとした有希だったが、疲れのせいか、バランスが悪かったからなのか、
体が床に倒れた。
優が、アンクルブレイカーをして突破した。
突破したと同時に優が3ポイントラインから2メートルぐらい後ろから、最後となるだろう3ポイントシュートを今までより速い回転をつけ、高く放った。
残り1秒。
「入れっ!」
ボールがリングに届くまで、けっこう時間が長く感じられた。
優以外は動かないまま目でボールを追った。
ボールがリングへと届き、そして・・・。
続けての連投します。
果たして試合の結末は・・・!?
そしてみんなはどうなったのか!?