第17ピリオド:Seesaw Game
今日はこれで終わります。
床に手を付きながら優が立ち上がった。
「フリースローっ、だねっ。」
フリースローラインへ歩いていく。
「無理、しないで。」
海がそっと声をかける。
「うん。」
ボールをもらってからすぐに打った。
いつものように綺麗には入らず、リングの縁に当たってなんとか入った。
「ふぅ。」
シュートを決めてもう一回のオフェンスへと動いた。
アンスポーツマンライクファールを捕られると相手にフリースロー+相手のスローインから再開される。
(すげぇな優は。私もいっちょやるか。)
香はさっそく動き始めた。
「恵~、パスくれ!」
恵は3ポイントライン付近にいる香を見て考える。
「分かったよ、香。」
パスが入る。
「動かせて貰えないんだったら、」
「あぁ?」
ボールと足を右へとフェイクさせる。
「こういうのはどーだ?」
少し空いたスペースを使ってロングシュートを打とうとフォームを構える。
「ちっ!」
28番、瑠衣がブロックへすかさず来る。
この試合じゃ香は一本もゴール近辺のシュート以外打っていない。
ロングは入らないからだろうと思った。けどまさにロング、しかも3ポイントラインにほぼ近い
所から打とうとしている。
一本も入ってないのと一本も打ってないのとでは違う。そこからのシュートが入るかもしれない可能性だってあるのだ。
だから跳んだ。
その右横、エンドラインを割るように切り込んでくる。
「香穂、カバー行って!」
誰かの声が舞う。
5対4の状況じゃ誰かがフリーになる。今、身長もスパンも高い香がドライブしてくる。
「カバー、オッケー。」
香と香穂の一騎打ち。
コースへ入ろうとする香穂の少し横を、体をねじれ込むようにレイアップへ行く。
「チェーック!!」
声のプレッシャーにも、微妙に当たって絡ませてきた手に動じることもなく、
ボールをリングの中にねじ伏せた。
笛が鳴る。
「4番のファール!カウント!」
そして、オフィシャルからの声が上がった。
「黄色4番、5ファール退場です。」
えっ。
瞬く間に会場からざわめきが起きる。
「香穂、交代するよ!」
グレイトバードのベンチから、これまた身長180はあるかないかの78番、小泉彩香が出てきた。
くそがっ。いままで退場おろか4ファールにもなんなかったのに。なんでだよっ!
あの審判め。腹立つよなんか。
地面を踏みならした。
「香穂、交代するよ!」
彩香と交代か・・・。まーいいや。
「4番と8番、潰せ。」
耳元で囁いた。
「えっ。わざとのファールは危ないと思うけど・・。」
「自然的にやってくれ、な。」
そう言ってベンチに戻った。
「ナイシューだよっ、香ちゃんっ!」
香と優がハイタッチしようとするが身長差で、触れあわなかった。
「へへっ。」「ははっ。」
「すごいな~香は。私ももっと決めたいな。」
「頑張れよな。」
「入れてね。」
遥、海、香が話しながらフリースローレーンに行く。
「リバン頼むぜぇ!」
声を出しながら打った。
「入るって。」「入る。」
遥&海の予測入った。
「よ~し。ディフェンスいくぞ。」入れた香が声を出し意識を切り替えさせて、
「ここ守るよ。」恵が締めて、
「「「いいよ~!!」」」
チームに統率が生まれてくる。
最初会った頃には連携があまり取れていなかった。
声を出すなんてことはなかった。個人技術が集まった物だった。
だけど、
6人はただただ進んでいく。
残り時間がもう後1分、78番小泉彩香が海に対して3つ目のファールをしてきた。
香穂の作戦だった。
海はもう3つもファールがかさんでいる。
退場させろ。香穂が彩香へ言ったことはただそれだけだった。
そして、レッドドライバーがディフェンスの時だった。
無理矢理押し込んでくる彩香に対して、
「ぐっ!」
押されないようポジション取りをしている。
「たぁ!」
肘を海の顔に入れながら、彩香がシュートを打った。
笛が鳴り、
「オフェンスのファール!」
彩香が4つ目を犯してしまった。そのまま、
「いや、ごめんね~。」
彩香が海に対してうっすらと笑みを浮かべながら謝った。
その時、
「殴んなよ。」
とてもイライラしてそうな声で海が、普段言いそうにもないこと、そしてバスケの試合には似合わないセリフを吐いた。
「さっきから、痛い。」
そう言いつつ彩香に寄っていく。
「わざとじゃないってば・・・。」
「あんたも、4番も、ひどいなぁ!」
そして、強めに言って肘を腹へ入れてしまった。
「えっ。」「あわわ~。」
選手も、そうでない人も声をあげた。
本来やっちゃいけないことをやってしまった。
「4番、テクニカルファール!フリースロー!」
審判からコールされてまた会場はどよめく。
メンバーが海へ集まる。
「やっきになんじゃねぇぞ!」
「落ち着いて。」
「ごめん、なさい。」
言って、しゃがみ込んでしまった。
「プレーで返そう。ね?」
「あと一分だなぁ。フリースロー2ついれられたら3点差になっちまうじゃんかよ。」
「それじゃ、」
言いながら恵は審判の元にいく。なにか話した後、
「タイムアウト、白!」
レッドドライバーのタイムアウトコールが鳴った。
恵が戻りながら、
「作戦と休憩タイムを取ろう。」
人差し指を立てながら言った。
「あと一分で私らの夏おわっちゃうなぁ。」
香が飲み物を飲みながら、溜息ついたように言う。
「後悔しないように、今、作戦立てとこうね。」
頭の切り返しが早いな、と他の5人は思った。
たぶん、あと1、2回で完結すると思います。