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【8:聖女に接触を試みる】

『なあ、お前、名前は?』

『……?』

『あー、寝起きだから意識がハッキリしてねぇのか。』

なんだ、お前は。俺より年上で、背が高い男。

そいつが俺の名前を聞いている。

顔は悪くない。カッコイイと言われそうな顔だ。


『お前はこの村近くの森で気を失ってたんだ。運が良かったなぁ?この森、最近やばいモンスターがうようよしてたんだよ。んなトコで寝てたら死んでた所だ。』

俺は気を失っていた?寝ていた?

覚えていない。どうしてここで寝ていたのだろう。どうやってここにやってきたんだろう。

何の目的でここにやってきたんだろう。

俺の記憶は曖昧だった。かろうじて覚えているのは名前と年齢ぐらい。

名前はアニサキス。年齢は……まずい、年齢も曖昧だ。


『俺は……アニサキス。見つけてくれて、ありがとう。』

『おうどういたしまして。……ところで、お前この後行くトコはあるのか?村に知り合いが居るとかか?』

『分からない。俺……記憶がない。さっき言った名前ぐらいしか覚えていない。』

正直に話した。目の前の男は口角を少し上げて俺に微笑みかけた。

『そんじゃあ、俺と一緒に来い。』

少し強引に俺の手を引いて、村の方へ歩いていく。力が強い。その所為で腕が少し痛い。身長差、体格差を全く考えていないような振る舞いをする男。俺にとっての命の恩人。


ああ、俺は……俺はこれから……この男と……


「ーーーっ!」


研究所(ラボ)で俺は目を覚ました。

隣にはバクターとノクス。俺は過去の夢を見ていた。

あれは俺が記憶を失い、意識も失っていた所を一人の男が見つけてくれた時の光景。

その光景が夢の中に現れた。どうして今夢の中に出てきたんだろう。

……あの時俺を見つけ、連れていってくれた男。

あの男は、ノロだ。フルネームはノロ・ヴィルス。

元居たギルドのマスター。あいつが俺の夢の中に出てきた。

あいつは俺を拾っておきながら、俺を勝手にギルドに加入させておきながら。

……追放した。

「忘れようと思っていたのに。……くそっ。」

拾ってくれた、命の恩人だから。

だからなかなか忘れることができない。

元あった記憶に上書きされた、あの思い出、あの出来事。

それらを忘れることができない。

今、隣にバクターやノクスといった仲間(ノクスは一時的な関係だが)がいるというのに。

ーーー俺はノロを忘れることができない。


つらい。

そう思いながら俺は起き上がった。そしてぐっすり寝ている二人を揺すって起こす。

俺たちはやらなければならないことがある。

まずはそれを片づけなければ。

ノロのことは置いておこう。


「とりあえず、敵情視察が必要だと思います。」

「そうね。バクターの言う通り、こっちにはあいつらサイドの情報が足りなすぎるのよ。得た物なんて偽聖水ぐらいだし。」

そうだ。もっと情報が必要だ。現時点では街の住民のあいつらへの信頼は厚い。

そんな所に突っ込んでも効果はない。それどころかこちらの立場が危なくなる。

だから敵情視察が必要なのだ。異論は無し。

「じゃあ具体的にどうする?教会周辺に聞き込みか?」

「それじゃあ時間がかかりすぎるわ。なるべく情報は早く集めたいのよ。」

ノクスは眉間に人差し指を乗せて少し考える仕草をする。

「……教会に乗り込むのは如何でしょう?」

「えっ?」

「えっ。」

ノクスと俺はバクターの提案に驚いた。思い切った行動の多い奴だがここまでとは。

敵地に忍び込む?それとも直接真正面から乗り込む?

前者だろう。お願いだ前者であってくれ。

「真正面から乗り込むのですよ♡♡」

後者だった……。おいおい。お前は何を言ってるんだ。

敵陣に赴くっていうのも現時点では無謀なのに。それを真正面から乗り込むなんて。

それで捕まったらどうするんだ。


俺がうんうん唸って考え込んでいると、バクターは俺の手を取ってニッコリと微笑んだ。

何だ、何を考えている。さっきの発言も、そして今も。それらをひっくるめて俺はお前に疑問を投げかけたい。

「アニサキス様♡♡貴方の力が必要なのです♡♡」

「……は?」


バクターの提案の具体的な内容。

それは俺が入信希望者の振りをして教会に潜入するという作戦。

そこで信者や教会関係者から情報をいくつか集めて帰っていく。

……ということだ。こいつはこの作戦を持ち掛ける時にさっきのような爆弾発言をした。

言葉が足りないんだよ。お前は。


「確かにそれが現時点ではいい方法ね。でもこいつで大丈夫なの?ヘマしそうで怖いんだけど。」

「いいえアニサキス様でしたら大丈夫ですよ。……ほら、私たちでは目立って仕方ないですから。プラズマ・トキソの住民であるノクスや聖女♂の私ではあちらに怪しまれて仕方がない。よって適任なのはアニサキス様……となるのです。」

残り物である俺が適任。まあそうだろうな。消去法……母数の問題ですぐ決まってしまったが。

「そして、ほら。あの偽聖女……マラリアはアニサキス様のことを意識しています。なので彼女を通して有力・有益な情報を入手できるのでは?」

「おい俺にどんどん責任という重荷を乗せていくな。」

マラリア、あいつ俺を意識していたか?よく分からない。あの偽聖水を購入した時、取り乱してはいたが……それほど意識しているのか?


『えっ……!?かっこ……ょ……!?…いえ!せ、せせ聖水ですね!ど、どど、どうぞ!お代はこちらの箱にお願いします!!』

ああ、分からない。かっこ……?分からない。

とりあえず、俺はマラリアの居る教会に入信希望者の振りをして潜入することとなった。


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