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【5:聖女とは】

ノクスが興味を示してくれた「最近評判になっている聖女の話題」。

俺は今まであったことを細かく話していった。

聖女がとある人間に「強盗をするならあの街がいい」と吹き込み、それを信じた人間が盗賊にその情報を教える。盗賊は街を襲い街を大いに荒らしていった。

そんな中俺とバクターが盗賊集団を倒し捕縛。そして俺たちは捕まえた盗賊から「聖女」の存在を知る。

……といったところだ。

「ふぅん……あたしが断言するわ。その聖女は『紛い物』よ。」


俺の話を聞いてすぐノクスは件の聖女を『紛い物』と判断した。そしてノクスはたくさんの本が積み重なった山の中から一冊のハードカバーの本を取り出した。

タイトルは『地域の風習・習慣と聖女』。

「この本の中にね、様々な地域にいる聖女について書かれているの。本当に様々よ。聖なる力を使ってポーションを作ることに専念している聖女もいれば、地域の伝統芸能や工芸を住人と楽しむ……なんていう聖女もいるわ。でもね、アンタがさっき言ったような聖女は存在しないわ。……何でか、わかるわよね?」

ああ、わかる。俺が耳にした聖女の特徴と他地域の聖女とで明らかに違う、おかしな部分がある。


「悪事を唆すことを言わない」


ポーション制作に専念している聖女も、伝統芸能などを住人たちと楽しんでいる聖女も。どちらも「人の為に」行っている。しかも「良いこと」を。

俺たちが盗賊から聞いた聖女はどう考えても「悪」だ。

「アンタの言うその『聖女』。あたしから見たらほぼ100%『紛い物』よ。」

「ノクス、私も『聖女』なのでそのように断言されてしまうと……。」

「バクターは例外中の例外だから言わなかっただけよ。しかも今アンタ男じゃない。ぱっと見ても『聖女』には見えないわ。」

バクターはノクスにきっぱりと言われてしまい少しシュンとした。

「それより、その『紛い物聖女』は実際に見たの?もしかして、噂に聞いただけ……じゃないでしょうね。」

「今のところ噂で聞いただけだ。そんな所バクターが『知り合いがいる』と言ってお前の研究所(ラボ)に来たんだ。」

俺の返答を聞いたノクスはものすごく重いため息をついた。「やっぱりね」と言いたいのを我慢しているのだろう。ハードカバーの本を指でコンコン小突いてもいる。

「あーもう、そんなことだろうと思ってたわよ。バクターは昔っから勢いで突っ走るくせがあるのは知ってたけど、まさか他人を巻き込んでくるとはね。」

「すまないな。本当にすまない。」


俺が謝ると、ノクスは壊れた扉を抜けて受付にいた女性に声をかける。

「フォーラー、あたし今から街の方に出かけるから。あまり遅くはならないと思うわ。」

「先生!?一体どうして…!はい、分かりました……いってらっしゃいませ!」

あれだけ外に出たがらなかったノクスが自ら外に出ようとしている。一体どうしたんだ。……偽聖女が気になっているんだろうか。

ノクスは白衣の袖をダブつかせたままショルダーバッグを引っ提げて街に出ていった。俺たちもそれに続き受付の女性に一礼して研究所(ラボ)を出ていく。



「久しぶりに外出してみたけど、何か変わってるかしら。」

「おいノクス、いきなりどうしたんだ。急に意欲的に外出して……!」

「そうですよノクス、道端に倒れてしまっても知りませんよ?」

俺とバクターがノクスを呼び止めると、ノクスは俺らをキッと睨みつける。

「あのねぇ!アンタたちは基本がなってないのよ!!」

基本。何の基本だ?

きょとんとした顔の俺とバクターに構わずノクスは言葉を投げ続ける。

「調査もろくにせずいきなりあたしの研究所(ラボ)に乗り込んできて紛い物聖女の話を持ち込むなんて馬鹿らしいのよ!!物事の解決を図るんならもっと調べなさい!そういうところを引っ括めて『基本がなってない』ってあたしは言いたいのよ!!!」

……ああ、そういうことか。俺はバクターに連れられるがままになっていて、ノクスの言う通り基本の「き」を忘れてしまっていた。これは記憶喪失関係なく俺の失態だ。

「すまなかった、初歩的な所をミスしていた。」

「もういいわよ。あたしは言いたいこと言っただけだし。」

不機嫌な顔のままノクスは更に歩を進める。

そして街の住人が夕食か翌朝食の為の食材を買いに行き来している通りまでやってきた。

「いい?研究をする時も一緒よ。フィールドワーク。自分の足で、手で、目で、耳で!自分の感じたことを活かすのよ!!」

「何だ急に……今まで引きこもってたくせに。」

「私も驚きましたよ。それだけ私たちの行いに腹が立ってしまったんでしょうね。」


何だ何だ結果オーライってことか。

外に出たくない引きこもりの研究者を街に繰り出すことができたのは、

俺を研究所(ラボ)に連れてしっちゃかめっちゃかにしていった……この聖女♂のおかげだ。

偶然か、意図的か。


「腹が立って仕方ないけど……もういいわ。あたしは今回『だけ』アンタたちに協力してあげる。いい?今回だけよ。事件が解決したらあたしは研究所(ラボ)に再び引きこもるわよ。」

「はい♡♡ご協力ありがとうございます♡♡」

「ああ、ありがとう。」

半ば無理矢理……いや100%無理矢理だが。

聖女関連に詳しい研究者:ノクス……エキノコックスの協力を得ることに成功したのだった。



エキノコックス

職業:研究者

道具作成スキル、観察眼Aランク


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