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【4:仲間集め】

俺たちがやってきたのは「プラズマ・トキソ」。少し背の高い住居が目立つ街だ。この街にバクターの知り合いが住んでいるらしい。

ちなみに俺はバクターから「知り合い」という情報しか受け取っていない。だから男女どうこうとか職業がどんなだとか。そういう情報が一切入ってこない。

「おい、お前の知り合いの特徴を教えてくれ。じゃないと俺はどう構えればいいか分からない。」

「特に準備など必要ありませんよ。彼女……いえ彼はそんなに礼儀やドレスコードなどを気にしませんし。」

彼女、彼……?一体どっちなんだ?何故言い換えた?まさかお前と同じように性別を変えた奴なのか?

「結局一つもわからんかったが、まあなるようになるしかないな。」

「ええそれが一番ですよ。彼にとってもそれが一番ですからね。」


バクターに連れてこられた場所は、何やら科学的なことをしていそうな建物だった。ここは……研究所(ラボ)

「聖女と研究者……どういった繋がりがあったんだ?」

「彼とは聖水やお薬に不純物や毒になり得るモノが混入されていないかどうかを見てくれていましたので、その繋がりですね。聖なる力は優れてはいるのですが、化学・科学の力には少し負けてしまうもので……。」

そういうものなのだろうか。聖女や聖職者の持つ力は万物の頂点のように崇められていたので、俺はそこに驚いた。剣・魔法が入り乱れた世界では霞んでしまうかと思われた科学も負けてはいなかったのか。

「それでは入りましょうか。……お邪魔します、『ノクス』は居ますか?」

ギィ……と扉を押してバクターと俺は研究所に入る。すぐ近くに設置されていたカウンターに居た女性が俺たちに微笑む。

「ようこそお越しくださいました。聖女…バクターさん。……ええと、貴方は?」

「あ…初めまして。俺はアニサキス…って言います。キースって呼んでくだされば、いいです。」

「キースさんですね。よろしくお願いします。……ああ、先生なんですけど、まだちょっと研究室に篭りっきりなんです。ドア越しに声を張り上げても聞こえないぐらい没頭している様子で……。」

……筋金入りの研究者気質ということは分かった。いるよな、夢中になりすぎて他のことや他人のことを気にしていられない奴。その所為で人付き合いが悪くなって友人といえる人間が数えるほどしかいないって、な。俺も人のことを言えた義理じゃあないがまだ会ってもいないバクターの知り合いの性質に納得していた。

「バクター、どうする。ノクス……って奴が来るまで待つか?」

「…………。」

バクターは口を横一文字に結んだままツカツカとノクスが居る部屋の扉の前に向かっていった。扉の前でバクターは片足を一歩後ろに引いて……


「お邪魔しますよ!!!ノクスぅううううう!!!!!」


バギイイイッ!!

バァン!!!!


……厳重に閉められていたであろう金属製の扉が彼の踵おとしによってお陀仏になってしまった。

普通に器物損壊だ。

「おいバクター。これも『聖女』のチート能力か?」

「はい♡♡その通りにございます♡♡」

嘘つけ。どう考えてもお前の元の身体能力が9割だろうが。性転換すると怪力になれるのだろうか。不思議なもんだ。

部屋の扉が蹴り倒されたことにより発生した轟音を聞いたのか広い部屋の奥からパタパタと走ってくる足音が聞こえてきた。あいつがバクターの知り合いの「ノクス」か。

「ちょっとバクター!!アンタあたしの部屋のドア壊すの何度目よ!!?ほぼ毎回壊してるじゃないの!!!」

「回数なんて覚えてません。……私が来る度ずっと部屋に篭っているノクスも悪いのでしょうに。」

「キーッ!!いくらアンタの聖女の力で傷一つなく修復できるからといってもこれはあんまりよ!!!」

バクターと言い争っているノクス。彼は……小さかった。

何が小さいかというと、背丈だ。あと体格もいささか幼い。

着ている白衣は彼?に対してかなり大きいので、袖がめちゃくちゃ重力に従って垂れている。両手が白衣の袖によって隠れている。……こんなので研究ができるのか?

「おいおい、落ち着けよ二人とも…というかノクスとかいう奴。」

「これが落ち着いてられると思ってるの!!?……あら?アンタ、誰?」


袖によって隠れてしまっている手でずり落ちかけたメガネを直してノクスはソファに俺たちを座らせた。……めちゃくちゃ積み重なった本たちを退けて。典型的な片付け苦手人間だこいつは。

「あたしはノクス……っていうのはあだ名で、本名はエキノコックス。『プラズマ・トキソ』で研究所(ラボ)を構えているわ。アンタの名前は?」

「俺はアニサキス。キース、と呼んでくれると助かる。」

最低限の挨拶ができたところで俺はノクスに出された菓子を口にする。もちろん手を合わせるのを忘れない。……チョコレート味のカップケーキだ。甘いものは久しぶりに食べたような気がする。クドアが時々渡してくれた菓子が最後だっただろうか。やはり記憶力に問題がある。

「……アンタかぶりつくかと思ってたけど結構行儀よく食べるのね。」

「そうか?……ティッシュペーパーなどはないか?口と手を拭きたい。」

ノクスは少しため息を吐いてから俺にティッシュペーパーの入った箱を渡してくれた。俺は口と手を拭いて、本題に入ることにした。


「俺たちがお前の研究所(ラボ)を訪ねた理由は他でもない。俺たちの作るギルドの一員となってもらえないだろうか。」

「……訪ねる相手、頼る相手を間違えているのではなくって?あたし、研究所(ここ)を離れたくないの。良くてこの街までよ。」

断られた。そりゃそうだよな。いきなり訪ねてきて、扉蹴破られて、挙げ句の果てにギルドに入れ……こんなの俺がやられたらキレる。

「ギルドって、色々な場所に赴くんでしょう?あたし基本引きこもりだからそんな体力ないの。だから他を当たってちょうだい。」

「ノクス……。」

俺とノクスの会話を聞く姿勢に徹していたバクターがノクスの名前を呼ぶ。

「なぁに?アンタのことだから『ノクスしか当てがない』と思って此処にやってきたんでしょう?残念だけど、あたしの答えはこうだから。……また聖女関係の仕事があったら此処に持ってきて。あたしが話せるのは今日は此処まで。それじゃあもう帰ってちょうだい。」

ノクスはソファから立ち上がって壊れてしまっている扉の所まで歩いて行く。見送りの為に向かっているのだろう。今日は此処まで。だが今日はこのまま帰ってしまってもいいのだろうか?もう少し話をしたい。ギルドに入って欲しい、というのもあるが他に話すことがある。それだけでも伝えたい。

「……此処最近評判になっている聖女について調べたいことがあるんだが、聞いてはもらえないだろうか。」

「……何それ?」

俺の発した言葉に、ノクスは少し興味を示してくれたようだ。


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