【3:聖女の敵、そして復讐】
[アニサキス は カンピロバクター を 仲間 に した! ▼]
俺の脳内に変なモノが出てきた。何だこれは。
事実を述べてはいるんだがやっぱりこれは変だ……。
記憶喪失の影響だろうか?
街の盗賊をやっつけた俺たちは別の街に向かうことにした。
俺は新しいギルドを結成したい。そうするには仲間を集める必要がある。
よって俺がすべきことは一つ。それが別の街へ向かうことだ。
俺がやる気に満ちていた一方、バクターは空を見上げていた。どうしたんだろうか。ついさっきまで人一人爆散させていたのに、急にしおらしくなってしまったので俺は混乱している。
「おい、バクター。どうしたんだ?何処か調子が悪いのか?」
「ああ……アニサキス様。いえ、体調などに変わりはありません。そうなのですが…。」
何だかはっきりしない返答だな。
「……ふぅ。アニサキス様の味方となる私。隠し事はいけませんね。アニサキス様、今からお話しすることは全て真実であり、私が秘密にしていたことです。聞いてくださいますか?」
…秘密?こいつの今から話すことは全て真実?いきなりすぎて俺はさらに混乱している。
「とりあえず話せよ。聞くだけ聞いてやるからさ。」
「はい。それではお話致します。まず………私、元の性別は女なのです。」
いきなり説得力のない話をするな。俺の目の前に居るのは2メートルはある男。やや筋肉質な身体をしている男だ。そいつが女とは。……だが元が女ということが本当であれば、「聖女」という肩書きでもおかしくはない。バクターは話を続ける。
「私は遠い北の地の国の聖女として暮らしていました。国民を流行病や疫病から守り、王族の繁栄を妨げるものを排除したり……という生活を送っていたのです。……ですがそれは永くは続きませんでした。」
「国に危機が訪れたのか?」
「はい。とある宗教団体が国にやってきたのが始まりでした。新興宗教というのでしょうか。聞き慣れない名前・聞き慣れない神や信仰対象、違和感しか覚えない活動内容……ひたすら夢幻でしかないようなことを王に話すのです。その話を王は真に受けてしまい、国政に暗雲が漂い始めました。増える税金を始めとした悪政に不満を抱いた国民は反乱を起こし、王族を亡き者にしてしまった……原因が新興宗教にあることは明らかでした。……なのですが国民の様子がおかしいのです。国民誰もがその団体を責めない、明らかに団体を避けている。どう考えてもあの団体が一枚噛んでいると想像できるにもかかわらず、そのまま反乱によって起きた戦火が消えることはありませんでした。私は聖女なのに国の平和を守れなかったのです。」
元居た国の話をするバクターの顔は少し青ざめていた。俺と話している時、戦闘時。いつでも気持ち悪い笑みを浮かべ、浮ついた声で周囲の敵を殴り飛ばしていた人間とはとても思えない。
本当によく分からん聖女だ。
「お前が居た国の話は大体分かったが、何でお前は男になったんだ?」
「それはですね、滅びた国の聖女なんて肩書きや見た目だと慰み者にしようとする輩が現れますので。強そうな男性になろうと思い聖なる力で性転換をしました。この身体のおかげでそんな下衆な輩は寄り付かなくなりましたよ。ええ。」
「……それは、良かったな……。」
本当によく分からん聖女だ。……と繰り返す。
ある程度俺に打ち明けたバクターはまた気持ち悪い状態に戻った。スッキリしたのだろうか。俺はバクターが話した「元居た国のこと」、「怪しげな新興宗教」について考えていた。
あの新興宗教の目的は何なのだろうか。バクターの居た国を乗っ取ろうとした訳ではない。金品等も奪われてはいなかったそうだ。となると、「ただ単に国を潰したかっただけ」の可能性が高い。権力も金品も、人も必要ない。
「積み上げた積み木を崩す」ように「国を潰したかっただけ」なのかもしれない。
「お前が仕えていた国が滅んでしまって、保身の為に男になったのはわかった……ような気がするが、何で俺をストーキングしていたんだ?そんな暇があるなら実力者が集まるギルドに新興宗教をぶっ潰してほしい、って依頼すればいいだろうが。」
「……貴方が最適だと思ったのです。」
国を滅ぼした新興宗教を許さない。
この恨み、はらさでおくべきか。
この復讐心で奴らを根絶やしにしてやりたい。
もう、本来の聖女で居られなくなっても構わない。
身も心も黒く染まった私は闇聖女。
その時に私は見つけたのです。
……アニサキス様、貴方です。
人々の憎悪や怒りを武器に変えて戦う姿。
そんな貴方を見て、私はときめきました。
嗚呼、この方に私の憎悪や怒りを使ってほしいと。
……というバクターの話を聞き俺に付きまとってきた理由を知った。
なんというか、回りくどい。
「その結果がストーキングかよ……普通に誘え気持ち悪い。」
「申し訳ございません。私、不器用なもので……。」
「聖女にチートはつきものじゃなかったのか?」
「それは言葉のあやですので。まあ原因はあの男の所為です。」
あの男。
ああ……思い当たるのはただ一人。
「……ノロ、か。」
「はい。あの男、腑抜けてしまったように見えてかなりやる男です。……悪どい方向で。」
ノロの所為で俺とバクターが接触できずにいた。それも何となくだが分かった。
これで分かったことは、
①バクターが何故男で聖女を名乗っていたのか
②どうして俺に付き纏っていたのか
③何故俺に接触できなかったのか
……だ。
「俺はこれからどうすればいい?お前のその『復讐』とやらに協力すればいいのか?」
「できればお願いしたいです。ですが貴方にその気が無ければ私は引きます。」
…………。
…………本当か?
「おい、質問だ。俺がお前の『復讐』に協力しないと答えたら、『大人しく引き下がるか』?」
俺が質問をするとバクターは口を閉じて少し考えるような仕草をした。……そして俺の顔をじっと見た後。
「ぜっっっっっったいに引けません!!!今までずっと!ずぅううっと!貴方に接触……物理でも精神でも!したくて付き纏っていたのに!!!今更引けません!!というか貴方に断られたら地獄の果てまで後ろからついていくつもりでおりましたゆえ!!!!」
「ああそうかよ!そうするつもりだったんならお前の『復讐』に協力してやるよ!!後ろからついてこられるのは迷惑極まりないからな!」
バクターが声を張り上げたので、それにつられて俺も声を張り上げて答えてしまった。……少し落ち着こう。
俺はバクターと旅をすることになった。だがそれは決して明るいモノでも、夢を追いかけての旅ではない。
「復讐」の為の旅だ。
よく「復讐は何も生まない!だからこんなことはやめるんだ!!」と言って悪役を制する正義の味方のセリフがある。俺はそのセリフを最初に吐いた奴の頬を思いっきり引っ叩いてやりたい。
俺の戦闘力の源が「復讐・憎悪」だからだ。
力の源を否定されたらムカつくに決まってんだろうが。
正義とか悪とか。そんなもの関係ない。
復讐は俺の力を生む。
それが真実だから、それを否定するなら誰彼構わず引っ叩いてしまうだろう。
こんな俺は「正義の味方」になんて一生なれない。
いや別になりたくもない。
故に俺が新しく作るギルド、所属するギルドは品行方正なキラキラしたモノではない。
闇だ。「闇のギルド」だ。
「俺はお前の復讐の旅に同行する。……だが情報収集や修行を兼ねた高難易度クエスト攻略の為には『ギルド』を作る必要がある。そこで問題がある。」
人数が足りない。まずこの問題が俺たちの前に立ちはだかる。
ギルド結成に必要な人数は五人。今は俺とバクターで二人だ。あと三人は必要だ。
「俺の知り合い……はあのギルド…ノロのギルドのメンバーしかいない。というより、他にも居たと思うんだが俺には過去の記憶がすっぽ抜けているからあてがない。バクターには居るか?そういう知り合いが。」
「ええ、居ますよ。一人。知り合いで適した人物がおります。」
バクターは俺の問いに即答した。居るのか。
「私は貴方にお会いするまで様々な方と交流をしておりましたので。その一人がこの先の街に住んでいます。」
一体どんな奴なんだろう。こいつみたいに変な奴だけど実はとんでもなく強い……という部類の人間だろうか。
俺は不安を抱きながらバクターと共に次の街へ向かうのだった。