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【序:アットホームなギルドから追い出された男】

俺は訳が分からなかった。

 何に対して訳が分からないかというと、目の前に居る三十路の男の発言にだ。この、「ギルドマスター」にだ。

「聞こえなかったのか、アニサキス。お前は今日からこのギルドから抜けてもらう。」

「それは聞こえてる。理由を教えろ。ノロ。」

 ギルドマスターの名前は「ノロ」。現在三十路だが、ギルド結成時は「花香るノロ様」なんて言われて女性から大いにモテていた色男だった。だがそれも今や昔のことで、今は少しくたびれかけたおっさんだ。そのおっさんから今俺はギルド解雇を言い渡されている。

 まず理由を聞きたい。俺の能力が弱いからか。俺より優れた奴を見つけたから俺を解雇しようとしているのか。理由を教えてくれなければ俺は納得いかない。

「そうだな。理由を教える。それはだな……『お前の能力・バトルスタイルがこのギルドのアットホームな雰囲気が壊れる』から、だ!!!!!!」

「くっっっっっだらねぇえええええええ!!!!!!」


 このおっさんが言うには。

「このギルドは今や女の子がいっぱいの温かな中規模ギルドだ。今のメンバーの中で男は俺とお前の二人だけ、だ。」

「そうだな。よく見たらヒーラーも大剣持ちも斧持ちもみんな女だったな。」

 自分の身長ぐらいある大剣やバトルアックスを振り回す女が複数存在する。果たしてこんなのが居るギルドが「アットホーム」と言えるのか?

「ああそうだ。このギルドは大変温かなアットホーム!なギルド。そしてお前のバトルスタイルは?」

「そしての意味が分からねぇが俺のバトルスタイルは『自他関係なく復讐と憎悪の念を糧に様々な武器に変えて敵にブッ刺す』。」

 俺の能力は所謂「復讐者」とも言えるものだ。自身にある「復讐」「憎悪」の念だけでなく、周囲の人間の念も自身の武器にしてしまえる。その武器の形態は様々だ。遠方の敵相手なら投擲可能な武器に変える。巨大な敵ならば薙ぎ払ったり両断できる武器に変える、といった具合だ。

 俺が自身のバトルスタイルを述べるとノロはフッと軽く笑った。

「それだよ!!そのバトルスタイルが悍ましすぎてメンバーの女の子たちが怖がってるんだよ!アットホームなギルドなのにそういうのやめてくれよ!」

「それが何だ!その能力こそが俺の特性なんだから別段おかしくはないだろうが!巫山戯んな!!俺がこういう能力を持っているのはギルド結成時から分かっていたことだろう!じゃあなんであの時俺をギルドに呼んだ!!」

 食い気味に言い寄る俺に、ノロはため息まじりに冷めた言葉を投げかける。


「そんなの……『ギルド設立時の人数の条件クリアの為の頭数稼ぎ』に決まってるだろ。」


 俺は思いっきり頭に血が昇った。今すぐにでもこの怒りを武器……例えば針に変えてノロの喉笛にブッ刺してやろうかとさえ思った。かなりの怒りだ。それはもう太くえげつない針となってノロを串刺しにするだろう。


 確かに、ギルド設立には条件がある。

①結成時のメンバーの年齢制限

②呪い級の疾病を抱えていないか

③結成に必要な人数は5名

 ……③の条件達成の為に当時12歳の俺はギルドに「頭数稼ぎ」で入れられた。その真実を知らずに俺は5年もこのギルドで任務をこなしていたのだ。巫山戯んな。マジで巫山戯んな。

「あとお前は若い男。お前目当てに若い女の子がいっぱいここを訪れてくれる。そこから能力の高い子をこのギルドに迎え入れる……そうして今ギルドはここまで成長できた。」

「俺目当てで?なら何故俺を追放する。」

「お前はとても愛想が悪いから、構ってもらえなくてショックを受けている女の子を俺が慰めて手中に収めるんだよ。ある程度メンバーが整ってきたからお前を解雇する。まあ女の子たちには『アニサキスは修行の為に一旦このギルドを離れることになった。また戻ってくるそうだ。』とでも言っておくさ。ほら、『解雇した』って言ったら『アニサキス様がいないギルドなんて!』って言って離脱しちゃうだろ?」

 ーーーこいつどこまで腐ってやがる?

 俺は頭数稼ぎだけじゃなく女どもの客寄せに使われていたと言うのか!?しかも「俺が修行に出る」なんて虚偽の情報を流して女どもをギルドに繋ぎ止めておく……到底許された行為ではない。

 そしてこいつは先刻から「アットホーム」「アットホーム」と言っているが実際どうかと言えば難易度の低い任務しか受注せず女たちと和気藹々としてるだけじゃあないか。どこがアットホームだ。「アットホーム」と「怠惰」は全然違う。

 こいつは本当に「花香るノロ様」と持て囃されていた奴と同一人物なのか?こんなのはただの色狂いだ。色情狂だ!クソが!クソが!クソが!!!!


「そうか。そうかそうか。お前はそういう奴だったのか。」

「わかったなら早く荷物をまとめて出てってくれ。まだ女の子たちは寝てる。彼女たちが起きる前に早く出てってくれよ。『修行に行くそうだ』って言い繕えないだろ?」

 どこまでも身勝手で腐った男だ。前々からおかしいとは思っていた。思ってはいたんだが……!戦闘終了した時や戦勝会を開いた際に無愛想な俺に助け舟を出してくれていたのは本心ではなかったんだ。あの行為は「無愛想な男に助け舟を出せるくらい魅力的で優しい自分」を女たちにアピールしていただけだったんだ。

 もういい、俺はこんなギルドを出て行ってやる。ぬるい任務ばかりで、必死で戦っているのは俺一人。メンバーはみんなこの色情狂の味方だ。俺の居場所なんてもうない。いや、最初から存在していなかったんだ。


「…………もう戻ってくることはない。じゃあな。」

「そうだな、帰ってくるなよ。」


 俺はギルドを脱退。ギルドハウスを後にした。


 忌々しいギルドハウスのある森を抜けて俺は街の方へ行く。まず事務局に行ってメンバー募集中のギルドを探す。俺がマスターとなってギルドを作ってもいいが、俺は色情狂……ノロが言っていた通り無愛想だ。俺がメンバー募集中です、と声をかけたとしても振り向いてくれはしないだろう。

 それこそ頭数合わせに……なんてすれば色情狂…いやノロと同じになってしまう。なのでまずは良さそうなギルドを探すことにしよう。

 そう決めた俺が前へ前へと進もうとすると。


「アニサキス、貴方本当にギルドを抜けるの…?」

「…クドア。」

 ふわふわとしたピンクのセミロングヘアの少女が俺を呼び止めた。ヒーラーのクドアだ。何故俺を追ってきた?俺よりも優しいノロの所に行って可愛がって貰えばいいだろう。

「ああ本当だ。俺はアットホームなギルドにそぐわないそうだ。他の女たちには俺が修行に出た、と言うらしいぞ。俺はもうあのギルドには帰らない。クドア、お前ともお別れだ。」

「そんな……!アニサキス!どうして!?私も連れて行ってよ!」

 クドアが声を張り上げて俺に詰め寄る。俺の衣服を力強く掴んで離さない。

「私たち…ずっと一緒にやってきたじゃない…!!貴方がいつも任務外のことして…無茶して傷作るから…私が回復魔法をかけて…サポート魔法もかけて…!それで上手くやってきたじゃないの!!」

 確かに俺はぬるすぎる任務に嫌気が差し、洞窟での任務では洞窟奥にある特殊な石の採取に出たり火山帯の任務では山頂に棲む中型ドラゴンの討伐に向かったりした。

 その際何度も助けてくれたのはクドアだ。「ほんとしょうがないわね!」が口癖となるぐらい彼女に助けてもらった覚えがある。

 だがそれがあったとしても、俺と一緒に出て行くことには反対だ。

「悪いがお前を連れて行くことはできない。俺はノロ曰く『女を呼び寄せる為の餌』らしい。そんな俺とお前が一緒に抜けたらどうなる?俺とお前がただならぬ関係だと誤解した女たちがあのギルドを辞め出すことになる。そうなればノロは俺とお前を恨んで報復に来るだろう。」

「そんなの!貴方の『能力』で武器にできて返り討ちにできるじゃないの!!」

「いや、それはできるだろうがそれだとお前を巻き込んでしまう。お前を危険な目に遭わせたくはない。……これを聞いてお前は『女一人守れない意気地なし』、と軽蔑するだろうがそれでいい。軽蔑してくれて構わない。」


 俺の衣服を掴んでいたクドアの手を引き剥がして、俺は森の出口へ向かう。

「どうしてよ…どうして…何で勝手に…決めるのよ…ぉ!!」


 彼女の泣く声に聞こえない振りをして、俺は出て行ったのだった。


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