ボロアパート5
「な、なんで…こんな所にいるの…?」
やっと絞り出した声は震えてしまった。
怒りに驚き。色んな感情がない混ぜになって泣きたくなる。それでもやっぱり会えて嬉しい…。
「いや、あの後どうしたのか気になって。元気にしてたのか?」ヘラヘラしながら彼が言う。
「げ、元気も何も…貴方には関係ない事でしょう?」
精一杯の強がりで突き放す。あんな目に合わされて普通になんて出来ない。でもやっぱり…。
「そんな冷たい事言うなよ。俺の事忘れちゃった?」
「わ、忘れたりなんて…して…ないけど…。」彼の顔を見られない。どうしよう。怒りより嬉しいが勝ってる…。
あの後、自分でも未練がましいと思いながら、もしかして彼に会えるかも…と職場や住所を変えずにいたのだ。
彼は言いにくそうに俯く。
「じ、実は俺…仕事でミスしてクビになっちゃってさぁ…そ、その〜…り、離婚したんだよ。」
「えっ?」私は驚きを隠せない。
「あっ!ごめんっ!!ごめんな…お前と居た時、何も言ってなかったよな。…騙しててごめん。」申し訳なさそうに小さくなる彼を見て、「しょうがないなぁ。」とため息混じりに言うしかなかった。
しかし、謝ったから元通りになる訳はなく、私は彼の子供を産んだことを伝えた。
「そ、そうだったんだ…。一人で産んだんだね…。」
「そう。今もあの子預けて働いてる。」
「…あ、あのさ…もう遅いかもしれないけど、これからお前と子供の為に俺に出来ること、ないかな…?」
「え…出来る事って…?」
「いや、俺と改めて家族になってくれないかな…って。」彼は震えていた。
「もう…私に隠し事はない…?」
「えっ…うん。」
「もうあんな思いは嫌なの。二度と酷い事はしないって誓ってくれる?」
「…わかってる。もう二度と傷つけないよ。」
はぁ〜っと息を吐く。
「わかった。きっと今は行く所ないんでしょ?ウチにおいでよ。」
しかし、この時の判断が間違っていたと心の底から思うのにそんなに時間はいらなかった。
もうあれから3ヵ月。彼は一向に働く気配もなくイライラしては私や娘に八つ当たりする。
「もう限界…。一週間以内に何か動かないならここから出ていってもらうから。」
「はぁ?なんでだよ!お前が来ていいって言うからここに来たんだぞ?」
「嫌なら今すぐにでも出ていってもらって構いませんけど?」
「チッ!うるせぇなぁ。わかったよ!やりゃぁいいんだろ、やりゃぁ。」
そう吐き捨てて彼はそのまま出ていった。