休みの終わり
人生ではじめての充実したゴールデンウィークは終わった。悪かった体調も頼れる姉のおかげで昨日にはすっかり良くなり無事に休み明け初日から登校することができた。
俺は普段通り、彩雪姉ちゃんと学校に登校していたのだが、学校に近づくほど増えていく周囲の視線がいつにもまして強い。
アニメやラノベでよくある「なんという殺気だ!」というセリフを見て、斬りかかってるわけでもないのに殺気ってなんだよ…と思っていたが、これが殺気か!と思えるような視線までとんでいる。
「おーす!緑斗〜!」
周囲の視線に居心地の悪さを感じながら、彩雪姉ちゃんと歩いていると、久しぶりに聞いたやつの声がする。
「なんだよ雄人。朝からうるさい。」
「うるさいってひどいな、俺は健康かつ元気なんだよ。」
「はいはい、で用はなに?」
「用がなかったら友に話しかけたらダメなのかー?ところでお前、めっちゃ見られてんな」
「お前もそう思うか?なんでだろ…」
「前原ちゃんとデートしてたからじゃね?」
その言葉に黙って聞いていた彩雪姉ちゃんはピクっとなった。
「なんで、お前が知ってんの?」
確かに香織はかなりの人気を誇る我が校の有名人なのだが、休み明け初日の朝に知られているというのはあまりにもはやすぎる。
「え、だって2人でオシャレして駅で電車に乗ろうとしてるとこ見たぜ?ほら」
ほらと言ってスマホの画面を雄人が差し出す。俺は雄人からスマホを受け取ると中を見る。そこには仲良く話しながら駅の改札へと向かう俺と香織がいた。
その画面を覗き込んだ彩雪姉ちゃんは少し不機嫌そうな顔をして制服をつかんだ。
「おまっ、これ盗撮じゃん!」
「へへっ、邪魔したら悪いと思ってな」
「へへっじゃねーよ。でもお前はともかくなんで他の人も知ってるんだ?」
その質問に雄人は戸惑った表情を見せると
「わりっ、面白がってツイートしたら周高の人にめっちゃ拡散されてしまった。」
「おまえかぁぁぁあ!」
俺が叫ぶと雄人はものすごい逃げ足で去っていった。教室についたら処すと決めた。
ちなみに周高とはうちの高校のことである。周船寺高校。地元の生徒が多い私立高校だ。
「彩雪姉ちゃん。そんなに見つめてどうしたの?」
彩雪姉ちゃんは雄人の盗撮写真を見てからずっと俺を見つめてくる。
「りょーくん可愛い女の子とイチャイチャ楽しそうだなーと思って」
「彩雪姉ちゃんと遊んでる時も楽しいよ」
「ふーん。」
素っ気ない返事と裏腹に少し照れているが若干不満そうでもあった。
彩雪姉ちゃんの人見知りのATフィールドは堅く、まだ雄人の前ではあまり喋らない。
しばらく視線に耐えながら歩き、やっとのことで靴箱へとついた。
「じゃあ、りょーくん。またお昼やすみに会おうね!」
こうして彩雪姉ちゃんと解散し自分の教室へと向かった。
教室質に入ると俺の席の前の席の周りには人集りができている。いつもより多いようだが香織は既に来ているようだ。
クラスメイトは香織の方を見ていて俺の登校に気づいてない。あ、気づかれると面倒なことになるな。さっとロッカーに荷物をおいてどこかで時間を潰してHRが始まる直前に戻って来よう…。
「お、緑斗じゃん。遅かったな!」
雄人ぅ…あとでシバく。
雄人の発言にクラスのみんなが一斉に振り向いた。ナニコレコワイ。
「やぁ、美咲くん。僕は山田ひろし、仲良くしよう。」
いきなり笑顔のクラスメイトがそう言って手を差し出してくる。
その笑顔に不気味さを感じながら、差し出された手に応える。
「いだっ!」
あまりの力強さに声がでた。こいつめっちゃ力強く握ってきやがる。
「山田が行ったぞ、みんなも続け!」
どこかでそんな声が聞こえ、あまりの男子の団結力に驚いた俺は結局HRが始まるまで逃げるハメになった。
ーー
「なんかごめんね…?」
予鈴という強制着席装置が作動し、やっとのことで自分の席へと腰を落ち着かせることのできた俺に香織が申し訳なさそうに声をかけた。
「いいよいいよ。どうせそのうち飽きるさ…」
「緑斗くんがいいならいいんだけど…」
「俺は香織と遊べて本当に楽しかったよ。本当に誘ってくれてありがとう。」
そう言うと香織は顔を明るくして、「うん!また遊びに行こうね」と言った。
この時の俺は麻痺して気づかなかった。香織と対を為す周高の王子様に強烈な視線を向けられているのとに…。
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1日を通してわかったことがあった。それは香織と話していれば男子達は攻撃してこないこと。好きな女の子の前ではいい人を演じたいらしい。その気持ちはよく分かる。
10分の休み時間を上手くかわしきった俺はついに昼休みを迎えた。彩雪姉ちゃんの待つ中庭まで行かなければいけないので香織の元を離れるしかない。
「おい、あいつが前原さんから離れたぞ!」
誰かがそう発言した。
「姉の元へ向かうぞ、それまでに捕まえろ!」
昼休みになっても俺は握手を求めてくる集団から逃げ続けるのであった。
ーー
「はぁ…はぁ…お姉ちゃんお待たせ」
「そんなに汗かいてどうしたの?」
彩雪姉ちゃんは心配そうにハンカチを差し出す。
「ちょっとお姉ちゃんにはやく会いたくてね」
なんとなくそう誤魔化すと、嬉しかったのかお姉ちゃんは俺との距離を少し詰めて座りなおした。
男共は彩雪姉ちゃんの姿が見えると去って言った。好きな人と言うよりは美少女の前ではいい所を見せたい感じだな。
「そういえば、5月の最後に1年生と2年生の合同合宿あるよね?1年生と2年生の混成班を作るらしいけどりょーくんと同じ班がいいなぁ」
彩雪姉ちゃんはそう切り出した。
「うん、俺もお姉ちゃんと一緒の方が安心する。」
「お姉ちゃんは4限目にホームルームで自分のクラスの班は決まったよ?」
「あ、俺は6限目に決めるらしい」
俺とお姉ちゃんは1年2組と2年2組なので同じ班になる確率は充分にある。クラスの班は自分たちで決めることができるが、学年の組み合わせはくじびきつまり運であるらしい。
「そうなんだ。どうなるか不安だけど楽しみだね。」
お姉ちゃんはそう言って微笑んだ。
食事を終え、弁当を片付けると俺達は自分の教室へと向かった。もちろん俺は逃げながら帰った。
次回から合宿編にいきます。恐らく長めになり登場人物も増えます。王子様等々も活躍させる予定です。お楽しみに!
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