◆豹の槍6◆「なんでこんな目に!」
びゅぅぅうううう……!
激しい風が暗闇に沈む太古の城の外で吹き荒れていた。
孤島のように深く暗い湖に囲まれた牙城は、外部と繋がる跳ね橋によって閉鎖されており、後にも先にも進めなくなっていた。
対岸からは半分。
城からも半分。
半分ずつ跳ね橋を出して初めて一本の橋になるという構造。
この特殊なダンジョンは、最強最悪の『地獄の釜』の派生ダンジョン──通称『悪鬼の牙城』だ。
ここは未だに攻略されておらず、ギルド推奨レベルはS級。
ゆえにダンジョンの全容はまだ知られていない。
ただ、この巨大な城型ダンジョンは人が使うことを考慮されておらず、あらゆる施設のサイズが全て人間の3倍以上はあるというスケールの狂った空間だ。
最強パーティと名高い「豹の槍」もこのダンジョンは攻略しておらず、もっぱら深部への近道として使うのみ。
なぜなら、この城の地下から先を行けば『地獄の釜』の中層へと抜ける近道となるのだ。
どういった仕組みか知らないが、確かに中層への近道となっており、時折近道として活用することがある。
だが、通常なら考えられない位置関係と距離。
しかしながら、事実として中層へ繋がっているという……それもこれも空間の狂ったダンジョン内だからこそありえること。
この空間とて、言われなければダンジョンと気付かないくらい広大で、見た目は暗闇に沈む超巨大な地底湖とそこに浮かぶ巨大な城。主にその二つで構成されている。
もちろん、壁も天井もある。
対岸の端までいけば壁に行き当たるも、壁にはなにもなく、何カ所かある他の派生ダンジョンへ続く道と本家本元の『地獄の釜』へと続く道があるのみ。
まともなルートとして『地獄の釜』へいくならば、遠回りでしかない『悪鬼の牙城』。
だが、一度ためしに攻略しようとした「豹の槍」が地下を捜索中に偶然、地獄の釜の中層へ抜ける道を発見し、時折使っていたのだ。
この情報はギルドにも報告済みで、そのおかげで遭難場所がここだと目星がついたようだが……。
──ならば?
なぜ、攻略はしていないものの、ルートを知っているこの場所で彼らが遭難することになったのか。
ここを見ているとわかるのは、跳ね橋の存在だ。
ここの跳ね橋はなぜか、片方のみ跳ね上げられているのがわかる。
つまり、片側が跳ね上げられているせいで橋が使えなくなっているのだ。
牙城側の橋はおりているので、──対岸の通常ルート側の橋が跳ね上げられているらしい。
おかげでここを訪れる者は、そのままでは橋が使えず、対岸側から橋を降ろす必要がある。
──もっとも、ここを訪れるパーティがいくらもあると言うのか。
モンスターの中でもかなりに強敵に分類される「オーガ」がうろつく牙城だ。
ここの城のスケールは彼らを元に作られているらしい。とは言え、城を作ったのが彼らとは思えない。
知性があるのかないのか……オーガは城の施設を利用しているというより、そこに住み着いているだけでにしか見えなかった。
彼等は石造りのベッドがあるのに使用せず、喰らった冒険者の死体の山に囲まれて床で寝ていたり、便所があるにも関わらず所かまわず糞尿を撒き散らしている。
ただの、文明を知らぬ野蛮人が遺跡で雨露を凌ぐために軒を借りているようにしか見えない。
実際に野蛮人そのものだろう。
人食い鬼というだけあって人間をみると食欲むき出しで襲ってくる。
巨大な人型の怪物が足音も高く、ズシンズシンと向かってくるのだ。これは怖い……。
そして、今────。
ここで遭難しているという「豹の槍」は牙城の一角で身を潜めていた。




