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第9話「なんか腹を壊しました(俺じゃない)」


 なんか重い……。

 それに体が……痛い。


 妙なシコリを感じて目を覚ますビィト。意識が覚醒したとたん嗅覚が異臭を感じる。

 糞便と…体臭、それにカビの臭いだろうか?


 ───臭い

 ……重い───。


 なんか腹の上に?


 ………。


「え?」

 目覚めたビィトの視界はまだ薄暗かったものの、扉の隙間から漏れる光は太陽のものだろう。

 目が慣れれば周囲の様子は見て取れた。


 妙なシコリを感じていたのはそれもそのはず。


 狭い部屋に体を横たえているビィトの上に、少女───エミリィが、ころんと猫のようにまるまって寝ているのだ。

 その、薄明かりに見えるのは、

 焦げ茶の髪にボロボロの毛先、それは一応ツインテールにまとめられている。ガリガリで異臭を放っているが、ちゃんと出るとこは出ている。肌ももともとは白いのだろう。今は薄汚れて見る影もないが……。

 至近距離なのをいいことに。じっくり観察するビィト。間違っても疚しい気持ちはない。……ないったらない。


 エミリィは熟睡している。

 愛らしい顔はスヤスヤと眠りに落ちており、機嫌が良さげ。

 それにしても、


「……いつの間に入れ替わったんだ?」


 確か……。思い出してみれば昨日はエミリィに膝枕をしてもらって眠りに落ちたはず。

 っと、


「ふわぁぁぁぁ……」


 と、愛らしい欠伸をして、特徴的な碧眼をショボショボさせて起き出すエミリィ。


「あ、……お兄ちゃんおはよー」

 ポヤーっとした目で、ビィトをほぼゼロ距離で見つめてくる。

 ビィトですら寝起きの頭では、ここがどこか……一瞬ではあるものの、事態が掴めなかったというのに、エミリィはビィトがいるという環境を特に気にした風もなかった。


「あ、うん。おはよう」

「えへへ……あ!」


 ここでようやく気付くエミリィ。

「ご、ごめんなさい……!」

 便宜上とは言え、一応ご主人様と言う立場のビィト。それを寝床にしていたのだからバツが悪い────。


よだれが……」

 そっちかぃ!

 確かに見れば、ビィトのローブにはたっぷりの涎が染みついている。


 おぅふ……くっさい!


 君ぃ……どんだけ熟睡しているのよ。

 ビィトに気付かれずに財布を抜き取った手腕の少女とは、到底思えない無防備さだ。


 それでも、すまなさそうなエミリィを前にしては、

 

「うん……。気にしてないよー」


 すごく棒読みでいいつつ、あとで洗おうと決心。それよりソロソロどいてくれたまいよ。

 そう言いだそうとしているうちに、ガチャガチャと扉が騒がしい。


 ギィィ────!


「おきろ! ……何、乳繰りあってんだ」

 空いた扉の先からは朝日を浴びて神々しく頭皮を光らせたベン。

 

「乳繰りあってねっつの!」

 素早く突っ込みを入れるビィト。ベンの契約には普通の反抗的な口調は含まれていないらしい。(明らかな抗命はその限りではないのだろうが……)

 だがそれも、完全に無視したベンには効果はない。

 聞く耳を持たないどころか、気にもしていないのだろう。手に持っているパンを放り投げてくる。


「食ったら仕事しろッ!」

 

 10分後だ! と言って再び扉を閉める。バタァン! と激しい音はするも、鍵はかけられていない。つまり、食事をしたら自主的に仕事をするのだろう。その辺はエミリィに聞かないと分からない。


「えっと……」

「お兄ちゃん急いで!」


 エミリィは急いでパンを口に詰め込んでいる。水はないので喉につかえそうだが、


「はやふひないほおほられひゃう(早くしないと怒られちゃう)!」

 カビたパンはボソボソで酷い臭いだ。

 とてもじゃないが食べる気にはならないので、そっとローブの中に隠す。エミリィの様子から見ても貴重な栄養だとは分かるのだけど……。

 ビィトの現状認識は、まだ甘いのだろう。

 それでも、今はどうしても口にできない。


 グルルルと腹が鳴っている。

 それは、空腹のビィトのそれ(・・)と────。


「うううう……」


 脂汗をたらしたエミリィが腹を抑えている。

 言わんこっちゃない……、たぶん食あたりだろう。


「今解毒魔法を────」

「ど、どいて!」


 ビィトを跳ねのけると、エミリィは……。







 ピー……(自主規制中)







「ふぅぅ……」


 ──おぅふ………。

 くっさ……!

 

 つーか、くっさ!

 くっさいわ!


 ゲンナリとしつつも微妙な表情のビィト。

 同室内で………どんな拷問だよ!


 一段とキツクなる室内の臭い。酷い拷問だ。


「ジッとしてて……」


 エミリィに解毒魔法をかけてやる。カビた食べ物……。まあ、おそらくは食中毒程度。それくらいならビィトの下級解毒魔法でも効果があるはずだ。


 妹のリスティには敵わないものの、あらゆる魔法(下級だけ……)を使えるビィトならではの万能性だ。

 バジリスクだとかの毒にはどこまで効果があるか分からないものの、これくらいなら朝飯前。魔力の消費もほとんどない。


「楽になった?」

「ん? うん」


 首を傾げるエミリィ。ビィトの解毒のありがたみは湧かないのだろう。

 実際、一度腹を下してしまえば、解毒をしても腹痛は収まらないことが多い。


「あーうん、……まあいいや」


 エミリィに感謝されても仕方ないしな。

 気持ちを切り替えると、エミリィに…いや、エミリィ先輩に指示を仰ぐ。


「ごめんな、エミリィ……そのーなんだ、」

「何? お兄ちゃん」


 そんな、恰好で返事されても色々困るんだが………その格好だとその……際どいし。目のやり場に困る。


 臭うし、うん────。





「……仕事ってなにやればいい?」





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