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第7話「なんて言うか、勘違いがあるみたい」


「ま、かけろ」


 ギルドマスターの部屋に通された後、マスター自ら扉を閉めるのを見て少し驚くとともに、明らかに場違いなところに自分がいるんだなと思い至った。


 部屋の中に飾られているのは一目見てわかる一級品の装備や、古代言語で綴られた様々な書物に、希少種らしき魔物のサンプルなど。それらが棚や壁に所狭しと飾られている。


「ん? あー……この辺のは気にするな。先代やら、先々代が収集してきたものだ。いくつかは私のもあるがな。マスターっぽい部屋にしろって周りがうるさくてね。ふぅ。……部屋が手狭になって困る」


 ソファーの前に来たは良いものの、座っていいのか分からずマゴマゴとする二人。

 その様子に気付いたギルドマスターがフト相好を崩し、


「そんなに緊張するな。別に取って食おうというわけじゃないんだ──ほら、座れ」


 トンとビィトは肩を叩かれ、恐る恐るソファーに腰かける。

 その動きを見て、エミリィもビィトにぴったりと寄り添う形で腰かけた。


 それを見届けてから、ギルドマスターは部屋の隅からドリンクのポットを準備すると、手早く作り始めた。


「好き嫌いはあるか? ……ないよな」


 聞くだけ聞いて、返答を待たずに──。


「トマトスープだ。ま、茶を切らしているからこんなんで我慢してくれ」


 コトリと木製の大きなカップに並々と注がれた赤いスープ。

 ホカホカと出来立ての様に湯気が立つ。


 貰っていいのか判断がつかなかったが、ドカリとビィト達の正面のソファーに腰かけたギルドマスターは気にした風もなく、チビチビとスープを舐めている。

 それを見て、食いしん坊のエミリィはチュウチュウとスープを飲む。


 !!


「美味しい!」

「ほう。そりゃよかった────ビィト。お前も遠慮せず飲めよ」


 勧められるままに一口。

 ズズ……。!!


 おおッ。

 こ、これは──優しい味だ……。


「うまいです」

「おう、また作ってみるかな」


 ブハッ! ……アンタが作ったんかい!?


「男の手料理だ。適当な味付けでも結構食えるもんだな」


 適当って、まぁいいや。それよりも──。


「あの、特殊依頼のことなんだけど……」


「あぁ。まぁそうだよな。……私が指名したんだしな」

 ガシガシと頭を掻きつつ、ギルドマスターは思案顔だ。


 ここまで呼んでおいて何を言っているんだか……?


「──何か都合が悪い事でも……?」

 急に不安になったビィトは、まだ温かいトマトスープの入ったカップをテーブルに置く。

 ギルドマスターは、そこに黙ってお代わりを注ぎつつ、


「ん、んむ……色々懸念はある。──……一番はな、」


 ゴクリ。


「──おまえが断る可能性だ」

「え?」


 ……ギルドマスターはジッと正面からビィトの顔を見る。


「『豹の槍(パンターランツァ)』を除名された件は俺も聞いている……。その後のお前の顛末もな」


 ええ?!

 知ってるのか?


 な、なら────。


「──あ、言っとくが免許のことはどうにもできないぞ? このギルドだけの問題じゃないんでな。……そこは(いち)ギルドマスターでしかない俺にはできることはないんだ」


 ぐ……。


「まぁ、その代わりと言っては何だが……仮免許とは言え、この街での活動には支障はないように、多少は取り計らおう。……実際その仮免許も特例中の特例だしな」


 チラっと目を向けられる先を訝しがっていれば、ビィトの持つ仮免許────。


「????」

 

 ギルドマスターがクィっと顎でしゃくるので裏返してみれば────「仮免許は本免許申請までの一時的なモノであり、その効果はギルドが特に認めない限り3日以内に失効するものとする」……。


 え?


「ま、そういうことだ。……なので、ギルドが特に認める(・・・・・)ことにした。その仮免許な、嬢ちゃんと同等程度には価値があると思っていいぞ」


 ええええ!? あ、ありがたいけど……。

 

 ちょ、

 うそ、下手したら俺──冒険者ですらなかったってこと!?

 ギルドで素材の換金とか……できなかった可能性もあるんだ。


 やべぇ、ベンが気付いてたら絶対冒険者扱いなんてしてもらえなかったぞ。

 ……素材換金は完全にエミリィに頼るしかないかもしれなかったんだ。


 あぶねー……。


「で、だ。……それとは別にな。ギルドとしては、お前に依頼を出したいんだが……受けてくれるよな?」

 ここで初めてギルドマスターが神妙な顔つきになる。


 なにかを躊躇っているような……。


「──その。なんだ、うむ」

「『豹の槍(パンターランツァ)』の救出に関することですよね?」


 ビィトとしてはさっさと情報が欲しかった。

 なにをギルドマスターは焦らしているのだろう。


「そ、そうだ。……お前の気持ちは分からなくもないが、その──救出関連のクエストをだな。あー」

「やります」


「そ、そうか。う、うむ……無理やりやらせるつもりは────え?」


 ボケらとした顔のマスター。ビィトの言った言葉を反芻しているらしいが……。


「今、なんと?」

「え? いや、受けるって……」


 …………。


「ま、マジ卍!?」


 いや、アンタのキャラなんだよ!? つーか、マジ卍とか古いわ!


「な、なんですか? や、やはり仮免許では受けれませんか?」


 ビィトが意気消沈しそうになって声に覇気がなくなると、

「いやいやいやいやいや!! そ、そんなこたぁぁ! ない!」

 ガシリと肩を掴んでギリギリギリ。

 いったぃ!!! ちょ、痛いって!


「お、お兄ちゃん!?」

「いでででで!」


 エミリィがギルドマスターを引き離そうとしてくれているがビクともしない。だが、その行動のお陰で自分がキツク握りしめていたことにようやく気付いたらしい。


「おぉぉ! すまん! ……いや、しかし、なんだ!? 本当に受けてくれるのか?!」


 いや、アンタ受ける前提で呼んだやん……。

 いいけどさ。つか、そんなに意外か? ……よくわからん。


「う、受けていいなら──願ってもないことなんだけど、」


 だが、依頼の内容いかんによっては、情報がもらえるとは限らない。


 救助は行われるのだろうが、後方支援の荷物運びとかくらいしか回ってこない可能性もある。


「受けていいに決まっているだろう! というか受けてくれるのか!?」


 ん?

 んんーー??


「えっと──」「むぅ……??」


 なんだろう、多分認識の齟齬がある。


「なんで受けないと思ったんですか?」「なんで受けられないと思ったんだ?」


 あー……。


 どーぞ、どーぞ。


 ここはギルドマスターに譲った方が早い。

 ビィトが話しても多分、(こじ)れる。






 エミリィはよくわかっていないので、首を傾げつつもトマトスープに舌鼓を打っていた。





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