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第44話「なんか約束しました」


「そうか……エミリィ──」

 話し終えたエミリィは膝を立てて座り、その間に頭を埋めている。


「辛かったね……」


 ベンのところがマシだというエミリィ。

 ……その頭を軽くかき混ぜる様に撫でてやると、ポロポロと涙を零し嗚咽する。


「ここを出たら……ベンから俺自身を買い戻すよ」

 その程度の金は溜まってきたと思う。ここで手に入れたものを売り飛ばし、その他の報酬を合わせれば十分足りると思う。

 あとはベンを出し抜くだけ。せっかく見つけたドロップ品もベンにとられてしまえば終わりだ。お金もそう。


 だけど、な──ベン。


 焚き火の反対で、高イビキをかいているベンをじっと見つめ、決意する。


 ──エミリィはベンに渡さない。俺のものだ。


「買い戻して、自由になったら、その──そ、そしたらさ……俺とパーティを組まないか?」

「え?」


 泣きはらした目でビィトを見上げるエミリィ。


「その──ベンの下請けじゃなくて……正式なパーティを、さ」

「いい、の?」


 エミリィは期待と不安のないまぜになった表情でビィトを見上げる。


「あぁ、もちろん! 俺からお願いするよ」

 焚火を避けて手を指し伸ばす。

 その手を見て、オズオズと自らの手を伸ばしたエミリィ。


「信じて──いいの? お兄ちゃん……」

「あぁ! もちろんさ」

 ガシリと掴んだ手は、驚くほど小さくて、冷たい。

 その指を離さないとばかりに絡める。


「もっとも、俺の冒険者カードは仮免許状態だけどね」

 たははは──と、照れくささを笑って誤魔化すと、エミリィもつられて笑ってくれた。


「あはは、大丈夫。私のカードがあるよ……それに、再発行──しに行こ?」

 エミリィは言う。

 そうだ。彼女のいうとおり、再発行すればいいのだ。

 登録地へと……──もとの故郷へと。


「私、お兄ちゃんの故郷が見たい──」


 そう言ってうっとりと目を細めて手を放すエミリィ。離れた指は何かねっとりとした感情を引いているようにも見えた。


 エミリィ──。

 お兄ちゃん──。


 その目はさっきまでの悲壮感はなく、期待に満ちている。

「わかった、そうしよう! 免許の再更新にいこう! ……もう、故郷には何も残っていないけど、……二人で行こう」

「うん!」


 ニコォと笑うエミリィの笑顔が眩しい。

 クソのような冒険者稼業でも……、たとえ出会いが最悪でも──エミリィがいてよかった。


 エミリィで良かった。


 自分で自分を売るだなんて、アホで軽率な行為は褒められたものじゃないだろうけど、

 替わりに、エミリィを買ったのは自分の人生の中で最良の選択だった気もする。


 スススと、二人して敷き毛布を寄せると、肩が触れる距離で火に当たる。

 体を洗ったせいか、エミリィの匂いは石鹸のそれに混じっている。嫌な匂いじゃない。


 そっと涙に濡れる彼女の頭を抱き寄せると、優しく髪を撫でた。

 嫌がるかも──と、少しビクビクしたものの、エミリィは少し体を固くするだけで、ビィトに身を任せてくれた。


 たから、ビィトは飽きもせずいつまでもその髪を撫で続けた。


 エミリィのサラサラになった髪に触れつつ──ボンヤリと最近の出来事を振り返っているビィトの目の前で、エミリィがコックリ、コックリ……と船を漕ぎ始める。


(おやすみ、エミリィ)


 驚かせないように優しく触れると、地面に敷いた毛布にエミリィを包む。

 まるで姫のごとく、だ。




 あとは、


 一人起きているビィトが火の番をしつつも外を警戒し見張りを続けた。






 ……今後のことを考えながら。







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