第41話「なんか考えました」
ボリッ! と生々しい音を立てて炭化死体の下あごを回収していくのだ。
グールローマーも元は冒険者。彼らの遺品を持ち帰るのは半ば義務とされている。もちろん守っているパーティはそう多くはないが、彼らにも家族がいたはずなのだ。
だから、いつまでも行方不明ではあまりにも可哀想だ。
死体を全部回収などできないが、こうして目につく限りはこの手の作業に手を抜かないのがビィトの信条だ。
「さ……こんなものかな」
下あごを欠損した死体の山はちょっとしたホラーだが、何もせず放置しておいてもいずれは風化して消えていくのみ。
埋葬するのは手間も時間も掛かるのでさすがにできないが、せめてもの詫びとしてしっかりと冥福だけは祈っておく。
どうか、安らかな死後を──。
※ ※
「うひゃははははは! 大量だな! こりゃ儲けたぜ~!」
グールシューターの集めていた装備品やらお金を前にしてご機嫌のベン。
それを一つ一つ鑑定しつつ、より分けていた。
その近くでは、エミリィが死体のボロ布なんかを使って火を起こしていた。
薪になるものは、散らばっているボロボロの槍の柄、剣の鞘、盾なんかが使えそうだった。
外で回収したスケルトンローマーのそれも加えれば一晩程度の火はもたせられそうだ。
あらゆる装備品の木製部分はこの際ありがたく再利用させてもらおう。
うまく火付けに成功すると、ビィトは手に『身体強化』の魔法をピンポイントで駆けると腕力を強化し、柄や鞘、盾を割っていく。
そのままでは火付きが悪いので、薪に加工するのだ。
豪快だが、これが一番早い。
「ん?」
ポカンとしたエミリィの視線と、ベンの目を剥いた様子。
「お兄ちゃん凄い……」
「オメェ……いつの間にそんなに力を付けた」
今もバッキン、ボッキン! と装備を解体しているビィトを見て二人とも目を丸くしている。
「……何か変かな?」
バッキン!
「いや、普通そんな簡単に素手で折れるかよ!」
「お兄ちゃん……手、大丈夫!?」
ん?
これくらい普通でしょ?
バキキキキ……!
木製の盾をバリバリと割り砕いていく。
乾いているので実に火の付きが良い。おまけに整備のために油を塗り込んであったのだろう。おーよく燃えるよく燃える。
「おめぇは自分のやってることに対する評価が低すぎるんじゃねぇの?」
「凄いよ……!」
いやいや、大げさな。
「木だよ? 鉄ならともかく」
「アホ! そんな簡単に槍の柄とか防具が手で壊せてたら誰も買わねぇよ!」
まったく、呆れた野郎だ。そう言うとまた、装備品の鑑定に戻る。
かなりの数がベンの御眼鏡にかなうようだ。それを持ち運ぶのは骨が折れそうだ。
「ベン……俺にも限界がある全部は無理だぞ」
「何言ってんだ。そんだけパワーがありゃ行けるさ」
なんとなく、上手く乗せられてしまったようで面白くない。
しかし、奴隷はベンの言うとおりだ。仕方のない事。
はー……こりゃ、荷物が嵩張るぞ。
しかし、そのおかげもあってベンはビィトの荷物を取り上げようとはしなかった。
ネックレスや装飾の剣は取り上げられるかと思ったが特に何も言及しない。もしかするとダンジョンを出てから奪うつもりなのかもしれないが、そこは上手くやればビィトの物になるかもしれない。
──何か策を練らないとな……。
みすみすくれてやる気など微塵もないので、この辺は遠慮しない。
流石に露骨にやると何をされるか分からないが、今回ダンジョンに潜った成果がうまくビィトの物になれば奴隷身分から自分を買い戻せるだろう。
何が悲しくて禿デブ親父の奴隷をしなきゃならん……。
悪いがベンに義理はない。金さえ稼げればエミリィと一緒にベンとは縁切りだ。
当然エミリィだって返す気も──渡す気もない。
今のところ便宜上とは言え、エミリィはビィトの所有物だ。
奴隷契約の傍系の権利が強くビィトは本当に形骸となっているのが業腹ではある。
いいさ、ここを脱出するまで。
あと数日の辛抱だ。
ゲラゲラと笑い、ご機嫌そうに装備品をリュックに詰め込んでいるベンを横目に、エミリィと肩の触れる距離で並び焚火に当たる。
どうせベンは好きなだけ眠るだろう。そのための酒もちゃかりとある。
見張りはビィトとエミリィが交代でこなすことになるのは明白だ。
まぁそれでもいい。
むしろそうしろ──。
ベンが寝ればお楽しみタイムもある。