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第32話「なんかカルシウムでました」


「ほら行くぞ!」


 殊更ことさら声を張り上げてズンズン進んでいくベン。

 慌てて後をついていくエミリィとビィトだが、


「ベン。そろそろビバーク(きゅうけい)地点を探そう」

 ダンジョンに潜ってすでに半日以上が経過している。このダンジョンは夜が来ないタイプのダンジョンらしいが、冒険者には関係がない。

 地上の様に夜が来れば眠るというわけにはいかないのだ。

 キチンと休む時は休まないと、いざという時に動くことができなくなる。


「だから、奴隷が───」

「ごめんって、謝るから休むところを探そう」


 段々とベンの扱いが分かってきたビィトは、素直に先手を打って謝る。口答えが気に食わないというより、こうして謝罪なりを引き出して自分が優位にいると再認識したいのがベンなのだろう。そうと分かれば簡単なものだ。元々のパーティでは、頭を下げるのは日常と化していた。ジェイクはもとより、妹のリスティにも頭を下げる事すらある始末。

 ……慣れてるよ。


「ちっ……お前が先導して、イイ所を探せ」

「わかった」


 ダンジョン探索に置いてビバークは重要だ。

 そのビバーク地点を探すのは、パーティの中で最も重要な役割でもある。

 ビィトは長年「豹の槍(パンターランツァ)」の雑用をこなしてきたこともあり、その辺はお手の物。


 守りやすく、目立たない。

 ──快適性がそこに加われば理想的なビバーク地点だ。


 ゴブリンどもには一度見つかっているし、寝込みを襲われないように隠れられる場所を探さないとな。


 ベンに地図を借りて、先頭を進む。


 緩やかな丘には巨石がゴロゴロと転がっており、隠れる場所には事欠かなさそうだが、その分モンスターとの不期遭遇の可能性も高い。


 バサッ……


 使い古した中古の地図だが、

 嘆きの谷は変動しないタイプのダンジョンなので、十分使用に耐える。


 安物の地図は、偏平な絵柄のため高低差なんかは大雑把だが、

「罠街道……ゴブリン集落、廃品の丘、鬼の巣……黄金の池か。そして───」



 ここが、廃品の丘と……



 地図には出現するモンスターの絵柄も乗っている。

 もっとも白黒なので、ただのゴブリンかクリムゾンゴブリンか───なんてのは違いが判らない。

 ここには髑髏どくろマークが記載されている。

 が、

 これが海賊旗(どくろマーク)でないなら、出現するのは、


「ひぃ!」

 エミリィの怯えた声。その声に顔をあげると、なるほど……


「アンデッド……」


 カタカタカタと、乾いた音を立てながらボロボロのガイコツが所在無げに歩いている。


 こっちに気付いているのかそうでないのか……わからない。

 ただフラフラと迷走しつつも徐々に近づいていることから一応は気付いているらしい。


 ダンジョン由来のアンデッドではないのだろう。


 よく、初級のダンジョンや浅い階層で出現する「スケルトン」って奴なのだが──今、目の前にいる奴は、ダンジョン産の綺麗な白骨ではなく、

 ボロボロで、乾いた皮膚なんかが残っている所を見ると……冒険者由来のアンデッドだろう。

 グズグスに劣化した鎧と剣をいている。


 スケルトンローマーか……


 スケルトンローマー。一応、これでスケルトンの上位。

 人間が死んで腐り落ちた後に復活したアンデッドだ。とくに、こいつは元が冒険者なだけに、その冒険者由来のスキルが使用できたり、装備をそのまま持っていたりする。


 オマケに冒険者由来の生前の強さをある程度継承しているので、一概に強さが分からないのがやっかいなモンスターだ。



「雑魚だ雑魚っ! おら、手本を見せてやるぜ!」



 ビィトが警戒して観察していることにごうを煮やしたのか、

 ベンがビィトを押し退けて前に出る。


「見とけっ!」


 へへへ、と笑いつつ取り出したのは棘付きの鞭だった。

 細い鋼線を編んで作られたソレは、しなやかな割りに頑丈で、剣とも槍ともつかない間合いをとる中間距離の武器。


 それをピシィン! と、しならせながらスケルトンローマーに一撃。


「ま、待てよベン!?」


 余りにも無防備なベンの様子にビィトをして一歩行動が遅れる。

 ……ベンはモンスターの見た目に騙されている!


 止せっ! と、留めるのも間に合わず。

 

「バラバラにしてやるぜ!」

 ビュン! と勢いよくしなる(・・・)鞭がスケルトンに───……ガシリと掴まれる。


「んなっ!?」


 途端にビン──と張り切る鞭にベンが慌てるが、スケルトンは逆に動きが速くなり、


「カカカカカカカカカカッ」


 グルグルと、鞭を巻き取り始める。

 腕関節を無視した巻取りは余りにも高速で、ベンが体勢を崩して倒れるほど。

 ベンは手からすっぽ抜けた鞭につられるように前のつんのめる。


「うぉっとっと!」

 ドサリと倒れたベン。その目の前に、


「カカカッカカカカ!」

 ガタガタと顎関節を動かし笑う骨。

 頭が割り砕かれているので、その表情は滅茶苦茶怖い。


「うおぉぉぉ!! た、助けろ!」

「くっ!」

 ベンの悲鳴にビィトも我に返り魔法を準備する。だが間に合うのか!?


 スケルトンローマーは、剣をズラリと抜き払うと剣士のスキル、バッシュの構え。やはり、そこそこの冒険者の骨だったらしい。

 狡猾さまで引き継いでいるのか、弱いモンスターのフリをするくらいには知恵もあるらしい。


「カカカカカ!」

 笑い声とも気合ともつかぬ声……振り上げた剣をベンに突き立てようと、


「ベンさん!!」

 パカァァン! と小気味の良い音が響き、スケルトンの頭部がはじけ飛ぶ。途端に力を失ったかのようにカラカラーと崩れ去るスケルトン。


 魔法を撃とうとしていたビィトが驚いてみると、エミリィがスリングショットを発射したところだった。


「お、お、お、おせぇぞ!」


 ベンは尻もちをついたままズルズルと撤退。エミリィに掴みかかる。

「ひぃ…ごめんなさい」

 どう見ても理不尽な扱い。







 むしろ助けられたことに礼を言うべきだろうに……








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