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第28話「なんか迂回路を探しました」


「こっちです」


 罠だらけの道から外れて、崖に近いところを下っていく。

 ゴブリンが罠を仕掛けているのは精々道沿いまでだったようで、道をれて崖一歩手前のところを行けばその脅威は一気に変じた。


 とは言え、崖沿いも危険なことに変わりはない。

 丘陵地帯の脇道は……とても道と言えるような代物ではなく、

 深く暗い川にへばり付くようにして突き出した岩、そこに辛うじてい進む程度のとっかかりがあるくらい……


 小柄なエミリィは臆することなくスイスイと進んでいくが───

 その後ろをカバーするようにビィトも進んでいくも、壁から手が離せずおっかなびっくりの歩調。

 ベンはもっと無様に、這いつくばって進んでいる。


 ちょっとでも体勢を崩せば深い谷底の川に転落する羽目になるのだから仕方あるまい。


 真っ黒に見える川の水は不気味で何が潜んでいるやら……時折波紋が立っていることから何らかの生物はいるのだろう。


 ──頼まれても入りたくはないな。


 全員の総意として早く抜け出したいが、ゴブリンのいるであろう盆地まではここを進むしかない。

 全く……ロクでもない道だ。

 罠の道は時間がかかり過ぎるし、ゴブリンにも見つかりやすくなる。とはいえ、崖沿いもまた恐怖の道──


「おい! ガキ……まだ着かねぇのか!」

 ベンの声が谷間に反響し、川に波紋が立った。静かな川沿いの道では声がよく響く。


 ────着かねぇのか!

 ──ねぇのか……


「ベン! 静かに……!」


 川に木霊していくベンの声に顔を青くするビィトとエミリィ。

 シンと静まり返った谷のこと。下手に騒げばゴブリンさんが大挙して押し寄せるだろう。


 ……こんなところで出会ったらおしまいだ。


「くそ! やっぱり上の道を行くんだったぜ」

 苦々しにベンは呟いているが、今更戻ることもできない。

「も、もう少しです! あっ!」

 ベンに答えようとしてバランスを崩したエミリィを───


「だ、大丈夫か!」


 ビィトが間一髪手を伸ばして支える。ビィト自身も片手で岩の出っ張りを掴んでいるだけなので非常に不安定な姿勢だ。


「ごめんなさい!」


 ピョンと身軽に姿勢を立て直すエミリィだったが、ビィト同様冷や汗をかいている。

 死ぬかと思った。

「ベン! ……頼むから大人しくしててくれ」


 これでは、奴隷が全滅するはずだ。


 本人はAランクを吹聴しているが、どう見てもベン自身の腕はCランク程度だろう。

 装備が良くてもBランクに足が届くかどうかというところ。


 その点、はっきり言えばエミリィのほうが……よほど優秀だ。

 むしろ、彼女のランクはBでもおかしくはない。戦闘の様子はまだ見ていないが、身のこなしは少女のものとしては洗練され過ぎている。


 「豹の槍(パンターランツァ)」のアサシン──リズの下位互換ではあるのだろうが、潜在的な身体能力は彼女とも遜色そんしょくないほどだ。


「も、もう少しです」


 それにしても、エミリィのような優秀な少女がなぜベンの奴隷などやっているのか改めて疑問に思う。

 その腕があれ盗賊シーフ枠として大抵のパーティでやっていけるだろうに…


「は、はやくしろ! どけ!」

 道の終わりが見えてくれば俄然ベンが張り切りだし、ビィトを突き飛ばさんばかりにグイグイと押してくる。よほど今の道が恐ろしかったのだろう。


「待てよ、ベン! この先はゴブリンの住処だ。静かに行かないとあっという間に囲まれるぞ!」


 道の切れ間でエミリィが慎重に先を覗き込んでいる。

 実際ここまで獣のような体臭が漂って来ているのだ。丘を下ったためにダンジョンの高低差の中でいえば、最もい低い位置にいるらしい。


 深いと見えた川は今やすぐそばを流れているが、それだけに生き物たちからして使いやすい水場となっている。


 盆地のこの位置は、間違いなくゴブリンの住処だ。


「うるせぇ! 場所を替われ!」

 強引に押し退けるベンに、仕方なく場所を譲るが、でっぷりとした体に押されてビィトが危うく川に落ちそうになる。


 その際に川に潜む巨大魚と目が合って肝が冷えた。

 ゴツゴツとした鱗に怪しく光る眼。……手足の様に発達した胸鰭むなびれと───


 おいおいおい、


 あ、

 ……ありゃ、アリゲーターフィッシュじゃないか!


 獰猛な巨大魚で、川に落ちたものは何でも食らう悪食の化け物だ。

 水辺で最も遭遇したくない種類の敵である。

 ギラリと光った目が鋭くビィトを貫いていた。







「ベン! 気を付けろっ……川に落ちたら死ぬぞ」








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