◆第16話◆「なんだかなぁ、作戦を立てよう!(後編)」
「「「トラップ?」」」
リズを除く全員が妙な声をあげる。
暗殺者であるリズも何か知っている風であったが、彼女は基本的にこういった場で意見を口にしない。
「は、はぅぅ……!?」
全員に注目されてエミリィはビクリと体を震わせた。
しかし、情報の中身を知らずして黙られても困る。
「えっと、どういうこと?」
努めて優しく話しかけるビィトに、エミリィは簡易図面の一カ所と、煙突内にいくつかある横穴を示した。
そこは急な斜面がついており、とても登れそうには───……。
え?
あれってまさか……。
「あ、あそこに、落とし穴があるみたいなんだけど……」
シュンとしたエミリィが、語尾を徐々に小さくしていく。
だが、それどころではない。
「ちょ、ちょっとまって?! 落とし穴っていうけど、ここのトラップってとっくに機能してないんじゃ?」
「う、うん……。多分、動かないよ? でも……」
エミリィが言うには、煙突まで続く落とし穴が何カ所かボス部屋付近の回廊にあるという。
おそらく、「悪鬼の牙城」が大昔に何かしらの種族が拠点として使っていた頃の名残だろうというもの。
今でこそオーガの巣窟になり、文明の痕跡もすたれて消えてはいるが、かつては書斎や調理場、そしてトラップを活用していた何かがいたのだ。
それらがボス部屋───もしくは大昔の主が使っていた部屋を守ろうとして、トラップを仕掛けていてもおかしくはない。
なるほど……。
感覚が鋭く、探知能力のあるエミリィはとっくに気付いていたのだろう。
あちこちの抜け穴の存在に。
そして、雰囲気から察するにリズもきっと……。
いや、言うまい……。
彼女の生き方は彼女だけの物。
「うーむ……。そのガキのいうとおりなら、古いトラップをこじ開けるくらいなら、たいして手間がかからなさそうだな」
機能していないとはいえ、落とし穴のトラップは本来敵を落とすための物。
壁に比べて頑丈ということはあるまい。
問題はその真下まで行くことだが───。
「エミリィは経路をつくれる?」
「? トラップの下までなら多分。開けるのは自信ないけど───」
上等ッ!!
「すごいじゃないか、エミリィ!! 今すぐ準備してくれる?」
「ええ?! 本当にそれでいいの? お、お兄ちゃんたちの方がすごく考えているのに───」
エミリィは自分の意見が採用されたことに驚いている。
だが、エミリィのいう経路は最適なのだ。
敵の気配は少なく。
そして、ボスまでの距離も申し分ない。
「うむ……。そこがベストだな。ビィト、経路はお前のパーティに任せる」
「おう」
ビィトはジェイクの意志を組み、エミリィとリズに経路の開拓を任せた。
ロープもペグも十分にあるので、そう時間はかからないという。
リズとエミリィが簡単な打ち合わせをしているのを尻目に、ビィト達は突入後の話合いを詰めていった。
そうしているうちに、リズもエミリィもきびきびと動き、あり得ないほど急な壁をスイスイと登っていく。
そして息の合った様子で、壁にロープを這わせると、あっという間にトラップの出口だという穴に潜り込んでいった。
「す、すごいな……」
「感心している場合か! 聞け、間抜けッ」
ジェイクはビィトを睨み付けるように言う。
「な、なんだよ───」
「……俺なりに、前回の攻略を分析して、ここのボスを倒す方法を考えた」
そう前置きしたあと、ジェイクは静かに告げる。
「ボスを仕留めるのは─────────お前だ」
「は?」
唐突に告げられたビィトはポカンと口を開けるのみ……。




