第17話「なんか罵倒されました」
ガヤガヤとした喧騒。
広い入り口には引っ切り無しに冒険者が出入りしている。
ドロップ品を詰めた袋を重そうに担いでいる者もいれば、満身創痍で足を引き摺るもの。
キョロキョロと珍しそうに周囲を窺っている者は、街の新入りだろうか。
そんな人込みに混って、ビィト達はギルドの建物を潜った。
ボロボロの格好をしたビィトと…エミリィをみたとたんに、一瞬ギルド内がシンと静まり返る。
良くも悪くも二人は目立つし…匂う。
それに、ちょっとした有名人なのだろう。
元Sランクパーティで寄生虫の青年に、
悪名高い奴隷使いのスリ担当の美少女───
居心地の悪さを感じながらも、ビィトはエミリィとともにカウンターへ向かう。
そこは長蛇の列かと思いきや、ちょうど間隙だったらしくぽっかりとギルドの窓口があいていた。
エミリィと顔を見合わせつつ、
「やぁ」
トントン、と軽くカウンターの台を叩く、
「ちょっと待ってください。今片付けます」
聞き覚えのある声がしたかと思うと───
「あら……」
ゲッ…!
「あー、どうも…」
先日、冒険者カードを失効したときに泣きついた受付嬢だった。
よくよく見れば美人だが、キッツイ目をしていらっしゃる……
「なんですか? …………再発行は無理ですよ」
「い、いや、そうじゃないよ。今日は依頼達成の報告に来たんだ」
ビィトの答えを聞きつけた受付嬢は怪訝そうな目…というか胡乱な目だ。
下手なことを言えば、ギルドの警備に取っ捕まりそう。
「はぁ? いや、あなた無免許でしょ? お情けの仮登録のそれで、この街で受けれるクエストがあるとでも?」
いかにも挑発的で、小ばかにしたソレ。腹が立つというよりも、罵倒されて言い返せないのがみっともなかった。
「あ、あの!」
そこに割り込んできたのは、エミリィ。
「わ、わたしのクエスト完了報告なんです!」
カウンターに手を掛けると懐から出したCランクカードを差し出す。
「あら…? エミリィじゃないの?」
「は、はい。テリスさん…こんにちわ」
急に態度の砕けたテリスという受付嬢。
あまり人と話すのが得意と言わけではないビィト。だからか、この街にそれなりに長くいたが、この受付嬢の名前を聞いたのはこれが初めてだ。
「で? なに? どうしたのよ、こんな奴と…」
「こ、こんな奴って……その───」
「あ、ベン死んだ? コイツが新しい男とかー!?」
ビィトを相手にするときのようなジトっとした声ではなく、エミリィ相手には明るく朗らかな声で担当する受付嬢のテリス。
「あ、新しい男だなんて…!」
キャ──と顔を赤くするエミリィ………って、話が進まんがな!
「エミリィ…!」
ツンツンと背中をつついて先を促す。
「あ! ご、ごめんなさい。…そのテリスさん、……ビィトさんは新しい、ご主人様なんです…」
「………はぁ?」
(ご、ご主人様って……)
またもや酷い目つきでビィトを睨むテリス。
「ちょっとあんた…仮免許の癖に、……こんな小さい子に手ェ出すとか……───ギルド舐めんじゃないわよ」
「ななな、な、なんもしてないって!」
酷い誤解だ! というか、俺も奴隷だよ!
「どうだか……」
じとーっと睨むその目に耐えられそうにない…
「い、いえ…ベンさん生きてますし…今日はいつものお使いクエストです」
シュンとした顔で言うエミリィを見ればテリスも納得したらしい。
「あー……生きてるんだアイツ。チッ…」
チッ…とか言いましたよこのアマ………テリスさん。まぁベンについての感想は同じだが。
「また奴隷の稼ぎのピンハネかー…ホント死ねば良いのにアイツ」
ブツブツと言いながらも、ビィトが持つ依頼書をひったくると、
「ラージアント駆除ね……はい、駆除証明とドロップ品だして」
言われるままに、ドロップ品のギ酸やフェロモン袋を出していく。
「あら……すごいじゃない!」
その量に驚いたのか、お褒めいただけるご様子。
目線はエミリィに───
ビィトは完全無視だ。
「は、はい。ほとんどお兄ちゃんが倒したんですけど…」
私は援護しただけで…と小さな声で言うエミリィ。しっかりと聞こえていたくせにテリスは聞いてやしない。
「ふーん…ま、いいわ。はい。報酬。……ドロップ品はどうするの?」
銀貨10枚。……安いんだか、高いんだか分からない額だ。
そのお金の山とは別に、ドロップ品をまとめた籠を示すと、
「お兄ちゃん?」
エミリィは、ビィトにどうするのかと問うてきた。まぁ、倒したのはビィトだし…エミリィの主は一応ビィトということになる。
依頼こそエミリィのCランクカードに則って受けたものだが、労力は間違いなくビィトのもの……
さて、どうしよう───