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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-どんな英雄より

1人先に着替えを終えたシュナイゼルは、

未だ執事服のままでいるルイの表情を見る事が出来ずにいた。


「・・・怒ってるか?」


セリーヌが戻ってくるまでに、きちんとルイに伝えたい事がある。

だが、重苦しい空気を払拭する方が優先。


先ほどのルイの激昂する姿が脳裏をかすめる。

バイセルをダシに使うのは抵抗があったが、沈黙を破るために利用した。


「はい」

「バ、バイセルも悪気はないと思うぞっ!」


ルイに執事の仕事を教えるのを楽しそうに語るバイセル。

"打てば響く"と相貌を崩し、"些か常識が"と苦笑いを浮かべていた。


常識の欠如。

執事見習い初日のルイは、バイセルだけでなく、

シュナイゼル、セリーヌをも絶句させた。


「音を立てたりせず、自然に動き、主人の側に静かに佇む」

とバイセルが伝えれば。

足音、布擦れの音、意識すると呼吸音すら消し去る。

自然な動きどころか背景に"溶け"、シュナイゼルの背後から完全に消えた。


「お食事の際は、食べ物はお客様の左から、お飲み物は右から。

 お出しする時はお客様の手の動きに注意して阻害する事なく」

とバイセルが伝えれば。

気付けば、目の前に料理が用意されていた。

大皿の料理の取り分けは更にひどい。手元が早くて見えない。


「カップなど、割れやすい物が落ちた時は速やかにお客様の怪我に…」

実際、足下で割った陶器のカップはルイの影に呑み込まれ足下から消えうせた。

しれっとした顔で、佇むルイにバイセルは嘆息するものの、笑っていた。


叱られ、指摘されルイは矯正されて行く。


「特異能力も、特別な歩法も禁止です。

 誰しもが出来得る範囲で、こなしてください」

「…むむ」


厳しい指導の中でもルイは楽しそうだった。

"考えてみたら、戦闘以外の事で叱られたの初めてですね"

と、笑顔を浮かべていた。


それなのに、先ほどの件でバイセルと仲違いしてしまった事が悲しい。


そんなことを思っていると不意にルイの小さな手が、

シュナイゼルの肩に乗る。


ほんのり温かい体温を感じた。


「…違いますよ」


気遣うような優しい声音だった。


「僕が怒ってるのは、僕にです」


次いで、耳を打ったのは強い意思を感じさせる言葉。


いつの間にか、自分はソファに力無く座っていたのだと、

その時気が付いた。


「お2人を危険に晒してまで、確認が必要なほど僕は出来てない。

 そう言われてるみたいで、悔しくて情けないだけなんです」



肩越しに見上げたルイは、一瞬感じた強さとは遠くかけ離れた

力無く淋しそうな顔をしていた。


よくわからない感情がシュナイゼルを駆け巡る。


「情けないことなどあるかっ」


無意識に叫んでいた。

目が熱い、涙がこみ上げてくるのがわかる。


―― ひと雫だって流してたまるかっ!


必死に耐えた。

不安そうにこっちを見るルイの姿が揺れる。


―― バイセルに叱られても嬉しそうにしてただろっ!

   出来るようになったら得意な顔してただろっ!

 

「今日は、今日のルイは!…ちゃんと執事で、すごい心強かった」


その激情は、言葉にするととても弱くて小さくなった。

更に零れる言葉は消えてしまうほど弱い。


「ルイ、お前は情けないないなど言わないでくれ」


一度、堰を切った感情は止まらない。


「ルイが、ルイが弱いと俺は困るんだ」


拳に力が入る。


「俺はいい、いいんだ。きっと利用できる内は酷い目にはあうことはない」


視界に映っているはずのルイはぐちゃぐちゃに歪んでいる。


「セリーヌは違うんだっ!」


もう何も見えない、何も聞こえない。


「頼む…頼むよ、ルイ。助けてくれ」


肩に感じていた小さな手の感触。

気が付くと温かかさよりも、痛みの方が勝っていた。


「守ります」


言った。

ルイは確かにそう言った。


「リーヌ姉さまはもちろん、ゼル兄さまも僕が守ります」


―― 子供の癖に。

   自分より子供の癖に。


マサルでもなく、エドガーでもない。

シュナイゼルが知るどんな英雄の言葉より、不思議と信じられた。


「俺はいい」

「勝手に守ります」


―― 精一杯の強がった俺の言葉、お前はどんな顔をして聞いていたんだよ。


どろりとした不安が、消えた気がした。


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