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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-弟子ときどき執事、ところにより激しい剣戟-③

「陛下。お茶のお持ちしました。」

「ああ、頂こう。リズもルーファスもどうだい?」


マサルは、ソファでくつろぐリズィクルとルーファスに声をかける。


「頂く」

「もらうっす」


執務机のカップを手にした"執事服を着たルイ"は、

リズィクル、ルーファスの方に軽く顔をあげ、丁寧に頭をさげた。


「・・・」

「…お兄様。今は邪魔しちゃだめですよ」

「わかってる」


執事見習いとしてバイゼルに師事を受けているルイを心配そうに、

シュナイゼルとセリーヌは、見守っている。


初めの頃は、2人が頭を抱えたくなる様な不自然な挙動をしていたルイ。

日に日に清廉されて行くのは見てとれるが、

突然、突拍子もない行動に出る事があるため不安が拭えない。


丁寧にバイセルから教わった通りにお茶を淹れるルイの表情には余裕が見える。

そして、3人の元へカップを渡す。


「・・・よしっ」

「完璧です」


音を立てることなく、ルイが一連の動作を終えたところで、

シュナイゼルとセリーヌが小さなガッツポーズをとった。


「両殿下、まだ指導中ですのでお静かに願います」


ひと通り、口を出すことなく見守っていたバイゼルが2人へ釘を指し、

柔和な笑みを湛えてマサルの後ろで待機しているルイに視線を向けた。


しばしの沈黙。


バイゼルの射抜く様な視線にも、ルイの表情は崩れない。


「合格点をあげてもいいかと。よくこの短期間で至りましたね」


厳しい表情ではあるが、バイゼルが口にした賛辞に、

ルイが"張り付けていた"表情が、一気に崩れさる。

余程、張り詰めていたのか疲労感をさえも感じさせた。


「ただ一点」


だが、バイゼルは更に続けた。

弛緩した空気に、再び緊張が走る。


「もう少し、胸をもう少し張るように。

 私を模倣は出来ていますが、体型、年齢、顔立ちによっても、

 美しい立ち振る舞いは変化するもの。

 そこを意識して、今後も努めなさい」


バイゼルはそう口にすると、その場で一礼した後、扉の側に控えた。

その動作ひとつ取っても、その質の高さに目を見張る。


だが、次の瞬間、バイゼルがルイに視線を向けた。

そして唇を微かに動かし微笑む。


―― すばらしい所作でした。


唇の動きを読み内容を理解したルイは、笑みを深めて小さく礼をする。

その笑みは、先ほどまでの作られた表情ではなくとても自然なものだった。


そんな2人の様子に気づいたマサルは、満足気な笑みを浮かべる。


護衛のために様々な課題を師匠たちから与えられる事になったルイ。

マサルからの課題は、この執事としての振る舞いの習得。

かつ、"最低でも"王族付の執事に見劣りしない水準が求められた。


当然、その高いハードルが用意された事にも理由がある。


仮に、シュナイゼルとセリーヌが事なきを得て無事王都へ戻ったとする。


計画が失敗したシュナイゼル擁立派はもちろん、

蜂起の準備に余念がないジュリアス擁立派も調べるであろう。

謎の人物(ルイ)を。


ジュリアス擁立派、シュナイゼル擁立派の両陣営には、

しばらく、この謎の人物(ルイ)を調べるのに右往左往してもらう方がやりやすい。


だが、エドガーとレオンの弟子であるルイという存在は、

ハンニバルで活動する冒険者たちにとっては、周知の事実である事。


そして、先だって起きたイジート子爵が暴れた事件の際に、

マサル自身の口から"ルクシウスの弟子である"と公言している。

当然口止めなどしていない。


マサル、ルーファスが王都への帰れば、

たちまち両陣営から斥候や情報収集のために人員が送り込まれる事は明白。

"冒険者ギルドの見習い職員ルイ"の存在は把握される。


そこで、マサルは一計を案じた。


オルトック辺境伯に複数の少年少女の奴隷を購入させた。

集められたのは執事見習いとして7名、メイド見習い11名、計18名。

その奴隷たちの購入履歴には、書類を偽装した上でルイの名も記載された。


これで、"英雄たちの弟子で冒険者ギルドの見習い職員"と、

"元奴隷の執事見習い"と別人の顔をルイは手に入れる。


「明日、僕は帰るからね。オルトックや、シュナイゼルたちへの謁見には、

 ルイ君は、なるべく多く参加するんだよ。」

「わかりました」


今後の予定を再度確認するように口にしたマサルの言葉に、

ルイは奇麗な一礼で応える。


「陛下、私たちはルイの事を気に入ってるんだと見せつければよろしいんですよね?」

「ああ、そうだね。」

「それなら楽勝だな。だって、俺たちルイ気に入ってるし」

「ふふ、そうです。お兄様と私にはそんな演技の必要はありません」


詳細は伝えられていないが、

"ルイにとって必要なこと"と聞かされていた2人は、この件をすぐに快諾。

彼らにとっては、政務の間もルイといられる事が嬉しくて仕方ない。

そんな2人の頭をマサルは優しく撫でる。


「恥ずかしいよ、陛下っ」

「くすぐったいです」


さすがに気恥ずかしさがあるのか、逃げるようにルイの下へと駆け寄る。


「あはは、それは済まなかった。"きちんと守ってあげるように"」

「「はい」」


2人は元気良く声をあげ応えた。

マサルの言葉を"正確に"理解したルイは、真剣な面持ちで小さく頷いた。


「じゃあ、エドのところに行くっすよ。着替えてくるっす」

「わかりました。……ゼル兄さま、リーヌ姉さま手を放してください」

「「・・・」」


腕と首にしがみつくシュナイゼルとセリーヌに困った顔でルイが抗議するが、

2人は無言のまま、更に力を込める。


「これこれ、ルイが困っておるじゃろ。離してやらんか」

「夕飯一緒に食べていけば良い」

「そうですわ!なんならお泊りするべきです」


リズィクルの静止もなんのその、2人は力を緩める様子はない。

そんな2人と離れたくないのはルイも一緒だ。

だけど、それよりも今は優先しなければならない事がたくさんある。

仕方なく、強引に逃れようと考えはじめたルイの思考が止まる。


―― バリンッ


「っ!」

「えっ」

「きゃっ」


窓が割れる音より先に2人の足を払い、強制的にうつ伏せに寝かせる。

2人が立っていた位置を2本の短剣が通過して壁に突き刺さる。


ルイは床に伏した2人の前を庇うようにしゃがみ、

鋼糸を伸ばし警戒を高め、窓の外を睨みつけ口を開く。


「2人とも動かないで」


普段と違う無機質にも感じたルイの声音に、2人は驚き身を固くした。

いつも纏う優しげな雰囲気や気配は少しも感じられない。

牢を使った訓練の時でさえ、こんなルイを2人は見た事がなかった。


「文句なしの対応でございます、ルイ様。

 危険察知からの2人への対処。

 足を払い倒すと言うのは些か乱暴に感じましたが、

 強く倒れぬよう"鋼糸で支える"とはすばらしい配慮でした」

「後輩ちゃんなら相手の位置わかった時点で、飛んでくかと思ったっすけど、

 迷わず守勢に回り、警戒態勢で索敵。文句なしっすね」


バイゼルが手を叩き称賛し、ルーファスもそれに同調した。


すぐ自分が試された事に気づく嘆息するルイ。

だが、いざ落ち着くと怒りがこみ上げてくる。


飛んできた短剣は刃引きしてあったとしても、

窓を割り、壁に刺さる程の威力だ。

もし当たっていれば2人怪我を負っただろう。


「……妾は聞いておらんぞ」


"やりすぎではないか"とルイ同様、激しい怒気を漏らし、

リズィクルは、黒幕であろうマサルとルーファスを睨みつける。


「あはは、僕ならやりそうだけど、これについては知らない」


マサルがお手上げポーズで"君だろ?"と、ルーファスに視線を向けた。


「え?俺っちも知らないっすよ。てっきりマサルの仕業だと思ってたっす。

 さっき褒めたのだって、結果を見て評価しただけっすよ。」


ルーファス自身もマサルが描いたシナリオと思ってたため、困惑の表情を浮かべる。


リズィクルも、2人がこんな事で嘘をつかないのはわかっているため、

揃いも揃っての否定に戸惑う。


―― もしや、本当の襲撃か。


屋敷の外で今だ動く気配の無い襲撃者を捕捉し、

ルイは足に力を込めて体勢を低くする。


「ルイ様、お待ち下さい。外の者は私の部下でございます。

 この件は私の仕業でございますので、懲らしめるのであれば外の者ではなく私を」


今にも駆けださんとしたルイの前を遮る様に立ち、

バイゼルは頭を下げてそう言った。


「なるほど、執事バイセルの最後の試験って訳かな」


マサルの言葉に、バイセルは右手を胸に添え一礼して応える。


ルイは大きく息を吐き出し立ちあがり、バイセルに詰め寄り口を開く。


「今回は、ご指導頂きありがとうございました。

 オルトック様に"平穏が続くよう"お祈り申し上げております」


先ほどまでの怒気は霧散し、そこにあるのはただただ純粋な殺気。

表情に浮かぶは、作られた張りつけられた様な微笑(びしょう)

優雅な一礼に込められたのは、"次はない"と言う鉄の意思。


言下に、お前の主人を殺す。と警告したルイをしっかり見据えるバイセル。


「ええ、肝に銘じておきましょう」


ルイは踵を返し、今だ伏せたまま、

険呑な雰囲気に呑まれたシュナイゼルとセリーヌの下に膝をつく。


「・・・立てますか?」


いつもの声音のルイが手を差し出し、

セリーヌ、シュナイゼルと順に立たせる。


「目立った汚れは見当たりませんが、

 こんなにガラスが飛び散った"小汚い部屋"は、何かと不衛生ですから、

 執事の躾も出来ないここの主に言って、奇麗な部屋を用意して頂きましょう」

「「…はい」」


その表情は2人にしか見えなかったが、

シュナイゼルとセリーヌは大人しく頷き、ルイに促されて退出した。


「師匠のところへは、勝手に戻ります。では」


―― パタン


振り向く事なく告げたルイはそのまま退出し、扉を閉めた。

ルイたちが去った部屋には微妙な空気が流れる。


「ふぅ、寿命が縮む思いでした」


ルイが退出するまでは、涼しい顔を維持していたバイセルだったが、

緊張から解放されたのか額には汗が滲ませている。


「・・・まじで次はないぞ、老いぼれ。ってとこっすか」

「このまま、オルトックの首を獲りに行きかねんのではないか?」


ルーファスとリズィクルが非難めいた視線をバイセルに向ける。


「まあ、やり方はともかく怒った上でも自制しなきゃいけないのが執事。

 でも、舐められ過ぎないように、立ち振舞うのも執事・・・と。

 そういう事を伝えたかったって事でいいのかな?」

「些か子供染みた挑発にも見えますが、

 実際の年齢を考えればむしろ良く自制されてたと愚考致します。」


貴族の中には、平民から成りあがったオルトックを下に見る者も多い。

当然、そう言う者は本人を前にした際も悪態をつき、暴言を吐く。


更に、そういう愚か者の中には、

シュナイゼル、セリーヌを前にしても、

子供と侮り、横柄な態度を取り、高圧的に応じる者もいるだろう。


ましてや、見習いとは言え執事として付くのが幼い子供。


主が貶められて怒らぬ執事などはいない。

だが、短絡的に殺してしまうと主の立場を害してしまう場合が多い。


故に、忍耐を強いられる。


「あの幼さであの殺気。あまりに異質。

 得体が知れない恐ろしさに、並の貴族では耐えられないでしょう。

 軽はずみな行動を取った事、強く反省しているところです」

「ルイ君もわかっているから、引いたと思うよ?」

「・・・(はらわた)煮えくりかえっているのは間違いないっすけどね」

「オルトック様の首で済むといいんですが」


顎に手をあてそんなこと口にしたバイセルに、ルーファスは苦笑いした。


オルトック「…っ

バイセル「ちっ

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