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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-弟子ときどき執事、ところにより激しい剣戟-①

復帰三日目。

キーボードにビールをこぼしてしまい。

ローマ字入力で言う「C」、カナ打ちで言う「そ」が凹んだまま戻らないことがしばしば。


離席して戻るとたまに起こる

「そそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそそ・・・・・・・・・・」


なにこれ怖い。

黒い帳に覆われていた空。

その東端から、今日の始まりを告げるかの様に太陽がゆっくりと姿を現す。


まだ薄暗い早朝の訓練所に、ルイとリグナットの姿があった。


ルイは、やや荒く浅くなった呼吸を落ち着かせるように佇む。

そんなルイの披露の度合いを探る様にしていたリグナットは口を開いた。


「坊っちゃん、次で本当に最後ですよ。あまり根を詰め過ぎるのもよろしくない」

「リグさんが、坊っちゃんって呼ぶのを止めてくれるなら考えます」

「最後ですからね」


念を押す様に語気は強めたが、返ってきたのはルイの笑顔のみ。

これ以上は時間の無駄とあきらめリグナットは、

訓練所内に所狭しと配置された木人椿(もくじんとう)の群れの周囲に、

使い物にならなくなった槍や剣などを乱雑に突き刺して行く。


シュナイゼル、セリーヌの身に危険が迫っている事を知り、

ルイがその護衛を師たちから命じられた翌日から今日までの3週間足らずの間、

2人は深夜から早朝にかけて訓練を続けていた。


「さて準備できやした。

 しつこいようですけど今日はこれで最後ですよ、"坊っちゃん"」

「・・・早く離れないと巻き込むよ」


"おお、怖い怖い"とおどけて木人椿(もくじんとう)から距離をとったリグナットを視認する。

そして、一度足下で"蠢く影"に視線を落とした。


「・・・百舌(もず)"黒鎖(こくさ)"」


呟くように零れたルイの声に呼応し、影が躍動する。

現れるのは、数条の鎖。


そうリズィクル、ルーファスとの訓練時に突然顕現した、あの"黒い鎖"。


ルイが持つ特異(ユニーク)能力、影隷(-シャドウ・スレイブ-)。

その全容すべてを把握出来ている訳ではない。

だが、ルーファスとリズィクルによって1つだけはっきりとわかっている事がある。


―― この能力は魔力の消費しない。


範囲拡大が可能な影から突き上げる様な黒き剣林。

発動範囲こそルイの足下に限定されるが、この黒い鎖。


これは魔力総量が他者よりも少ないルイが、継続戦闘をする上で大きな武器になる。


「17、18、19・・・12本前後の展開は恐ろしく円滑になったもんだぁ。」


ルイが形成して行く黒鎖の数、展開時間を観察して報告書にまとめる。


訓練開始時は、暴走、暴走、また暴走。

当然、訓練の初期段階は、ルーファス、またはリズィクルが同行していたため、

事故は起こらなかったが、黒い鎖の濁流が襲いかかってきた時は肝が冷えた。


「坊っちゃんっ!訓練ではいいですけど鉄火場では10から12程度に留めないと、

 展開時間がかかりすぎですよっ!」


20を超えてもまだ展開継続するルイに見かねたリグナット。


「30くらい、使えた方がいいと思う」

「ルーファスの旦那からは、理想は10前後。

 即時展開、あとは精度。って言われてるはずですが」

「むぅ、今回は諦めます」


不服そうに頬を膨らませてはいたが、指示通り数本の鎖を消失させる。


「(…どう数えても15本あるのは気のせいだろうか)

 旦那がいる時は大人しく10本にするように」

「ありがとっ!」

「お礼は結果で頼みます」



リグナットの言葉にルイは頷きで応え、

木人椿(もくじんとう)の群れに向きなおり、大きく息を吐き出した。


刹那。

弛緩した表情が消え、身に纏う空気が変わる。


リグナットは息を呑む。


足音どころか予備動作すらない加速。

20歩程の距離を一気に縮め、木人椿(もくじんとう)の群れの中央に黒い旋風が舞った。


木人椿(もくじんとう)の隙間を縫う様に鎖は走る。

時折、ルイの姿が消え、そしてまた現れ景色に溶けて行く。


「百舌」


その小さな声と共に、木人椿(もくじんとう)の群れは黒き剣林に呑み込まれ静寂が訪れた。


「…最短記録っと。」


黒き剣林が発動したところで、訓練は終えた。


ルイへ課された特異(ユニーク)能力の習熟訓練。


その目的は三つ。

ひとつ、鎖の展開時間の短縮。

ふたつ、鎖による攻撃の精度向上。

みっつ、鎖操作から剣林操作への円滑な切り替え。


特に重要視されたのは"ふたつ目"。

そのため、リグナットが準備した様に50程の剣、槍が乱雑に配し的とした。

それらを"黒鎖のみ"で排除。

最後に木人椿(もくじんとう)に"ルイ自身、そして鎖が触れてはならない"。


「ん?」


いつもならば、黒い剣林はすぐ解除されるはずなのだが、

解除される様子が感じられない。

不思議に思い剣林に近づくと中からルイの声が聞こえた。


「リグナットさんっ!見て見てっ!はやくっ!」


リグナットの正面のみ解除され、黒い粒子になり剣林は霧散する。

隙間からは笑顔でルイが手招きをしていた。


促されるままに、ルイに近づくとルイの周辺にある数体の木人椿(もくじんとう)を指している。


「ふふーん」


ご満悦な様子のルイを微笑ましく感じながら、

指し示された木人椿(もくじんとう)を覗きこむ。


「ギリギリのところで止まってるよね?当たってないよね?」


その言葉通り、剣林は木人椿(もくじんとう)に傷1つつけていない。

だが、驚愕するのはそんな事ではない。


人に見立てた木人椿(もくじんとう)の喉にあたる部分、更にその上部。

恐らく眼球の高さに当たるであろう場所。


そこに添えられた黒い先端は、ルイの言葉通り"ギリギリのところ"で静止していた。


「ほら、他のもちゃんと見てっ」


驚愕し呆けていたリグナットの耳に、そんなルイの言葉が飛び込む。

その言葉が何を意味するか、

途端に理解した彼は周囲に広がる他の木人椿(もくじんとう)にも目を向ける。


手近なところにあった10数体の確認を終えたところで辛うじて声を発する。


「坊っちゃん、全部"こう"されたので?」

「ううん、二体くらいはかすっちゃった」


残念そうにルイは口にする。


50体程はある木人椿(もくじんとう)をリグナットは見回し、再び閉口した。


「もうちょっとで、なんか出来そうなのに」


小さな拳を握りしめ決意表明をするルイの言葉は、

もうリグナットの耳には届いていなかった。




■■■■




リグナットとの訓練を終えたルイは、

リズィクルと共に領主館へ向かう馬車に揺られていた。


半刻に満たない程度の時間ではあるが、

近接戦闘を好んで使用する発動の早い魔法の詠唱文や効果などを丁寧に師事している。


「火・水・風・土からなる基本属性の詠唱文は問題なさそうじゃな」

「はい、でも基本属性の魔術回路(サーキット)の数が多くて」


眉根を顰めたルイは指先に魔力を込めて、すらすらと魔術回路(サーキット)を書きあげる。


美しく書きあげられて行く幾何学模様。

汲み込まれてている言語は、魔族(アスモディアン)が魔術使用時に好んで使用する魔言(コード)

当然、リズィクルがルイに伝えた言語はそれだけではない。

その他にも武具などに能力付与するのに用いられる聖刻言(ヒエログリフ)

霊言(ルーン)精言(ピクト)に至ってはリズィクルすら使う者は稀だと言い放つ物まで多岐に渡る。


描いては消し、描いては消す。

様々な言語、幾何学模様を用いて魔術回路(サーキット)を組み上げるルイの様子を、

リズィクルは満足気な表情で見守っていた。


「"圧縮"に"回転"、"強化"、"燃焼"・・・キリが無いです。」


そう言って悔しげな顔で俯くルイに、リズィクルは言いかけた言葉を飲み込む。

それを誤魔化すようにルイの髪を優しく撫でつける。


――  基本属性とは言え、ここまで出来る者などそういない。


そう伝える事は簡単。

実際、手放しで褒めても良い。


リズィクルは本心でそう思っている。

だが、このままこの弟子がどこまで行くか見てみたい。


悪戯心にも似た、強い好奇心が容易にルイを称賛する事を拒絶するのだ。


「そんなことより、ルイ。悩んでいた例の課題は解決しそうか?

 (……妾もエドガーにそう強くは物は言えんな)」


露骨に話題を変えたことで小さな罪悪感は感じつつも、

自身がルイにいくつか出した課題の内、唯一未達成のままである事について訪ねた。


「た、多分」


ルイにしては珍しく歯切れの悪い回答。

リズィクルの手が思わず止まった。


叱られるとでも思ったのか、ルイは悲壮感を漂わせて俯く。

リズィクルがルイに出した課題は、先述した詠唱文、魔術回路(サーキット)の認識の向上。

次に魔力障壁、護衛と言う立場上、範囲の拡大、展開速度、多重展開の安定。

継続戦闘が想定されるため、魔力総量に不安が残るルイには発現(コール)の習熟も課せられた。

内容としては、遮音性にすぐれ発光もしないと言った側面で"土、風"。

これらは、近接戦闘の最中での発動、また牽制時のために連射性能も求めた。


魔力障壁、発現(コール)の課題に関しては訓練開始から一週間程度で評価"秀"。


課題のにはしていなかったが、今では10歩程度の距離であれば魔力障壁の展開可能。

発現(コール)についても、必要に応じて基本属性の"火"、

基本上位の"鉱石、電撃"も巧みに操る様になった。


そして、先ほどルイが見せた詠唱文、魔術回路(サーキット)の認識の向上も伝えてはいないものの、

リズィクルの評価は"秀"である。


「一番容易な課題かと思ったが…意外だな」

「ごめんなさい」


―― 得意な魔法を選択し習熟する。


リズィクルの言葉に偽りはない。

ルイには高い適正の属性(アトリビュート)がいくつかある。

この課題を出す上で、いくつか実際使用して見せもした。


(些か興が乗りすぎて、ルイが若干引くような物も見せはしたが…)


発現(コール)は、その…」


沈黙に耐えきれなかったのか、ルイが口を開いた。


「ああ、すまん。別に怒っていた訳ではない。少し考えごとをしていただけだ。

 そんな顔せずに、ルイが感じた事を話してみるといい。」

発現(コール)はすごく使いやすいんです。百舌とか黒鎖と一緒に使えるし。」


ルイの言葉で、リズィクルは何故ルイがこの課題に苦しんでいるのか理解した。


(特異能力(ユニーク)の弊害というとこか)


ルイの特異能力(ユニーク)は広範囲の面制圧と、複数展開できる鎖による局所的攻撃。

だが、そのどちらも影を媒介にするためどうしても足下からの攻撃に限定される。


だが、発現(コール)であればその欠点を補える。

課題によって牽制としての運用はもちろん、

連射精度も上がっているため、場合によっては制圧射撃も可能だろう。


「下手に詠唱、魔術回路(サーキット)が必要となる物はむしろ邪魔になると言う訳か」

「動き回れる場所とか、隠れなくて良いとかなら、色々思いつくんですけど。

 それに、そもそも僕はあまり魔力が・・・」

「魔力総力か。時間が解決してくれる問題ではあるが、猶予期間の問題と」


リズィクルが口にした結論に、ルイも辿り着いていたのだろう。

その表情からは、強い悔しさが感じられる。


「ルイに否がある訳ではない。むしろ、きちんと考えそこに至り、

 それでもなお、どうにかしようとする姿に、師として誇らしくもある。

 残された時間は多くはないが、妾もともに知恵を絞ろう」


リズィクルの言い回しはやや難解ではあったが、

褒められていると言うのはわかったのだろう、強く頷いて見せた。


(この課題に関しては、出題者のである妾の過失だな。

ルイには些か申し訳の無いことをしたかもしれん)


やや苦い思いを噛みしめながら、

ぶつぶつと何かないかと呟くルイを見ていてふと気付く。


「ルイ、先ほど妾が課題はどうしたと聞いた時に"多分"と口にしたな」

「はい。でも、ちょっと無理かなぁって」

「ともに知恵を絞ろうと言うたではないか、聞かせてみよ」

「・・・怒らないですか」

「怒らせるような提案か」

「先生と先輩は笑ってくれる気がするんですが・・・教授とレオンさんは怒る気が」


マサルとルーファスが喜びそうな提案。

かつ自身とレオンは叱責する可能性がある。


悪い予感しかしないが、自分から言うように仕向けた手前、

言わせた上に叱りつける訳にもいかない。


「はぁ…突然突飛な事をしでかすからのぉ、ルイは。

 勝手に行動にうつして危ない事をしおったら叱りつけるが、

 課題に対して、ルイが苦心して出した案ならば、叱るまいと約束しよう。」


そんなリズィクルの言葉を受け、

まるで"言質はとったぞ"とでも言いだしそうな顔をしたルイは嬉々として話だした。


案の定、ルイが口にした"それ"は、リズィクルに否決された。


叱られないように、予防線を張っていたルイではあったが、

心のどこかで"もしかしたら"と言う気持ちがあったのか、

無碍に否決されたあと、

領主館まで短い道のりではあったが少し悲しげな表情を浮かべた。


「そう言えば、エドガーの名はあがらんかったが、叱られると思ったのか?」


なんの気なしにそう口にしたリズィクルだったが、

悲哀の表情から一変、少しだけ邪悪さを滲ませる笑みを浮かべたルイに気づき、

そのことからルイの考えを察したリズィクルは釘を刺すよう言葉を続けた。


「・・・エドガーとの模擬戦で使うと言うのも当然だが認めぬぞ。」


―― ピキッ


とでも音がなったかのように、身体と笑みを硬直させたルイに、

リズィクルは少し可笑しくなって笑い声を漏らした。


リグナット「そそそそそそそそそそそ

ルイ「そそそそそそそそそそそ

作者「ccccccccccccccccc


リズィクル「やめい

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