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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-告げられる任務、改めて問われる覚悟。-⑧


「そんなっ!」

「あはははっ、きちんと最後まで話を聞くようにね。」


信じられない事を"提案"だと言い、口にするマサルの言葉にルイは堪らず声をあげる。

顔色を青く染め上げ悲鳴に近い声をあげたルイに、

笑みを絶やすことなくマサルはそう口にすると、

淡々と"提案"と言う名の"指示"をして行った。


救いを求めるように、レオン、ルーファス、リズィクル、そしてエドガーへと、

視線を向けるも、皆一様に腕を組みマサルの言葉に耳をむけている。


ルイが抗議の声をあげたのはこれで数えるところ、3度目だった。

その都度、やんわりと制しルイに化学や科学、歴史や算術、

はたまた戦術などを師事するかのように、

要点や注意事項をボードに書き連ねて行くマサルの姿にルイは恐怖すら感じ初めていた。


「長々と説明したけど、

 要するにルイ君に"シュナイゼルとセリーヌ"を守ってもらいたいんだ。」


マサルは以前オルトックに対し説明したジュリアス、シュナイゼル両派閥。

そして、近く起こるであろう内乱についてルイにわかるように噛み砕いて説明し、

そう締めくくった。


"シュナイゼルとセリーヌを守る。"

王太子であるジュリアスの弟と妹であるシュナイゼルとセリーヌの護衛しろ。

当然、幼いと言えどルイも容易ではない事は想像できる。

だが、それはただ側付きをしていればいいと言うものではない。


先ほどクロエに剣をつきつけた貴族とその私兵。

あれと同様の規模であるなら、ルイも思い煩う事はない。


自分にとっては初めて出来た友人。

あの優しい2人に危害が及ぶ。


それを振り払う手伝いが出来るというのであれば、当然否はない。


「・・・どれくらいの人たちが、お2人を?」

「んー、王都から秘密裏にここへ送り出せる程度だから・・・500は無理だろうね。

 どれくらいが妥当かな?」

「500も動かすとあからさまっすからねー、100ないし200を王都から、

 残りは適当に傭兵や汚れ仕事を請け負う輩を集めるってとこっすか?」

「それも当然、口の堅い組織しか使えんだろうな。最大で300。

 まずこれを超える事はないだろうな。」


なんとか口にした疑問をマサル、ルーファス、レオンが答える。


「末端の者たちに至っては、自分たちが危害をくわえる者たちがどんな立場かすら、

 教えられる事ないであろうな。当然、その分危険が増える。」


リズィクルが口にした内容を完璧に理解できた訳ではなかったが、

"王族とわかって加担する者たち"が2人に接触するよりも、

"2人が何者かわからず加担する者たち"に接触される方がまずいのはわかる。


そして、更に絶望的な300と言う数字。


ルイは冒険者ギルドの混雑時の人数をも、軽く凌駕するその数に慄く。


「そんな数の人たちから、お二人を…。」


2人を背後に置き、魔法で制圧。

無理だ、自分の魔力量ではうまくことが運んだとしてもたかだか20人程度行動不能に追い込んだところで枯渇して意識を失う。

それならば、鋼糸で罠を張りめぐらし…。

いつ襲ってくるともわからない相手をどう罠のある場所へ誘導したらいい。

精一杯自分の手札で対応出来ないものかと、小さな脳をフル稼働させて行く。


だが、どれだけ考えたところで効果的な対応策など浮かぶ訳もない。


それは至極当然。


類まれな才能を持つとは言え、ルイはまだ六歳の子供。

武器を手に大立ち回りを演じたところで、体力は大人のそれに適う訳もない。


思考の海へ、沈痛な面持ちで繰り出したルイの様子を五人はただ黙って見守っていた。


「やはり妾は反対だ。」


沈黙を破り、リズィクルは口を開く。

そして、ルイの肩に手をそっとのせてルイの顔をじっと見つめ、ゆっくりと問うた。


「だが、それでも…その上でだ。ルイ、お前はどうしたい?」

「お2人の身が危ないと聞いて、知らないふりはしたくありません。」


そう。

できるのであれば、ルイは2人を救いたい。


その答えを聞き、リズィクルは少しだけ困った表情を浮かべ、小さく嘆息する。


「猶予は・・・そうさな。一カ月程度といったところだ。

 マサルがハンニバルにいる間は、表だって動けるはずもないからな。

 その期間内でルイには不可能だと妾が判断した場合は、お前たちにも否は言わせんぞ。」


エドガー、レオン、マサル、ルーファス。

それぞれに、口にした通り反論は許さないと視線を強める。


「悪いが、結果如何ではリズィクルが容認しても、俺が許可しない。

 その時も同様に廃案とさせてもらう。」

「あら、レオっちは消極的賛成だと思ってたんすけど。」

「その通りだ。消極的賛成だからこその言葉だと受け取ってくれ。」

「なるほど。・・・じゃあ俺っちもそれで。可愛い後輩ちゃんだけじゃない。

 あの子たちの命を賭けてまでやるもんじゃないっすからね。」


レオンの言葉にルーファスが同調し、リズィクルは小さく頷きエドガー、

そして発案者であるマサルに視線を向けた。


「おい、馬鹿弟子。」

「はい。」

「中途半端に首突っ込むなら辞退しろ。」


目を細め、射抜くようにそう口にしたエドガーの固い声が室内に響いた。


静寂と師たちの視線を感じながらルイは大きく息を吸う。


自分にかけられた言い回し。

それ自体は、いつものそれとは変わらない挑発的な言葉。

だが、いつものそれと明らかに違うその目を見つめ返す。


期限、いやこの場合は猶予。

わずか一カ月。


2人に危害をなそうとする者たちの戦力。

未知数。


その数、300。


それらの事柄よりも、幼いルイの脳裏を埋め尽くす不安材料。


"2人を守りながら、自分は戦えるのだろうか"


脳裏をかすめるのは、オーリを守り切れず伏した思い出。


結果、あれはエドガー、レオンが明確な殺意を持った敵ではなかっただけ。

師である眼前の五人の様な強者がいないなどと言う確証は当然ない。

1人すら守れなかった自分に、2人を守るなどできるのだろうか。


迷い、不安。

呼吸が浅く、荒くなっていくのがわかる。


怖いのだ。


ルイは、初めて自分が恐怖している事を唐突に理解した。


そして、そんな恐怖に溺れかかっているルイをじっと見つめる視線にも気付く。


エドガー・ルクシウス・ワトール。

強く、ひたすら強く、ただただ強い師匠。


いつか超えたい…いや、超えるべき壁。

この男なら、きっと何事もなかったように2人を救うのだろう。


そんな事を考えながらエドガーと視線を合わせていると、

不思議と自分を蝕んでいた恐怖が薄らいだ気がした。


そして、思い出した。

この男が自分になんと言ったか。


―― よく考えて答えろ、ルイ。お前を俺よりもレオンよりも強くしてやる。

   それでいくらでも守りたいもの守ればいい。一緒にくるか?


その手を掴んだ時の気持ちを思い出すと、つい可笑しくなって声が出た。


「…ははっ」

「あ?」


突然、笑い出したから驚いたのか、エドガーは怪訝そうな顔をしている。


「僕は強くなる。"それでいくらでも守りたいものは守ればいい"。」


しっかりとエドガーを見つめてそう口にした。

刹那の間、呆気にとられたような顔をしたエドガーが、獰猛な笑みを讃える。


「かかっ、ちゃんとわかってんじゃねーかっ!

 でかい口叩いたんだ、あとで泣きごと言うじゃねーぞ馬鹿弟子。」

「ボケたんですか、アホ師匠?泣きごとなんて言った事ないですけど。」

「はっ、言ってろ糞弟子。」


いつも通りの軽口の応酬。

先ほどまで、心を埋め尽くしていた恐怖はどこにも見当たらない。

ルイは気付いたのだ。


―― 中途半端に首突っ込むなら辞退しろ。


それは、激励。

不器用な師弟の間でしか伝わらない言葉足らずの激励。


(師匠は、出来ない事をやれとは絶対言わない。)


当然そんな事をわざわざルイもエドガーに伝えたりはしない。

そして、それはエドガーもそう。

伝えたい事が正しく伝わったのであれば、あえて言葉にする必要などない。


「あははっ、妬いちゃうなー、なかなかないよ?そんなやり取りで通じあうなんて。」


可笑しげに笑うマサルに、レオンとルーファスも笑みを浮かべて頷き。

リズィクルは少しだけムッとした表情を浮かべルイとエドガーを交互に見やる。

少しだけ気まずいルイは顔を伏せ、エドガーは苦虫を潰した様な顔をした。


「まあ、期限いっぱいまでやって見て無理そうなら別の手段。

 って言うのは僕にも否はない。ただそうなると何度となく同程度のリスクが、

 2人に降りかかり続ける。当然ジュリアスも危ない。」


弛緩した空気を締め直すように、マサルは皆の顔を一瞥した。

ルイはともかく、皆はその言葉の意味を正しく理解しているため頷き返す。

その様子を見たマサルは、ルイ優しく声をかけた。


「今回、仮に僕らが手を回し2人を救う。これ自体は簡単なんだ。

 でもそれは、ただの問題を先延ばしにするだけなんだ。

 例えばルイ君、君が悪いやつらだとして僕らに計画を潰されたらどうする?」

「師匠たちを相手にするだけ無駄な気がします。」

「あはは、評価が高いのは嬉しいけど。それじゃあ答えにならないよ。」

「んー。」


ルイにしてみれば本心から口にした答えだったのだが、

やんわりと再考するよう仕向けられ、腕を組んで考えてみる。

その様子を黙って見ていたレオンが、ひとつアドバイスをくれた。


「ルイ、現状どやってもお前はまだエドガーには勝てない。

 だが、お前はどうしてもやらなければならない事がある。

 そのやりたい事は、決してエドガーを斃さなければ達成出来ないものではない。

 一度失敗したお前はどう考える?」

「倒さなくていいなら、師匠との戦いは避けて…。あっ。」


レオンのアドバイスが呼び水となり、ルイの表情に理解の色が灯る。

そんなルイの様子に満足そうにマサルは笑みを浮かべ手を叩いた。


「うんうん、わかったようだね。悪い事を企んでるやつらはきっとこう思う。

 あいつらが関われないようにもっと慎重に……。今度はもっとばれないように。」


端から警戒の対象であるマサル達が火消しに動けば動くほど、水面下に潜るだろう。

それはマサルが今回誘発したシュナイゼル擁立派に限らず、

オーカスタン王国内でクーデターを画策するジュリアス擁立派にも言える事だ。


己の利益追求に貪欲な貴族。

そう言った手合いは往々にして臆病かつ警戒心が強い。

企みが失敗すればするほど、その手段は狡猾になるだろう。

いや、"より狡猾になるだけ"ならばマサルは然程気に止めない。


「でもね、本当に厄介なのは、打算も採算にも目をくれず暴挙に走られる事。

 これは何が何でもご遠慮願いたいんだよ。」


そう忌々しげに呟いたマサルの言葉は、些かルイには内容が難しかったのか、

眉根をひそめ、理解しようと必死な表情を浮かべる。


そんな様子に気づいたエドガーは嘆息しつつ、マサルをひと睨みし口を開いた。


「さっきクロエに剣つきつけた馬鹿を思い出せ。貴族って生き物の大半は、

 なんでもかんでも思い通りに事が運ぶと素で勘違いしてるアホばっかだ。

 その癖プライドは人よりバカみたいにでけー。」

「そんなアホ貴族たちをどんどん追い詰めるとこうなるんす。

 "こんなはずじゃなかったっ!恥をかかせたあいつらめ許さんっ!

 どんなことをしても後悔させてやる~ぅ"ってね。」


エドガーとルーファスが噛み砕いてくれたおかげで理解は出来たものの、

それのどこに問題があるのかルイはわからない。


「ただでさえバカが策もなしでなにが出来るんですか?」

「なにをしてくるかわからないのが、怖ぇんだよ。

 マサルにやりかえしてぇっ!でも、なにしても勝てねぇっ!

 "もうどうでもいい、王都に火でも放つか"ってなるかもしんねーし。

 "ああ、シュナイゼルとセリーヌどちらかが死ねばいいから建物に火を放つか"とかな。」


あげてきゃキリが無い。と最後に付け加えて、エドガーはわかったか?と口にする。


「…シュナイゼル様を新しい王様にして、お金儲けしたい間は殺さないけど、

 それもどうでも良くなったらって殺してもかまわないってなるんですか?」


自分なりに咀嚼し理解した内容を口にしたルイの頭をリズィクルは優しく撫でて、

"それだけではないが、そういうことだ"と頷いた。


「じゃあ、想定出来る範囲の対処方法なんかは僕が受けもとうかな。

 内容が内容だから、ルーファスと一緒が好ましいね。」

「合間合間で俺っちが教えたい事の時間作ってくれるならいいっすよー。」

「屋外…いや、屋内戦闘も考慮せねばならんな。潜入もあり得るとなるとあまり大仰な魔法も術式も現実的ではないな。ふむ、ルイの魔力量を考えると威力より手数優先と言ったところか。」

「そうなるとリズも俺っちとマサルに混ざった方が効率いいんじゃないっすか?」

「ふむ、3人分の修練の時間を使えるとなると予定も立てやすい…か。

 良かろう妾も混ぜてもらう事にする。」


シュナイゼル、セリーヌ両名の護衛をルイに委ねる事も決まり、

期限までの残されたわずかな時間をどう活かすか、

唐突にルイの訓練メニューの精査がはじまった。


想像されうる事態への対応能力の向上と銘打ち、

マサル、ルーファス、リズィクルは合同で望むことをいち早く決め予定を組み始める。


エドガーとレオンもまた、真剣な面持ちでこの限られた期間内で、

いかに効率良くルイを導くかを熟慮していた。


「前提が護衛メインか。屋敷内、下手すりゃもっと狭いとこでの戦闘もあるな。

 そうなるとだ……大剣、槍はパス。短剣と無手か。ちっ、翁がいりゃなぁ…。」

「気持ちはわかるが、いない者の話をしても仕方ないだろうに。

 目を離せば武器も持たずに殴り合ってるんだ。さして影響はないだろ。」

「変な癖つけたくねーんだよ。…ってもしかたねーか。」

「今は諦めろ。そのうち翁もルイを見てくれるだろう。

 俺はルイの装備をどうしたものか。」

「…ガキのうちから、無駄に良い物持たせるなよ。」

「言われなくてもわかっている。その匙加減で頭を悩ませているんだ。」


若干置いてけぼりにされた感はいなめなくもあるが、

自分の成長のために、真剣な面持ちで喧々諤々と意見を交換する彼らを見て、

その期待に応えようとルイは改めて覚悟を決める。


ルイの生い立ちを聞き、それをまるで自分たちの事のように涙してくれた2人。


「300人が相手だろうが負けない。僕が指一本触れさせない。」


決意の言葉が自然とルイの口から零れた。


「いやいや、まてまて。待てって。」

「あははははっ」

「ま、まじっすか?」

「ふ、ふふっ。まさか全部相手どるつもりだったとはな。」


ルイの決意表明の言葉に反応したエドガーは呆れ、

マサルはただただ笑い、ルーファスは驚き、リズィクルも思わず噴き出した。


そんな反応に戸惑うルイの肩に手をのせたレオンは困ったやつだとこぼし口を開く。


「俺たちはなにもお前1人で300人を相手にしろなんて言ってはいないんだぞ?」

「え…。」


後日、作戦内容を改めて理解し撃沈したルイを、

からかい過ぎたエドガーがレオンの鉄拳にて沈んだ。


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