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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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2章-告げられる任務、改めて問われる覚悟。-⑦

ご無沙汰しておりまふ。

イジート子爵一向が引き起こした暴挙。

いつもの様に容易に処理できるとルイは考えていた。


どういう訳か、高圧的な態度とその身を包む衣服や装備は立派なものだが、

武器を抜いてたところで隙しか見当たらない。


こういった相手は足を壊すか、隙を突き弛緩した腹部を強打する。

武器を手にして誤って殺してしまうのはまずい。


そう、ギルドで声を張り上げ暴れるただの荒くれ者や、

力の誇示を勘違いしている者の対処と一緒で良かったはずだ。


ただ、結果。

自身を庇い怪我を負ったナルシャが静かに寝息をたて眠っている。


「……ルイ。自分を責める必要なんてないんだよ?」


小さな身体をいまだ怒りに震わせているルイに、

治療を終えたリルネッサはそっと肩に手を当て口を開く。

同様に、いつもの軽快さは鳴りを潜め沈痛さを漂わせるクロエもまた、

ルイにどう声をかけていいかわからず困惑していた。


いつまでも続く沈黙。

その中でルイは何度も先の状況を頭の中で反芻する。


(…剣を抜く動作の段階で制圧するべきだった。

それに最後…僕はナルシャさんの動きに気づいてたんだ。)


意図的に背後を晒したルイは、確かに誰かが接近してくる気配は察知していた。

ただその気配の持ち主が"身を呈して割って入る"とは考えなかったのだ。


実際、現場を目撃していた冒険者達のほとんどが、

ナルシェがいらぬ横槍をいれたと感じている。


訓練所にて共に汗を流した者たちはもちろん、

ルイとの関係が希薄な者たちも子供ながらに妙に場馴れし、

油断なく相手の動きに呼応している姿を見て、

ルイに危険が及ぶとは考えなかった者が圧倒的多数。


「……鋼糸を使えば。そもそも背後なんて盗らせないで……。」


唇から血を滲ませ、身を震わせるルイから何度目かの後悔の言葉が漏れる。

その痛ましい姿にクロエとリルネッサは何も言葉をかける事が出来ない。


――トントン


「入るぞ。……なんともまぁ、酷いツラをしておるのぉ。」


リズィクルは、部屋に入るなり然う然うルイの前にしゃがみ込み顔を覗きこむ。

ルイはリズィクルの存在に気がつくと今まで纏っていた怒気を霧散させ、

泣きだしそうな表情を浮かべた。


「妾からは何も言わん。叱責は十分にエドからされたじゃろ?

 反省するなとはもちろん言うつもりはないが、

 ここでじっと悶々としていたところで何も好転せん。」


言下に"わかるだろ?"と付け加えたリズィクルの言葉に、

反応は薄いもののルイは静かに首を振り肯定した。


「さて、そのお嬢さんは問題ないのだな?」

「うん、問題ない。もともとあの程度の攻撃で、

 どうにかなるほど彼女の種族値(-ステータス-)は低くない。」

「傷口も凄く浅いから、跡も残らないわ。ただ剣が浅く入ったせいで、

 裂傷の範囲が広くなってちょっと派手に出血しちゃっただけね。」


診断結果を聞いたリズィクルは再度ナルシャの様子を窺う。

ゆっくりと魔力を繰り、異常がないか確認する。


彼女たちの処置、診断に当然疑いなど端から持ってはいないが、

あの賊どもが刃物に毒や呪いの類をかけている場合、

可愛い弟子が更に自責の念に縛りつけられてしまう。


(杞憂に終わり良かったとしよう。)


疑わしい魔力などの存在はない。

リズィクルは魔力を霧散させ、再度ルイに向き直る。


「さて、先も言ったがここにじっとしていてもなんにもならん。

 他の者たちもあの馬鹿どもの処理を終えて執務室に集まっているだろう。

 ここは、2人に任せて、ついてまいれ。」


逡巡してふと瞳を揺らしはしたものの、クロエとリルネッサ。

そして、ナルシャへ視線をやり席を立った。


「クロエさん、リルネッサさん。ナルシャさんをお願いします。」

「大丈夫。」

「おねーさんに、任せときなさいっ」


ルイの纏っていた空気が変わり、張り詰めた表情も霧散する。


その様子にホッとした2人は殊更、明るく努めてそう口にした。


「ほら、早くしろ。師である妾に扉の番をさせるなどもっての他じゃぞ。」

「っ、ごめんなさい。」


リズィクルの言葉に慌てて扉に駆け寄るルイの耳には、

"軽口をわざわざ重く受け止めるでない"とこぼした声は届かなかった。


執務室へ向かう中、ルイの雰囲気に些かまだ影が差してはいるものの、

医務室に赴いた際に重く絡みつく様な陰鬱さはない。

その様子にリズィクルは内心ほっとしていた。


「ルイ、そのまま歩みを止めずに妾の言葉に耳を貸してくれるか。」

「……はい。」


小言でも言われると思ったのか、

少し強張りを見せるルイの肩にそっと手を当てる。


「ふふっ、小言や説教の類ではない。そう身構えんでもいい。」

「あはは…。」


考えが読まれた上に、その事でリズィクル笑われたと顔を少し赤らめ、

気まずさを誤魔化すようにルイは苦笑いを浮かべる。


「なに単純な話だ。妾が先ほどのような悪漢に囲まれ鎮圧するとしよう。」

「…。」

「説教ではないと言うておる。妾の言葉を聞き想像だけしろ。

 ルイは…そうさな、ナルシャがいた位置にいるとしよう。」


念を押すように言われ、ルイは頷き。

そして、リズィクルの言葉の通り想像する。


脳内で自分がいた場所にリズィクルを。

ナルシャがいた場所に己を位置する。


「そうじゃそうじゃ、大事な仮定を忘れておった。

 ルイは妾がどれほどの実力かは知らない。

 ここまではいいな?」


ルイが同意の意を示したのを確認して、リズィクルは言葉を重ねて行く。


「妾は当然、あの程度の者どもに遅れはとらん。

 ただ、何も知らないルイから見れば"ただ因縁をつけられている女性"だ。」

「はい。」

「当然、ルイは助けに入ろうとする。

 ルイならば咄嗟のこととは言えあの程度の者たちならば手傷なぞ負わん。」


ルイは再び頷く。


自分より実力が遥かに上回るリズィクルに、自身の助力が必要かの是非はともかく、

あの場で、ナルシャがいた場所に自分が位置どったとして、

自身の背後に回り込んだ私兵の体勢が整う前に、制圧は容易。

それ以前に、大剣で横薙を払った直後、硬直した私兵たちすらも一掃できるだろう。


「……ただ、ここで先に提示した"大事な仮定"だ。」


そう言ってリズィクルは足を止めて、ルイを見つめる。


「妾の力量をルイは知らないと前提する。

 思いの外軽く悪漢どもを蹴散らす妾を見て、

 ルイはすぐさま援護を選択するだろうか?」

「しないと思います。」

「なぜじゃ。」


ルイの返答にかぶせるように、更に問う。


「……実力を知らない僕でも、動きを見れば教授の力量が自分より高い事はすぐ気付けると思います。それに僕ですら容易に相手出来そうな相手。

 手出しする方が迷惑になるときっと考えます。」

「そうじゃな、妾がルイの大立ち回りを見学していたとしても手は出さん。

 ルイの動きを一目でも見れば、あの程度の小物ども相手に遅れをとるとも思わん。

 故に傍観。実際、現場を見てた連中はお祭り騒ぎだったようだしの。」


ここまで伝えられれば、ルイにだってリズィクルの言わんとする事はわかる。


あの子爵にクロエが剣をむけられた時、たまたまルイは側にいた。

それが、自分が近くにいない時。

自分ではない誰かが、その行動を叱責し暴挙を止めている。


手合わせした事も無ければ、面識がないその人物が軽々と相手どっていたら、

無為に手を出したりしない。


手を出す事で、予測不能な状況に陥り、好転するどころか迷惑にすらなりかねない。


実際、さきほどの騒ぎを目撃した者たちのほとんどがこう思っているのだろう。


"あの女は勝手に飛び込んで、勝手に負傷した。"


「彼女の判断、行動の全てが害悪とは言わん。ただ間違いなく悪手ではあったがな。」


"わかるだろ?"と再び視線で問われる。


感情では否定したい。

当然だ。


ナルシャはただ、自分を心配して飛び込み楯になろうとしてくれたのだから。


だが、同時にリズィクルが伝えようとしている事を理解できてしまう。


「あえて、ルイに訓示を与えるとすれば……余裕など見せるな。」

「んっ?」


おもむろに飛び出した言葉が、自分が考えていたものと遠くかけ離れていたために、

ルイから思わずまぬけな声が漏れた。


「余事を残さず、介入を許さず、徹底的に排せ。…と、そう言っている。

 いらん挑発をする(いとま)があるのなら即座に排除しろ。

 淡々と粛々とその実力を示せ。楯にならねばなどと周囲に思わせる隙を作るな。

 それが出来ぬ実力ならば、もっと強くなればいい。簡単であろう?」


最後の一言を口にしたリズィクルは語気を緩めて、

悪戯が成功したとでも言わんばかりに、笑みを湛えていた。


そんなリズィクルの笑顔につられ、ルイもその相貌を緩める。


「ふふっ、だいたいお前があまり気に病むとナルシャと言ったか?

 いらぬ事をしたのは彼女自身が今一番痛感しているはずぞ?

 "心配かけてごめんなさい、でもありがとう"と笑って言ってやれ。

 そこまで気がついてこその良き男子(おのこ)。」

「はいっ」


ルイの表情に未だまとわりついていた曇りが霧散したのを満足そうに目を細め、

リズィクルは歩みを早める。


ルイはそんな彼女の背中に、置いていかれぬよう歩を早めた。


ギルドの受付カウンターは、先ほどの騒動などまるでなかったように、

いつものように依頼を終えた冒険者や、

素材の買い取りを求める冒険者たちで賑わっている。


酒場に陣取る常連たちの一部が、ルイの存在に気づき、心配そうな視線を送る者も数人見受けられたが、リズィクルの後を追うように軽快に歩くルイの姿に安堵したのか、

満足そうな顔でエールを口に運んでいた。


――コンコン


「入るぞ、ルイを連れてきた。」


扉の向こうからの返事を待つ事なく、

ノックと同時に扉をあけたリズィクルに続いて入室すると、

執務室の大きな机を囲む様に、リズィクルを除いたルイの師たちが座していた。


「リズ、ルイ君を連れてきてくれてありがとう。んー、問題なさそうだね。

 良かったじゃないか、エド。」


どことなくバツの悪そうな顔をしたエドガーに、

若干棘のある言い回しをしたマサルは、隣に座るようルイに促す。

ルイの表情をどこか気にした様子のレオン、ルーファスも探るようにルイを見ていたが、

納得したように数回頷き、エドガーを見やる。


そんな彼らにつられてルイもエドガーに視線をやると、

エドガーは唸り声をあげて、頭を乱雑に掻くと嘆息した。


「はああぁ……おい、馬鹿弟子。」

「はい。」

「さっきはちょっと言い過ぎた。悪かった。」

「は?」


エドガーの投げやりな物言いに、説教の気配を感じたルイは咄嗟に身構えた。

だが、続けて彼の口から飛び出したのは謝罪の言葉。

ルイは思わず聞き返してしまった。


「蟻みてーな非力なお前に、熊の乱入をどうにか処理しろ。

 なんざ土台無理な話だ。

 それをさも、てめーがヘマしたみたいに罵って悪かったって言ってんだよっ。」


最後には声を荒げ乱暴な物言いのエドガーに、ルイは目を細める。


「うわ…エドっち大人気なさすぎてドン引きっす。」

「どっちが大人かわかったもんじゃないね。」


ルーファスの呆れた声に、マサルも少し怒気を込めてエドガーを睨みつけ、

レオンとリズィクルに至っては、

側にいるルイに影響が出るほどの何かを噴き出していた。


「ちっ……言いすぎた事は悪かった。」


旗色が悪いと感じたのか、エドガーは態度を改め再度謝罪を口にする。


「…はぁ、だけどな馬鹿弟子。」


それまでのふざけた気配を霧散させ、睨みつける様にエドガーは言葉を続ける。


「他の連中はともかく。俺は、お前に否が全くないとは思ってねー。」


自分が取った行動の全てが最善だったと考えていないルイは居住まいを正して頷く。


「次からは、あの程度の相手は速攻で畳め。」

「はい。」

「状況が悪くなってから、殺す気になんだったら初めから殺す気でやれ。」


そんなエドガーの言葉に、レオンが口を開き掛けるがマサルが制す。

ルーファスとリズィクルは口を挟む事なくエドガーとルイのやりとりを見守っていた。


「ナルシャだっけか?あいつは馬鹿弟子の力量を見誤って自爆した。

 騒ぎを見ていた者、ナルシャの班隊(パーティ)のやつらも同意見だ。」

「…。」

「…僕が国王だと認識した上で直訴までしてきたんだよ。」


"自爆"と言う言葉に一瞬、苛立つルイをなだめるようにマサルが口添える。


「…んで、そのナルシャはお前なんか話になんねーくらい能力値(ステータス)が高い。

 リズ、実際軽傷なんだろ?」

「ああ、裂傷も浅い。血は派手に出たろうが跡も残らない。

 念のため、毒や呪いの類も疑ったが痕跡はない。

 治療せずとも自然治癒でも問題なかっただろうと推測する。」


淡々と事実を口にして、リズィクルは口をつぐむ。


「ただ結果として死ななかっただけだ。」


ルイはその言葉に身を強張らせる。


「シュナイゼルなら、シャルロッテなら……わかるな?」

「…っ。」


その言葉が重くのしかかる。

あの2人がナルシャ程の能力値(ステータス)を持っているはずがない。

ナルシャに庇われ、視界に舞った血が鮮明に蘇る。


「しっかり刻みこんどけ。

 状況が悪くなってから、殺す気になんだったら初めから殺す気でやれ。

 それができねーと、お前はお前を許せなくなるぞ。」


しっかりとエドガーの目を見据え、ルイは強く頷いた。

同様に、ルイの意思を確認するように見つめていたエドガー。

迷いのないルイの目に、まんざらでもないと笑みを漏らす。


「そこで、僕からの提案なんだけどね。」


エドガーが放っていた気配が霧散したのを見て取り、マサルは優しげな笑みを讃える。

その笑顔が、彼にとって"楽しい提案"をする前段階である事をまだルイは知らない。







ぼちぼち再開致しまふ。

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