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ちみっこ魔王は呵呵とは笑わない。  作者: おおまか良好
■■2章-ただ守りたいものを、守れるように-■■
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■■2章-告げられる任務、改めて問われる覚悟。-■■⑥

去って行くルイの背中に目をやり、マサルはエドガーに向き直り肩に手を載せた。

ルイの前と言う事もあって、ずっと我慢していたのだろう。

これでもかと言うほどの怒気を垂れ流し、イジートたちを見据えている。


「エドは、ルイ君に求めるハードルが些か高い様な気がするね。」

「…てめぇだって、随分な煽り方してたじゃねぇか。

 馬鹿弟子のやつが、暴れ出すんじゃねーかと、少し冷や冷やしたぞ。」

「あははっ、なるほど。どうやら自覚している以上に、僕も怒っているらしいね。

 どこかで、もう暴れさせてすっきりさせてもいいかなと思っているみたいだ。」


嘲笑を浮かべ、冷たく睥睨するマサルの瞳には普段の柔和さの欠片もない。


そんな2人に睨みつけられて、身動きが取れないほどの緊張を強いられるイジートは、

必死な形相で汗を拭い、現状を打破しようと言葉を探す。


「へっ、陛下っ!ご無沙汰しております。行き違いがございまして…その。

 これ、これはですねっ!」

「…誰が喋って良いと言った?」


辛うじて残っていた笑みすらも、その表情から排しマサルは言葉を遮る。


「陛下の御前だと言うのに、随分と図が高いっすね。」


イジートの後頭部を掴み、ルーファスは容赦なく床に叩きつけた。


痛みのあまりくぐもった声をあげる主人を救おうとでも思ったのか、

ルイにさほど痛めつけられてはいなかった数人の私兵が腰をあげる。


「ああ、動かない方が良いっすよ。気付いてないみたいだから、

 教えてあげるっすけど、俺っちは、ルイほど優しくないっす。

 手足を失くし不便な余生を過ごす羽目になるのが嫌であれば、

 じっと陛下の勅語を待つ事を推奨するっすよ。」


手足の付け根を軽く指し、飄々とした声音でルーファスはそう告げる。


先ほど首に巻かれた鋼糸の記憶が新しい私兵たちは、

慌てて自分たちの身体を確認し、その忠告に従って膝をつき一段と深く頭を下げた。


「不敬罪として、妾が手ずから消し炭にしてやろう思ったのだがな…。

 こんなやつらに同情か?随分つまらん真似してくれるなルーファス。」

「いやいや、ここでそんな物騒な物打ち込まれたら流石に建物が心配っすからね。

 リズの怒りはごもっともっすけど、それは流石に止めとくっす。」


頭は下げたままではあるが、凛とした声の主に視線を送り私兵たちは凍りつく。


そこには、質量すらあるのではないかと誤認する程の魔力を纏い、

常人では到底理解出来ないほど精密に構成された積層型の魔法陣を、

掲げるリズィクルの姿があった。


「これは対象の生肉だけを蝕む拷問用のお気に入りだ。

 妾が建物に被害など出すものか、血ひとつ残すつもりはない。」

「あははっ、だとしてもここでは止めといてもらおうかな。

 あっちの彼らには否などないんだろ?」


そのマサルの言葉に釣られる様に、呆然としてこちらの様子を窺う冒険者達に気づき、

リズィクルは短く嘆息すると、展開していた術式をその場で霧散させる。


恐ろしくも神々しさすらも感じるリズィクルに見惚れていた冒険者達も、

総毛立つほど濃厚な死の気配が霧散した事で、マサルの存在を改めて認識する。


そして一様にして、我に返った冒険者たちは慌てて膝をつき、頭を垂れた。

そんな彼らに、事の成り行きをただ黙って見守っていたレオンは口を開く。


「支部の皆、そう畏まらずに楽にしてくれ。

 …確かに国王陛下を前にして、臣下の礼を取る事は正しい行動だ。

 だが、アレ自身が今それを望んで無い事をわかって欲しい。

 気楽にしろと言うのは難しいだろうがな…。

 そんな事よりも、ルイが迷惑をかけた。本当に済まなかった。」


そう淡々と冒険者たちに語り掛け全員を見渡し、

深々と冒険者たちにレオンは頭を下げる。


「いやっ!ちょっと待って下さい、頭あげてくださいよ統括っ。」

「そうだぜ、だいたい俺らはルイに少しも迷惑かけられてないしよっ!」

「そうだぜっ!あいつらが勝手に騒ぎ起こして、ルイは自分の仕事をしただけだっ!」

「だから、頭をあげてくれよっ!」


慌てて、レオンの近くにいた冒険者たちは困惑の表情で、

レオンに頭を下げる事を止める様に訴える。


当然、彼らもレオンに否があるとは思っていない。

それどころか、ルイにだってそんな物はないのだ。


初めは数人だったルイの擁護を口にする者が呼び水となり、

酒場にいたほとんどの者がルイに否はないと声をあげた。


「あはははっ、ルイは本当にこの支部の皆に愛されてるんだねぇ。

 おっと、レオも言ってたじゃないか。膝をつく必要も頭を下げる必要もない。」


レオンの側まで、やってきたマサルの表情は、先ほどまでとは打って変わり、

いつもの柔和さが戻っていた。


マサルが近づいてきた事に気づいた冒険者が再び膝をつこうとするが、

それをマサル自身が改めてその必要はないと念を押す。


「あいつらはいいのか。」

「リズとルーファスのお陰かな。エドも少し落ち着きを取り戻したみたいだよ。

 それより、僕たちが駆け付けるまでの状況が気になってね。」


マサルの耳元でそう問うたレオンに、

マサルは口早にそう答えて冒険者たちに向き直る。


「それでも"僕たち(ルクシウス)の弟子"が、騒ぎを鎮めるどころか、

 こうして勇敢なハンニバル支部の冒険者諸君の楽しい時間を、

 台無しにしてしまったのは事実だ。

 ルイ君の師として、そして国王として、何も責任を取らない訳には行かない。」


マサルの言葉を真剣な表情で聞く冒険者ひとりひとりの顔を、

ゆっくりと見つめながらマサルは言葉を続ける。


「エドガー、レオン、ルーファス、リズィクル…そして僕。

 "あと2人は所要でいないため"詫びる事が出来ないが、

 まだ時間のある者はゆくまで楽しく飲んでくれ。

 先ほどまでの代金ももちろん、これからの代金もここにいる我々で持とう。

 この程度の事でしか詫びられないが、

 それでこの夜の事は水に流してくれると助かる。どうだろうか?」


「「「「……おおぉぉおっ!」」」」


オーカスタン王国、国王陛下でありグラウス大陸の危機を救った勇者マサルと、

そんな彼を支え続けた英雄ルクシウス達が、酒を振舞ってくれる。

消沈したルイの姿や、国王の御前と言う事でいつもと違う不気味な静まりを見せていた酒場に歓喜の咆哮が爆発した。


「おいおい、って事はルイの師匠ってあの7人って事か?」

「"あと2人はいない"からって言ってたしな…"7人のルクシウス"。」

「どこか底知れなさはあったけどな…これは流石にびびったぜ。」


一気に宴会ムード一色になった冒険者の一部の者は、

マサルが口にした"僕たち(ルクシウス)の弟子"と言う言葉が持つ本当の意味に気づき、

呆然とする者、また驚愕に顔を染め上げる者もいる。


そんな中、ルイと懇意にしている冒険者が数名、

マサルの下に駆けより、目線を落とし目礼する。


「陛下、発言を許可頂けますでしょうか。」

「王都で会うことがある場合は、それで構わないが、

 ハンニバル支部で僕を見かけた時は、その様な許可を取る必要はないよ。

 好きに発言してくれるかな?

 あくまでも只のルイ君の師として扱ってくれると嬉しいよ。」



視界の隅でレオンに駆け寄った女性冒険者達が、

ルイをあまり叱らないでやってくれと、

必死な面持ちで懇願するのを横目に納めながらも、マサルは彼らにそう告げる。


国王陛下に対して直訴するなど、正気の沙汰ではないと思いながらも、

なんとか緊張で声が震えない様、努めて許可を求めた冒険者。


食事時もルイと軽口を叩き合っていたモセロは、

マサルが笑顔で応じてくれた事に安堵し深く息を吐き出す。


「はいっ!こんな無礼な申し出を許して頂きありがとうございます!

 ええっと…呼び方は流石に陛下で勘弁して頂いても?」


モセロの問いに、マサルは笑顔のまま大きく頷く。


「師である陛下なら、存じてらっしゃるかもしれませんが…。

 あいつ…えっとルイは、ここのマスコットみたいなもんで…。

 ここの支部を本拠地にしてる俺たち冒険者を良く心配してくれるんですよ。」

「そうか…そうだね、自分の事よりも他者を優先するところがあるね。」


たどたどしい進言ではあるが、マサルはしっかりと頷き話に耳を傾け続ける。


ここまで身分の違う相手にどの様に、自分の意見を伝えれば良いかなど、

これまで考えてこなかったモセロのその精一杯さは、マサルにも十分に伝わっていた。


「そうなんすっ!なんつーか、俺が大怪我した時もすげぇ狼狽して、

 顔なんか真っ青になっちまって、終いには泣きだす始末で…。

 だから…あのこんな事言うのはおこがましいのは重々承知しているんですけど、

 こんな安い頭で申し訳ないんですが、

 なんとか説教はお手柔らかに願えないでしょうかっ!この通りですっ!」


最後に強く訴えかける様に語気を強めて頭を下げるモセロ。


途中から、マサルに対してそんなモセロが話していた内容が、

聞こえていた一部の冒険者達も、座席から立ち上がり、モセロに倣って頭を下げた。


そんな異様な雰囲気に気がついたのか、レオンに直訴していた女性冒険者の一行が、

マサルの下に駆けつけ、側に来るや否や頭を下げる。


「陛下、私たちからもお願いします。ルイ君に寛大な処置を…。

 先ほどの件で怪我した冒険者は私達の班隊(パーティ)の1人なんです。」

「彼女の…そうなのか、悪い事をしたね。」

「そうではないんですっ!」


マサルが謝罪を口にしようとしたところで、カチェスが声を荒げた。


「あの馬鹿が出しゃばるまで、ルイ君が1人で私兵達を圧倒していたんです。

 そんなところに勝手に加勢に入って自爆しただけなんですっ!

 だから、今回の事でルイ君が責められるなんて事になったら…。」

「おや…なかなか興味深い話だね。」


そこに跋の悪そうな顔をした別の冒険者が、頬を掻きながら口を挟む。


「そこのお嬢ちゃん達は、以前にルイのやつに人攫いから助けてもらった事が、

 あったらしいんですよ。だけど、長い間遠征に出てたせいか、

 ルイの実力を見誤ってたみたいでさ。」

「あれだろ?ルイが背後取られたと思って思わず割って入った感じだったよな。」

「でもあれ、ルイがわざとに誘い込もうとしてたからな…。」


マサルはその話を聞き思わず眉根を顰める。

思わずマサルの様子に何か失言があったのではないかと、

冒険者たちは、身を固くし俯した。


「いやいや、申し訳ない。何も別に君たちを責めている訳じゃないんだ。

 そんな心配してくれてありがとう。ルイはいい人たちに愛されているようだ。

 約束するよ、僕も含めて師の誰にもルイ君はこの件で強い叱責はさせない。

 だから、君たちもそんな顔せずに酒を楽しんでくれ。」


マサルが笑顔でそう告げると、

それまで周囲で様子を窺っていた者たちも含めて、安堵に胸を撫で下ろした。


「ここだけの話にして欲しいんだけど、後で、こっそり僕も酒場に戻ってくるから、

 僕の知らない普段のルイ君の話を聞かせてくれると嬉しいよ。」

「そんな事、容認する訳ないだろう。立場を弁えろ。」

「あらら…ダメみたい。僕が王様なんかほっぽり出したら改めてゆっくり飲もうね。」


問答無用に首根っこを掴まれ、レオンに引き摺られてその場を後にするマサルは、

話を聞かせてくれた冒険者たちに笑顔で手を振る。


「…それにしても困った生徒だね。」

「お前も含めてまったく困った物だ。」


マサルと同様に、粗方何が起こったのか把握できたレオンは、

マサルへの皮肉も忘れることなく同意し、目元を揉みほぐす様にして嘆息する。


「マサルがルイに色々問いかけていた時、

 ルイは"油断した"と口にしたのは俺も耳にしていた。」

「うん、確かにそう口にしていたね。

 きっと彼女の接近に対して対処できなかった事で、自分を責めているんだね。」


引き摺られるままマサルは大袈裟にため息をついて見せる。


「怪我をした彼女はナルシェと言うんだが、

 行方不明時の資料に種族水準(レベル)が記載があってな…。」

「その言い方だと、ルイ君に程近い種族水準(レベル)ではなさそうだね。」

「ああ、記載内容では82だ。遠征でいくらか伸びているかもしれないがな。

 もうすぐC級に届く腕も持ち合わせているらしい。」

能力値(ステータス)差に物を言わせて割り込まれたら、

 今のルイ君ではどうする事も出来いだろうに。

 これは流石に叱責するのも気が引けるねぇ。」


レオンから解放されたマサルは、困った生徒だよ、と再びこぼし頬を掻く。


「ああ、ルイに否が無いどころか。ナルシェが余計な真似して勝手に怪我をした。

 さらに悪いことに、その事でルイは自身を責めている。

 そう言う訳だ、流石に"お前"の堪でも想像が及ばなかったか?」


吹き荒れる怒気が収まる気配こそ当然ないが、

先ほどまでは確かに無かった焦燥感がエドガーの表情から窺える。

マサルは悪戯めいた笑みでそんなエドガーの顔を眺めて笑みを浮かべていた。


「いや…だってよ。あの馬鹿弟子がやっちまったって顔してやがったから…。

 十中八九油断してなんかやらかしたと思うじゃねーかよ。

 あの馬鹿弟子…温いとか厳しいとかじゃねー。それは"無理"だ。」

「二倍や三倍とかならいざしらず、比べるのも馬鹿らしいほどの能力値(ステータス)差なんて、

 ルイ君には誤差って事なんだろうさ。

 それも踏まえて自分の油断が原因と言い切るかぁ……向上心が高いというか無謀だね。

 若い頃の誰かさんにそっくりだ。」

「…自分にやたらめったら厳しいところは、確実に"誰かさん"の悪影響だろうな。」

「やれやれ、こんな事なら妾がもっと早くハンニバルに来ておれば良かった。」


落ち度など何もないルイを、突き放す様に叱責してしまったエドガーは、

苦虫を潰した様な表情を浮かべる。

マサル、レオン、リズィクルからの容赦の無い嫌みは、

ガリガリとエドガーの罪悪感に苛まれている胸の内をえぐりとる。


「もしもーし、可愛い後輩ちゃんの一大事でみんながそっちに集中したいのはわかるっす。

 だけどこの馬鹿は放置しても溶けて消えてなくなる訳じゃないんすから、

 しっかり始末つけて落ち着いた上で、ゆっくり後輩ちゃんの事は考えた方が良くないっすかぁ?」


そんな"弟子煩悩"な四人がいつまで経っても、

足元に転がる無法者の対処にのりださない事に、

呆れたとでも言わんばかりに手をひらひらさせ、大袈裟に頭を抱える。


そんな茶番染みたルイの師たちのやり取りの中、

顔色を青く身悶える愚か者たちは"ずっとあてられている"殺気の群れに怯え打ち震えていた。



モセロ

「うおぉぉおお、前回の後書き忘れてた。」

カチェス

「いやいや、そんな言葉で騙されないわよ。⑥で終わらないってどういう事?」

モセロ

「あとで後書きかかねーとな。」

カチェス

「⑧まで行かないのを願ってるわよ。」


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